地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

文字の大きさ
77 / 167

救い

しおりを挟む

「お前は優しいな」

「はぁ?」

 殺は陽にかけられた言葉に呆然とした。
 優しいなんて自分が言われるわけがない、彼はそう思っていた。
 だが目の前の陽は微笑んで書物の整理をする。
 今日は閻魔の珍しい粋な計らいで殺と陽は二人きりで書物庫の整理をしていた。

 最近では皆の目が妙に生温かくて落ち着くことが出来ないと殺は考える。
 それにしても何故、陽は殺に優しいなどと言ってきたのだろうか?
 殺は一人で疑問を抱える。

「何故、私が優しいと?」

 疑問を抱えていても仕方がない。
 殺は直接的に陽に訊くことにした。
 すると陽はまた笑う。

「だってお前は僕を救ってくれた」

 目の前の人物は幸せそうにそう言った。
 殺は人を助けることは常に考えている、だが感謝されるとは夢にも思わなかった。
 自分は地獄の為とはいえ人を殺している。
 間違ってはいない行為だと自負はするが、それは恨まれることだとは思っている。
 だがそれでも眼前の人物は笑顔で近づいてくる。

「お前は人を導く、僕を、誰かを導くんだ」

 導く、確かそんなことを彼に言った。
 それは忘れてはいなかった。
 忘れてはいけない、大切な約束。
 目の前の陽は少しだが顔を真面目にする。
 先ほどまでの穏やかな表情とは違う、真剣な顔。

「お前、心は大丈夫か?」

 唐突な質問だった。
 何故、自分が心配されるかわからない。
 だが、その質問をされた瞬間に胸が苦しくなる。
 不安が襲う、吐き気、目眩。
 全てが眩んでいく。
 この感情は何だろうか?一人不安定の中を漂う。
 だけどその時だった。

「大丈夫だからな」

 ふわりと体が動いていく。
 すぐさまそれが抱き締められたからだと殺は理解した。
 恋人から抱き締められる、それはとても幸せだった。
 陽は話を続ける。

「偶には僕と一緒に休まないか?一人は怖いだろう?」

 休む。
 殺の人生は常に何かの為にあった。
 だからこそ本当の休息など、どこにもなかった。

「お前はこれからはゆっくり出来るんだ。皆が苦しみを軽減してくれる。皆はお前が大好きだ。だからこそ皆はお前の前で笑顔になるんだ」

「笑顔……」

 思い返せば殺の周りは皆が笑顔だった。
 殺はさっきとは違う感情に胸が支配される。
 心が温かくなる、幸せになる。

 人の心は壊れば治りにくい。
 だが殺の心は壊れてはいても完全には壊れてはいなかった。
 だから治る。
 きっと、優しい仲間が治してくれる。
 彼にはそんな大切な人達が出来た。
 だからきっと大丈夫だ。

「これで書物庫の整理は終わりだな」

 大変だった作業を終えれば人殺し課へ帰るだけ。
 少しだけの二人きりの時間が終わる、非常に名残惜しいと殺は思う。

「皆の場所へ帰ろう」

 陽がおもむろに殺の手を引く。
 手から伝わる体温が殺にとっては愛おしくて仕方がない。
 そして帰るのだ、いつも通りの馬鹿が集うあの人殺し課へ。


~~~~


「遅かったのぅ」

「待ちくたびれたぜ」

「お二方はどんな展開を?!」

 やはり馬鹿は馬鹿だ。
 帰ってきた二人を取り囲み話を進めていく。
 きっと殺が陽を押し倒したなどとMが想像を口にだす。
 Mに待っていたものは鉄拳制裁だったが、彼女にとってはご褒美だ。

 Mが殴られることで御影とサトリは少し笑いを溢す。
 これが殺の日常。
 愛おしくてたまらない日常。
 今日も皆は笑顔で殺に話しかける。
 なんて楽しくて嬉しいことか、この日常は大切にしなければならない。
 こんな日常を壊させはしない。
 だからこそ守るのだ、この普通の世界を。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。 勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。  辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。  だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...