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とある幸せな主従
しおりを挟む「殺ちゃん、休日欲しくない?」
「……!良いのですか?」
彼はにこやかな笑みで訊ねた。
もう許可はおりているみたいなものだがそれでも彼は閻魔に小さな声で訊ねる。
仕事漬けで疲れ切って掠れた声だが、どこか歓喜を含んでいる。
閻魔殿で殺は書類を持ち、立ったまま待望の眼差しを閻魔に向けた。
「良いよ。いつもお疲れ様、ゆっくり休みな」
閻魔はいつもの無邪気な笑顔で優しく言い放つ。
休み、その言葉に胸を躍らせて殺は鼻歌を歌ってしまった。
いつもは殺の怒号が響く閻魔殿に殺のリズミカルな鼻歌が響き渡る。
普段は馬車馬の様に働かされる彼は休んでいいという言葉だけでご機嫌になってしまう。
「いつが休日ですか?」
楽しみそうな声で彼は訊いた。
「明日で良いよ」
そう言い終わる前に既に彼は目を輝かせていた。
普段は光の灯らない闇を見据える紅い眼差しが光り輝くのは案外滑稽なことだと閻魔は語る。
紅いのに暗いその瞳に光が宿ったことで閻魔は安心する。
彼もまだ子供なのだと。
「では急いで残りの仕事を片付けてきます。閻魔大王はくれぐれもサボらない様に」
「はいはい、頑張ってね」
閻魔は手をひらひら振り殺に返事をする。
仕事場に帰る彼はとてもご機嫌で、普段の不機嫌な殺に慣れている職員は槍でも降るのではないかと心配したそうな。
「明日は殺ちゃんが居ないのか……」
閻魔は少し寂しそうに呟いた。
だがその声は誰にも聞こえるわけでもなく広い閻魔殿に反響して消えるだけであった。
~~~~
「おはよう」
閻魔は職員たちに笑みを振りまき挨拶をする。
時が経つとは案外早いものだ。
昨日、殺に休んでいいと言った昼がもう次の日の朝になっている。
閻魔はまた明日に会えるのだから、そう自分に言い聞かせて自分の身長より大きな玉座に座った。
「書類にも目を通さないと……面倒くさい。少し休むか」
起きて早々何もやっていないのだが彼は仕事を面倒くさがる。
仕事が大好きな者でない限りは普通のリアクションだが、やらなければならない。
朝は早起き、すぐ仕事……嫌な生活だと閻魔は言う。
だがそれでも彼と一緒なら閻魔は頑張れていた、今日休みの彼となら。
「ってヤバい!仕事サボったらまた殺ちゃんに怒られる!……居ないんだった」
閻魔は一人で仕事をする。
いつもは彼が怒っている時間だ、昼寝をするなと。
思えばいつも怒られていてばかりだったなと閻魔は笑う。
『お菓子を食べ過ぎです。糖尿病になったら如何するのですか!!』
『昼寝をしないでください!仕事が溜まってるのがわからないのですか?!』
『我儘を言わないでください。これでも私は苦労して貴方を支えているのですよ!』
『王ならば皆の見本になる様に心がけてくださいね!』
閻魔はまた笑う。
殺の怒号は日常だと。
思えば自分は何千年も誰かに叱られたことは無かった。
だが彼は他の者とは違った。
人を統べる王として生きねばならない、だからこそ彼は閻魔を叱った。
久しぶりに叱られた閻魔は最初の頃はよく拗ねていたものだ。
だけど、それは暖かい思い出。
統率者として、一人の存在として彼は認めて叱ってくれていた。
それがありがたかった。
彼は閻魔を叱る。
だけど、それだけでは無い。
褒める。彼は人の良い所を探し出し褒めるのだ。
閻魔も何回も、何万、数え切れない程に褒められてきた。
それはもうこっ恥ずかしく思えるほどに。
そうだ、彼との思い出なら数え切れない程にある。
なにせずっと一緒に居たから。
殺が小さな時からずっと……。
それらの思い出を閻魔は大切にする。
彼と永遠を重ねて守りたいのだ。
嗚呼、今日は彼は居ない。
仕事を絶対に休めない閻魔は一人でもの寂しさと消失感に打ちひしがれる。
彼は居なくなったわけではないのに消失感に苛まれる。
思えばいつもそうだ。
彼が休日になる度にこんなに寂しい思いをしている。
彼と一緒じゃない日をどれほど恨んだことか。
だが殺にだって休日を与えなければならない。
だから仕方ない、無茶をしてほしくないのが本音なのだから。
だから思うことにした。
殺を待つことを楽しみに思うことにした。
楽しい日々を待つことはとても楽しいもの。
時の針が一秒一秒進む度にドキドキと胸が高まっていく。
こんなにも寂しいけど、こんなにも楽しみとはなかなか可笑しいものだ。
閻魔は順調に亡者を裁いていく。
少し気分が悪くなる命乞い。
だけど彼と会える日が来るのが楽しみで。
残酷に裁いていく。
嗚呼、時の針よ早く進んでくれないか?
そう思って一日を終えていく。
~~~~
夜が来れば寝るだけ。
そうすれば朝早くに彼がいつもの真顔で「おはよう」と言ってくれる。
それを思うと自然と笑みがこぼれてしまう。
早く見たい、その不機嫌な真顔を。
怒られるのも大好きだ。
褒められるのも大好き。
貴方と一緒に世界の果てを見てみたくてと閻魔は呟く。
「早く明日になれ。彼とまた笑いあいたいんだ」
普段は笑わない殺の笑顔を想像しながら閻魔は深い眠りについた。
~~~~
「おはようございます、閻魔大王」
「おはよう、殺ちゃん」
彼はまた真顔でおはようと言う。
それが何だか可笑しくて少しだけ笑ってしまったことは内緒だ。
「……私が居なくて寂しかったですか?」
「とても寂しかったよ」
彼は見透かした様に訊ねてきた。
だから素直に寂しかったと答えてやる。
それは彼の満足のいく答えな様で休日を言い渡した時より上機嫌になっていた。
「まったく、私が居なければ駄目なのですから」
「そうだね、君と居れば完璧だ」
閻魔は笑顔で恥ずかしげもなくさらりと言葉を返す。
それも殺にとっては当たり前な返答だ。
一緒に世界の果てを見る、守りたいものを守る。
昔にそんな約束をした。
だからずっと一緒。
永遠を生き続けて笑いあう。
それが二人の願い。
「さあ、仕事をしますよ。絶対にサボらない様に」
「善処しまーす」
その後、勿論だが殺に叱られる閻魔が度々目撃される。
だがそれでも閻魔は幸せそうに笑っていた。
だって幸せだから。
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