地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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とある孤児の独白

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「殺様、おかえりなさいませ」

「ただいま」

 今日も殺様は遅い時間に帰ってくる。
 それはいつも皆んなの為に仕事を頑張っている証拠でそれに僕らはとても尊敬しているんだ。
 僕らは皆が殺様に感謝している、孤児の僕らを拾ってくれた殺様に。

 今でも僕は覚えている。
 殺様に拾われた日のことを鮮明に。




 あれは雨の降る日のことでした。
 僕には家がなかった、だから雨をしのげる場所を探して歩いていたのです。
 人の気配のない場所を只管歩く。
 どれ程まで歩いたでしょうか?子供だった僕にとっては沢山歩いたつもりで疲れていました。
 そうしたら一際目立つ豪華な建物が見えてきたのです。

 僕みたいな生活の者が風邪をひいたら病院に行けないので大変なのは目に見えてました。
 実際に昔、風邪を悪化させてしまって死にかけたことがありましたからね。
 風邪でも侮れません。
 だから僕は断られる覚悟でその豪華な建物へ行き雨宿りをさせてくれないかと訊くことにしました。

 フードを深く被り、ふらふらな足取りで建物まで歩く。
 もはや疲れすぎて走ることさえ出来ませんでした。
 この立派な門構えの建物に住む人はどんな人だろうかと不安で仕方なかった。
 それでも、もう限界だったのです。
 僕は門をくぐりました。

「すいません、誰か居ませんか?」

 扉の前で僕は叫びました。
 ご飯も食べてなかったので体力があまりなくその場でしゃがみこんで返事がくるのを待っていました。
 これで断られたらどうしよう?そもそも断られるだろうな……そう考えてただ返事を待つ。
 すると後ろから声が聞こえてきたのです。

「貴方……どうしたのですか?取り敢えず中へ入りなさい」

 これが初めての出会いでした。


~~~~

 長い廊下を歩……いや、抱えられて進む。
 あの後に実は疲労の限界を迎えて倒れてしまったのです。
 お恥ずかしい限りで。
 殺様は雨で濡れて土で汚れた僕を何の躊躇いもなく抱え上げて暖かい部屋まで運んでくれました。

「貴方は何をしに来たのですか?」

 表情も崩さない端正な顔に見惚れながら「雨宿りをしたいのですが」と僕は言いました。
 すると殺様は雨宿りの許可を与えてくれただけではなくご飯の用意をしてくれたのです。
 普通ならこんな汚い子は嫌がられるのに、とてもありがたかった。

 おそらく殺様は僕を見て何日もご飯を食べてないことに気づいたのでしょう。
 従者……後の同僚となる方に出来るだけ食べやすく量を多く作れと指示を出していました。
 何日も食べてなかったら固形物が食べ辛いのを気遣ってくれたのです。
 久しぶりの食事は豪華で暖かいものでした。
 一口食べたら本当にこれは現実なのか?と疑ってしまう程に暖かかった。

 僕は夢中でご飯を食べました。
 美味しくて幸せで何故か涙が溢れました。
 今まで満たされなかった何かが満たされた気がして涙が止まらなかったのです。
 殺様は少し微笑みながら「泣かなくていいのですよ。今までよく頑張りましたね」そう言って涙を拭ってくれました。

 その手が優しくて本能で離したくないと思いました。
 初めて人の優しさに包まれて僕は拭っても拭いきれない程に泣きました。

 食事を終えれば殺様は風呂を用意してくれていました。
 何日も風呂に入っていないことと風邪をひいてはいけないからと用意してくれたのです。
 風呂は流れ作業の様にいつの間にか入っていました。
 殺様に背中を流されていたのが僕の思い出です。
 風呂は暖かくて眠ってしまいそうになりました。

 風呂から出れば服が用意されている。
 当たり前ではないことに僕はついていけていませんでした。
 上質な布で出来た服は着心地がとても良くて思わず嬉しさで笑顔になっていました。
 そんな僕を見て殺様は笑顔になる。
 とても優しいんです、あの方は。

「今日は疲れたでしょう。休んでいきなさい」

 そうやって案内されて着いた部屋は布団が敷かれていました。
 とてもふかふかな布団だったことを覚えています。
 僕は眠かったのでついつい布団の上で眠ってしまいました。

~~~~

 鳥の鳴き声と朝の眩しい光に起こされる。
 僕はいつもと違う朝に若干戸惑いつつも前日のことを思い出して納得しました。
 そして今日からまた元の生活に戻ることに疲れを感じてました。
 長くはとどまれない、それが当たり前ですから。

「おはよう、いい朝ですね」

 僕は声の方向を見る。
 真面目な顔をしている殺様が障子を開けて立っていたのです。

「……昨日はありがとうございました。もう出て行きますので……「うちで働きませんか?」

 私が言い終わるのを待たずに働きませんかと殺様は訊ねてきました。
 寧ろ出て行くと言わせまいといった感じでした。

 いきなりのことに戸惑っていると何かが僕の前に差し出されたのです。
 それは将来は見慣れることとなる従者の制服でした。 

「それを着て働くのは楽しいですよ。うちの家族は優しいですし」

 家族。
 従者を家族と呼ぶ殺様は穏やかな顔をしていました。
 僕はこの人についていきたいと直感で思いました。
 昨日、出会ったのは運命だと信じることにしたのです。

「ここに居ていいのですか?」

「もちろん」

 僕は嬉しくて泣いてしまいました。
 そんな僕を殺様は優しく抱きしめてくれる。
 久しぶりの温もりだった。

「貴方様の名前が知りたいです」

「私は殺です」

殺と名乗る貴方は優しかった。

「貴方の名前は?」

「……僕に名前などありません」

 あの頃の僕には名前がなかった。
 自分が生まれた直後に親を亡くして名前がつけられなかった。

「ならば私が名付けましょう。雨の日に出会ったから雨未、雨と未来で雨未」

「雨未……僕の名前」

「雨の日に出会ったから、そして幸せな未来を歩んでほしいからです!」

 少し大きな声でそう貴方は言いました。
 殺様は僕に名前をくれた、大切な宝物をくれたのです。
 名前だけじゃない、今もいっぱい宝物をもらっています。

 殺様、貴方との出会いは僕の宝物です。
 僕は貴方と、家族と一緒に此れから先も生きていきたい。
 そう思える様に生きさせてくれて『ありがとうございます』


~~~~


「新しい家族がまた増えますよ」

 そう貴方は笑う。
 新しい家族、それはどんな子だろうか?
 また貴方は人を救って笑うんだ。
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