地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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救い

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「お前は優しいな」

「はぁ?」

 殺は陽にかけられた言葉に呆然とした。
 優しいなんて自分が言われるわけがない、彼はそう思っていた。
 だが目の前の陽は微笑んで書物の整理をする。
 今日は閻魔の珍しい粋な計らいで殺と陽は二人きりで書物庫の整理をしていた。

 最近では皆の目が妙に生温かくて落ち着くことが出来ないと殺は考える。
 それにしても何故、陽は殺に優しいなどと言ってきたのだろうか?
 殺は一人で疑問を抱える。

「何故、私が優しいと?」

 疑問を抱えていても仕方がない。
 殺は直接的に陽に訊くことにした。
 すると陽はまた笑う。

「だってお前は僕を救ってくれた」

 目の前の人物は幸せそうにそう言った。
 殺は人を助けることは常に考えている、だが感謝されるとは夢にも思わなかった。
 自分は地獄の為とはいえ人を殺している。
 間違ってはいない行為だと自負はするが、それは恨まれることだとは思っている。
 だがそれでも眼前の人物は笑顔で近づいてくる。

「お前は人を導く、僕を、誰かを導くんだ」

 導く、確かそんなことを彼に言った。
 それは忘れてはいなかった。
 忘れてはいけない、大切な約束。
 目の前の陽は少しだが顔を真面目にする。
 先ほどまでの穏やかな表情とは違う、真剣な顔。

「お前、心は大丈夫か?」

 唐突な質問だった。
 何故、自分が心配されるかわからない。
 だが、その質問をされた瞬間に胸が苦しくなる。
 不安が襲う、吐き気、目眩。
 全てが眩んでいく。
 この感情は何だろうか?一人不安定の中を漂う。
 だけどその時だった。

「大丈夫だからな」

 ふわりと体が動いていく。
 すぐさまそれが抱き締められたからだと殺は理解した。
 恋人から抱き締められる、それはとても幸せだった。
 陽は話を続ける。

「偶には僕と一緒に休まないか?一人は怖いだろう?」

 休む。
 殺の人生は常に何かの為にあった。
 だからこそ本当の休息など、どこにもなかった。

「お前はこれからはゆっくり出来るんだ。皆が苦しみを軽減してくれる。皆はお前が大好きだ。だからこそ皆はお前の前で笑顔になるんだ」

「笑顔……」

 思い返せば殺の周りは皆が笑顔だった。
 殺はさっきとは違う感情に胸が支配される。
 心が温かくなる、幸せになる。

 人の心は壊れば治りにくい。
 だが殺の心は壊れてはいても完全には壊れてはいなかった。
 だから治る。
 きっと、優しい仲間が治してくれる。
 彼にはそんな大切な人達が出来た。
 だからきっと大丈夫だ。

「これで書物庫の整理は終わりだな」

 大変だった作業を終えれば人殺し課へ帰るだけ。
 少しだけの二人きりの時間が終わる、非常に名残惜しいと殺は思う。

「皆の場所へ帰ろう」

 陽がおもむろに殺の手を引く。
 手から伝わる体温が殺にとっては愛おしくて仕方がない。
 そして帰るのだ、いつも通りの馬鹿が集うあの人殺し課へ。


~~~~


「遅かったのぅ」

「待ちくたびれたぜ」

「お二方はどんな展開を?!」

 やはり馬鹿は馬鹿だ。
 帰ってきた二人を取り囲み話を進めていく。
 きっと殺が陽を押し倒したなどとMが想像を口にだす。
 Mに待っていたものは鉄拳制裁だったが、彼女にとってはご褒美だ。

 Mが殴られることで御影とサトリは少し笑いを溢す。
 これが殺の日常。
 愛おしくてたまらない日常。
 今日も皆は笑顔で殺に話しかける。
 なんて楽しくて嬉しいことか、この日常は大切にしなければならない。
 こんな日常を壊させはしない。
 だからこそ守るのだ、この普通の世界を。
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