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茶を淹れよう
しおりを挟む雨未は茶を淹れる。
大切な主を思いながら丁寧に茶を湯呑みに注いでいく。
いつも仕事で疲れているあの人を癒す茶を淹れる為に日々精進していくのだ。
だが雨未は普通のお茶でいいのかと頭を悩ます。
だって普通のお茶には疲れを癒す効果はあまりなかったりするから。
それでも主は「疲れが吹き飛ばされます。ありがとうございます」そう言ってくれる。
だから疲れて帰ってくる主をなんとか癒したい。
そう雨未は願う。
「そうだこんな茶を淹れてみよう」
真面目な顔をして何かを考えている彼は少し楽しそうだった。
「ぶふぁぁぁぁぁぁ!!」
「殺様!如何したのですか?!」
雨未はいきなり茶を噴き出した殺に心配そうに駆け寄る。
当の本人の殺は茶を噴き出したもののいったい何が起こったのかわからず只々混乱を極めているだけであった。
だが殺は一つ訊ねなければならないことがあった。
それを訊く為に殺は口を開く。
「……その茶にはいったい何が入っているのですか?」
口の中に広がる緑茶の苦味と何かの甘ったるさ。
生き物とは予想していない味がいきなり来ると訳がわからなくなるものだと後に殺は語る。
「チョコレートケーキです!」
「は?」
思わず殺は訊き返してしまった。
彼は何を言っているのだと本気で思ってしまった。
だが目の前の雨未は至って真面目な顔である。
「チョコレートは疲れを取る効果があるので。殺様チョコレートケーキ好きでしょう?」
「いやいや!好きですけど!何か違う!」
殺は大きな声でツッコミを入れる。
殺も必死なのがよくわかるものだ。
「自信作だったのですが……」
「……甘いものを茶に入れるのはやめた方が良いですね」
残念そうに自信作だったと呟く彼に殺は罪悪感を覚えながらも変な茶をさり気なく拒否する。
変な茶を飲むのは流石に危険と判断したからだ。
「次は頑張ります!」
「そうですね。……って次?」
殺が疑問を持つ前に颯爽と雨未は殺の自室から去っていく。
他の同僚が部屋から出た彼の姿を見るのだが、その姿はどこか気合いに満ち溢れていたという。
「ぶふぁぁぁぁぁぁ!!」
「殺様!!」
今日もおそらく変な茶を淹れて来たのだろう。
口の中が変に苦すぎる。
二日連続でおかしな茶を淹れてくるとは逆に凄いと殺は静かに思った。
「……今日のは何ですか?」
「甘いものが駄目だったので漢方を沢山入れました!」
「体を気遣ってくれるのは良いですが、茶は……」
そう言おうとしたときだった。
ちらりと雨未の顔が見えてしまう。
それはまたやってしまったと言わんばかりのショック顔であった。
こうなればもう何も言えない。
家族を悲しませたくないのだから。
「あー!美味しかったですよ!ありがとうございます」
「本当ですか?良かった!」
もちろん美味しかったなんて嘘だ。
それでも雨未の笑顔を見る為に優しい嘘をつく。
「明日からも頑張ります」
殺は明日から耐えることが増えたと一人で悩んだ。
「ぶふぁぁぁぁぁぁ!!」
三日目も四日目もその後も茶を噴く。
その度に「美味しすぎてつい」などと適当な嘘をついていく。
だがそれも長くは続かない。
ある日気づくのだ。
本当は茶が不味いのではないかと。
「はぁー……。殺様に無理をさせてしまっているかな?」
そう一人で雨未は呟く。
すると人の影が部屋にうつる。
「よー!どした?」
「料理長!聞いてくれませんか?」
現れたのは同僚で料理長をしている者だった。
今まであったことを雨未は料理長に相談する。
すると……。
「最初らへんの漢方入りが惜しいな」
「え?」
「だって普通にあるよ、薬のお茶」
「……ぇぇぇぇぇえ!!」
雨未は自分のお茶に答えがあったことに気づき何をやっているんだと自分を怒りたくなった。
「今度、手に入れて来てやるよ!」
「料理長!ありがとうございます!」
雨未は笑顔でお礼を言う。
これで主を困らせないと喜び笑う。
「殺様、お茶を淹れました」
「……ありがとうございます」
殺はまたなのかと思いながら雨未の期待の目を裏切らない様に恐る恐る茶を啜る。
「……美味い!」
「良かった!」
雨未は嬉しそうな顔をする。
その瞬間に殺は雨未が自分の為にここまでやってくれたことに感謝した。
人を思いやり人の為に動くとは何と良い子に育ったのだろうか。
「よく頑張りましたね」
ぽんぽんと殺は雨未の頭を撫でる。
撫でられながら雨未はお茶の効果を話していた。
殺の体がとても心配だったことも。
「私の心配をしてくれていたんですね。本当に貴方は良い子だ、ありがとう」
殺は優しい声で褒める。
雨未はその瞬間に喜びに満たされる。
嗚呼、貴方の役に立てたのだと。
明日はどんな効果の茶にしようか?
雨未は悩む。
大切な人の為に悩めるのは幸せなこと。
だから雨未はこの日常を大切に生きることを誓う。
だってそれが彼の方の願いだから。
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