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後悔しない様に……
しおりを挟む「今日も残業ですね」
「そうじゃのう……」
今、人殺し課の面々は残業という課題に面していて疲弊を極めていた。
眠気も襲ってくるので彼らはコーヒーを苦いと言いながら飲む。
そうまでしなければ彼らは仕事に向き合えなかった。
だが殺は恋人の陽と居られるので残業も悪くないと思っていた。
恋人である陽は残業についてどう思っているかは知らないが。
「コーヒーを淹れてきてやろう」
愛しい陽がコーヒーを淹れてくれる。
その事実が殺にとってはとても嬉しかった。
だが、その嬉しいことを邪魔する者達は居る。
「私もコーヒー追加してくださりませんか?」
「肩揉んでよ」
「お菓子が食べたいのぅ」
コーヒー追加までなら良かった、だが後の二人はただの我儘だ。
陽も仕事で忙しいのに肩を揉まそうとは何事か。
御影も菓子くらい美鈴に貰えばいいだろう。
そう思いながら胃が荒れていくのを実感した。
だがしかし、美鈴は先に帰ってしまった、小夜子も冥王も家に帰ってしまった。
今、残っているのは人殺し課の五人だけ。
すると突然人殺し課の扉が開く音がした
音の方向を見れば閻魔がにやついて此方を見ている。
忌々しい人物だと仕事で疲れた殺は睨む。
尊敬はしている、だが仕事を押し付けられるのは嫌いだ。
閻魔はにこやかに笑って言う。
「花火、見に行かない?」
花火、それは夏の風物詩だった。
何故閻魔が花火に誘うのか殺はわからなかったが他の四人は楽しみそうにそわそわしている。
ここまで興味を示されたならば、もう行くしかない。
殺は溜め息を吐きながら外へ出る準備をした。
「凄え!綺麗だ!」
「最高ですわ!」
「良いのぅ」
「美しい……」
四人が思い思いの感想を言う。
実際に花火は綺麗だったからだ。
夜空に色とりどりの大輪の花が咲いていく、優雅で凛々しい光景に殺は魅入ってしまう。
「いつも仕事を頑張る君達に見せたかったんだ」
閻魔は花火を見ながら連れてきたわけを答える。
この方はいつも人のことを考える、幸せにしたいと願う。
だからこそ憎めないのだ。
花火で照らされた閻魔の顔はそれはとても慈悲深かった。
閻魔大王という存在はやはり偉大で美しかったと殺は考える。
この偉大な王はきっと何があってもなんとかしてくれる。
殺はそう信じる。
「花火も持ってきたんだ!やる?」
閻魔はいつ花火を買ったのかと疑問が浮かぶ。
大方、仕事をサボって買いに行ったのだろう。
花火をやる?それは人殺し課にとってはYesという返事しかなかった。
炎に花火を近づければ幻想的な光が吹き出していく。
サトリは花火を沢山持っては振り回す。
年老いている筈なのに、やることは小学生だ。
花火を振り回すという行為は危ないが、普段から鬱憤が溜まっているのだから今日くらい何も誰も言わない。
「儂の尻尾に引火させない様にな」
「わーってるって!」
「私は燃やして構いませんわよ!」
「「黙れM」」
「あぁん!」
外でもいつも通りの会話に思わず殺は笑ってしまう。
いつからだろうか、こんなに笑える様になったのは。
笑っている最中に閻魔は小さな花火を取り出す。
「線香花火だよ!誰が長く保つか競争だ!」
競争という言葉に皆が目を鋭く光らせていく。
皆が負けず嫌いなのだから仕方ないことだ。
「「「「「勝ってやる」」」」」
悍ましい声が響くなかで閻魔は鳥肌をたたせている。
皆の気迫に圧倒されたことが原因だ。
「勝負開始!」
殺の合図で一斉に火がつけられる。
小さながらも激しく光るそれに彼らは情緒すら感じない。
全ては勝ち負けなのだから。
線香花火は次第に光が弱くなっていく。
最初に落ちたのはMだった。
「あぁー!もう!」
サトリ、御影、閻魔が落ちる。
皆が言いたい放題に文句を言いながら最後の勝敗を見守る。
最後に残ったのは殺と陽。
だが手に汗握る勝負も終わりがくる。
陽が勝ったのだ。
「やったぁぁぁぁぁぁ!!」
歓喜の声をあげる陽に悔しさを隠せない者達は陽の頬をつねる。
だが殺は勝負に負けても大好きな恋人が勝ったことに喜びを隠せなくて、小さくガッツポーズをした。
そのガッツポーズを人殺し課の面々に見つかってしまい少しからかわれる。
「恋人が勝ってよかったね」
閻魔の言葉に思わずにやけてしまう。
それくらい恋人が勝ったことが嬉しいのだ。
~~~~
夜が更ける。
夜空に沢山咲いていた花も枯れてしまった様だ。
花火も底をついてしまって、後は家に帰るだけ。
殺は閻魔と二人きりの時に一つの疑問を閻魔に投げかける。
「何故、十王に休日を作ったのですか?」
いつも休まない、それが地獄。
だがそれが覆されてしまった。
何故、休日を作ったのかわからない。
仕事も沢山あるだろうに。
けれども閻魔は笑って殺の問いに対し答えた。
「思い出を作りたいんだよ」
思い出、彼には仕事しかなかった。
だからこそかと思った時だった。
「自分が死にかけてわかった。私はいつ死んでも後悔しない様にしたいんだ」
前回、敵の襲来で閻魔は死にかけた。
殺は酷く後悔する。
守りきれなかったと、敵をいつでも攻め入れる状態にしてしまったと。
殺の表情は曇る、それに閻魔は気づいて笑顔で殺の頭を撫でる。
「君は充分守ってくれた。だから私は死んでない、君は約束を守っているんだよ」
地獄を命をかけて守る。
それが殺の昔交わした約束。
殺は静かに涙を流す、自分が約束を守っていたこと、閻魔を守っていたことに涙を流した。
小さな頃に戻ったみたいだった。
只管泣き続ける幼子、そんな気分だ。
「よしよし、君は強い子だ。だから大丈夫、いつまでも私と皆と一緒に居よう」
何時までも、その言葉に安堵をする。
良かった、私は皆に愛されているんだ。
殺は鼻声になりながらも誓いの言葉を口にした。
「私が……私達が地獄を守ります!」
その誓いはきっと本当になるのだろう……。
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