地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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冥王と仕事と

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「今日も仕事かー、面倒くさいぜ」

 そうやってサトリは溜め息を吐きながら手元の資料を見つめる。

「ちゃんと働いてくださいね、サトリ兄さん」

 殺は疲れきったかの様な態度……いや、実際に疲れきっていた。
 サボらない様にと釘を刺しながら暫し雑談を交え作業を進めていく。
 時々だがお茶菓子を食べながら仕事を片付けていく。

 今日はその時々の日が来た。
 冥王が鼻歌まじりに機嫌良さそうに自家製のマカロンを持ってきたのだ。
 マカロンを見た陽は少し嬉しそうに書類を片付ける速度を上げる。
 仕事を終えた殺たちは我先にとマカロンに手を伸ばした。
 その光景は戦争を彷彿とさせる様なものだ。

「御影!離せ、それは僕のマカロンだ!」

「だが断る!」

 何故ここまで戦争が酷いのかというと、冥王が作るお菓子はプロを超えているのでは?と疑問を生じさせるほどの腕前だからだ。
 当の冥王は戦争を小夜子と楽しそうに一緒に見つめている。
 小夜子は嬉しそうにお茶を飲みながら冥王とお喋りを楽しんでいた。
 そして美鈴が「お茶を淹れましょう」そうやってドタバタと忙しそうにお茶を淹れる準備を始める。

 そう、これが平和というものだ。
 疲れきったところに甘いお菓子は最高といっても過言ではない。
 殺はマカロンを食べながら戦争を傍観する。
 醜い争いはお菓子が無くなるまで続いていく。
 最後のお菓子になると平和な解決方法でジャンケン大会が開かれるのが恒例だ。

 今回のジャンケン勝者はサトリであった。
 サトリは幸せそうにマカロンをじっくりと法張り満足したかの様にドヤ顔を披露した。
 見事なドヤ顔を決めた彼に皆で嫌がらせの如く仕事を積み重ねていく。
 サトリは「さーせん!調子に乗りすぎました!」と大声をだして悲壮感が溢れる表情をしていた。

 時間はゆっくりと進む。
 冥王の相手をちょくちょくしながら仕事を片付けていく。
 何故に冥王を構うかって?
 答えは簡単、寂しがりやだからだ。
 冥王は今の今まで一人ぼっちだったから人一倍の寂しがりやなのだ。
 一人が怖い彼は毎回、人殺し課に襲撃を大義名分として掲げてやってくる。

 皆は事情を分かりきっていたから、たとえ煩くてもそれなりに相手をしていた。
 冥王はそれが嬉しいのだろう。
 まるで犬の様に愛らしい表情を浮かべては、楽しそうに必死にお喋りをしている。

 冥界での近況報告。
 最近では家庭菜園を始めたらしい。
 冥界産の野菜はなかなか珍しくて高値で売れる。
 何せ冥界は植物が育ちにくい場所で成功したらそれはそれは絶品の野菜が収穫される。

 この前は冥王が家庭菜園で育てた野菜をお裾分けで貰い、調理して人殺し課の皆で食べたことがある。
 自然の恵みのあまりの美味さに、皆が言葉をなくしたほどだ。
 冥王は皆が喜ぶ姿が見たくてお菓子作りや野菜作りに励んでいる。

 冥王はずっとニコニコと笑顔を振りまきながら仕事を手伝う。
 周りの役に立ちたいと思っているのだ。
 今まで人の災いにしかならなかった分、今を大切に生きている。
 その姿は見ていて圧倒されていく。
 これが生き様か……。
 冥王の生き様とは人の役に立つ、周りを笑顔にして自らも笑うことだ。

 彼はまだまだといった風に頑張っているが、もう充分に周りを笑顔にしている。
 現に人殺し課は今、笑顔に包まれている。
 こんなに爽やかな人殺し課は本来なら拝めはしないだろう。

 冥王は皆の笑顔が好きだ。
 今まで人を不幸にしてきた分、幸せを噛み締めていたいのだ。
 彼はお菓子作りに家庭菜園……。
 様々なことに挑戦をして普通を学ぶ。
 彼には今まで普通がなかったのだ。
 だから冥王は物事に対して積極的に取り組んでいく。
 その姿を眺めるだけで励みになり、皆はもっと頑張ろうと思っていく。

 さぁ、仕事だ。
 殺はテキパキと仕事をこなして裁判所へ向かう準備をする。
 彼は裁判所に行くのは面倒だが閻魔張本人に会いに行くのは楽しみといったところだ。

「じゃあ、私はこの書類を閻魔大王に渡して来ます」

 そうやって開かずの間から出ていくのを見送って数名が仕事をサボり始めていく。
 Mと御影とサトリが仕事をサボって書類を貯めてる犯人だ。
 殺はいつも呆れと怒りが混ざった表情で三人を説教している。
 今日もサボるという意味でゴロゴロしてたのが気になったのか冥王が「何で仕事をサボるのか?」と訊いてきた。
 三人は声を揃えて一言。

「「「後でやる!」」」

 そう叫ぶ。
 この中で唯一まともな陽に冥王は「何か言わないのか?」とまた疑問符を浮かべる。
 陽もただ一言。

「もう諦めました……」

 とんでもない発言を聞いた気がした冥王は更にあることに気づいた。
 三人が自分の書類を少し殺の机に置いていたのだ。

 流石の冥王も少し怒る。
 殺に押し付けるのは駄目だと。
 だが説教は効果無し……。
 殺はとても疲れきっているだろう。
 そんな時に仕事が増えるのは辛いだろうな……。
 冥王はどうすれば?そう考える。
 その結果が自分が仕事を手伝うだ。
 人殺し課には恩があるし、何より自分を仲間と認識してくれている。
 手伝わない理由がない。

 冥王は目の前の書類とにらめっこしながら少しずつ確実に仕事を進めていく。
 そしてついでに疲れきっている陽の書類を奪い取り、これまた見事に片付けていく。
 その必死な表情は流石に馬鹿トリオに罪悪感を持たせる。
 三人は結局仕事をすることにした。

 順調に終わる仕事……。
 すると殺が裁判所から帰ってきた。
 開けにくい開かずの間の戸を力を調節しながらあける。
 殺は疲れきった顔で机を眺めた。
 その瞬間、殺は混乱した。

 仕事が全部片付いている?嘘でしょう?

 だが冥王の嬉しそうなドヤ顔を見て目の前の光景を現実と判断する。
 殺は一直線に冥王の下へ向かい人間界で流行っていたスライディング土下座を披露した。

 それを見た冥王は頭を上げろと言いながら混乱するが、殺は只管「ありがとうございます!」と深々と頭を下げている。
 殺は幸せそうな顔をしながら「冥王様も一緒に仕事をしませんか?」そう訊いてみる。
 冥王はすぐさま嬉しそうに首を縦にふる。
 幸せそうな空間が広がるがそれは長くはなかった……。

「馬鹿共……」

 サトリとMと御影が固まる。
 幸せそうな雰囲気のうちに逃げだそうとした様だが失敗をしてしまっている。
 殺は気づいていた、三人が仕事をサボろうとしていたことに。
 殺は御構い無しに笑顔で言葉を続ける。

「ちょーっと、表に出てください」

「「「……は、はーい」」」

 三人と殺が外に出て数分後に悲鳴と喘ぎ声が聞こえたが、冥王と陽と小夜子は聞かなかったことにした。
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