地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

文字の大きさ
67 / 167

とある幸せな主従

しおりを挟む

「殺ちゃん、休日欲しくない?」

「……!良いのですか?」

 彼はにこやかな笑みで訊ねた。
 もう許可はおりているみたいなものだがそれでも彼は閻魔に小さな声で訊ねる。
 仕事漬けで疲れ切って掠れた声だが、どこか歓喜を含んでいる。
 閻魔殿で殺は書類を持ち、立ったまま待望の眼差しを閻魔に向けた。

「良いよ。いつもお疲れ様、ゆっくり休みな」

 閻魔はいつもの無邪気な笑顔で優しく言い放つ。
 休み、その言葉に胸を躍らせて殺は鼻歌を歌ってしまった。
 いつもは殺の怒号が響く閻魔殿に殺のリズミカルな鼻歌が響き渡る。
 普段は馬車馬の様に働かされる彼は休んでいいという言葉だけでご機嫌になってしまう。

「いつが休日ですか?」

 楽しみそうな声で彼は訊いた。

「明日で良いよ」

 そう言い終わる前に既に彼は目を輝かせていた。
 普段は光の灯らない闇を見据える紅い眼差しが光り輝くのは案外滑稽なことだと閻魔は語る。
 紅いのに暗いその瞳に光が宿ったことで閻魔は安心する。
 彼もまだ子供なのだと。

「では急いで残りの仕事を片付けてきます。閻魔大王はくれぐれもサボらない様に」

「はいはい、頑張ってね」

 閻魔は手をひらひら振り殺に返事をする。
 仕事場に帰る彼はとてもご機嫌で、普段の不機嫌な殺に慣れている職員は槍でも降るのではないかと心配したそうな。

「明日は殺ちゃんが居ないのか……」

 閻魔は少し寂しそうに呟いた。
 だがその声は誰にも聞こえるわけでもなく広い閻魔殿に反響して消えるだけであった。


~~~~


「おはよう」

 閻魔は職員たちに笑みを振りまき挨拶をする。
 時が経つとは案外早いものだ。
 昨日、殺に休んでいいと言った昼がもう次の日の朝になっている。
 閻魔はまた明日に会えるのだから、そう自分に言い聞かせて自分の身長より大きな玉座に座った。

「書類にも目を通さないと……面倒くさい。少し休むか」

 起きて早々何もやっていないのだが彼は仕事を面倒くさがる。
 仕事が大好きな者でない限りは普通のリアクションだが、やらなければならない。
 朝は早起き、すぐ仕事……嫌な生活だと閻魔は言う。
 だがそれでも彼と一緒なら閻魔は頑張れていた、今日休みの彼となら。

「ってヤバい!仕事サボったらまた殺ちゃんに怒られる!……居ないんだった」

 閻魔は一人で仕事をする。
 いつもは彼が怒っている時間だ、昼寝をするなと。
 思えばいつも怒られていてばかりだったなと閻魔は笑う。

『お菓子を食べ過ぎです。糖尿病になったら如何するのですか!!』

『昼寝をしないでください!仕事が溜まってるのがわからないのですか?!』

『我儘を言わないでください。これでも私は苦労して貴方を支えているのですよ!』

『王ならば皆の見本になる様に心がけてくださいね!』

 閻魔はまた笑う。
 殺の怒号は日常だと。
 思えば自分は何千年も誰かに叱られたことは無かった。
 だが彼は他の者とは違った。
 人を統べる王として生きねばならない、だからこそ彼は閻魔を叱った。
 久しぶりに叱られた閻魔は最初の頃はよく拗ねていたものだ。
 だけど、それは暖かい思い出。
 統率者として、一人の存在として彼は認めて叱ってくれていた。
 それがありがたかった。

 彼は閻魔を叱る。
 だけど、それだけでは無い。
 褒める。彼は人の良い所を探し出し褒めるのだ。
 閻魔も何回も、何万、数え切れない程に褒められてきた。
 それはもうこっ恥ずかしく思えるほどに。
 そうだ、彼との思い出なら数え切れない程にある。
 なにせずっと一緒に居たから。
 殺が小さな時からずっと……。

 それらの思い出を閻魔は大切にする。
 彼と永遠を重ねて守りたいのだ。
 嗚呼、今日は彼は居ない。
 仕事を絶対に休めない閻魔は一人でもの寂しさと消失感に打ちひしがれる。

 彼は居なくなったわけではないのに消失感に苛まれる。
 思えばいつもそうだ。
 彼が休日になる度にこんなに寂しい思いをしている。
 彼と一緒じゃない日をどれほど恨んだことか。
 だが殺にだって休日を与えなければならない。
 だから仕方ない、無茶をしてほしくないのが本音なのだから。

 だから思うことにした。
 殺を待つことを楽しみに思うことにした。
 楽しい日々を待つことはとても楽しいもの。
 時の針が一秒一秒進む度にドキドキと胸が高まっていく。
 こんなにも寂しいけど、こんなにも楽しみとはなかなか可笑しいものだ。

 閻魔は順調に亡者を裁いていく。
 少し気分が悪くなる命乞い。
 だけど彼と会える日が来るのが楽しみで。
 残酷に裁いていく。
 嗚呼、時の針よ早く進んでくれないか?
 そう思って一日を終えていく。


~~~~


 夜が来れば寝るだけ。
 そうすれば朝早くに彼がいつもの真顔で「おはよう」と言ってくれる。
 それを思うと自然と笑みがこぼれてしまう。
 早く見たい、その不機嫌な真顔を。
 怒られるのも大好きだ。
 褒められるのも大好き。
 貴方と一緒に世界の果てを見てみたくてと閻魔は呟く。

「早く明日になれ。彼とまた笑いあいたいんだ」

 普段は笑わない殺の笑顔を想像しながら閻魔は深い眠りについた。


~~~~



「おはようございます、閻魔大王」

「おはよう、殺ちゃん」

 彼はまた真顔でおはようと言う。
 それが何だか可笑しくて少しだけ笑ってしまったことは内緒だ。

「……私が居なくて寂しかったですか?」

「とても寂しかったよ」

 彼は見透かした様に訊ねてきた。
 だから素直に寂しかったと答えてやる。
 それは彼の満足のいく答えな様で休日を言い渡した時より上機嫌になっていた。

「まったく、私が居なければ駄目なのですから」

「そうだね、君と居れば完璧だ」

 閻魔は笑顔で恥ずかしげもなくさらりと言葉を返す。
 それも殺にとっては当たり前な返答だ。
 一緒に世界の果てを見る、守りたいものを守る。
 昔にそんな約束をした。
 だからずっと一緒。
 永遠を生き続けて笑いあう。
 それが二人の願い。

「さあ、仕事をしますよ。絶対にサボらない様に」

「善処しまーす」

 その後、勿論だが殺に叱られる閻魔が度々目撃される。
 だがそれでも閻魔は幸せそうに笑っていた。
 だって幸せだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。 勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。  辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。  だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...