地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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守りし者

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 今日の地獄はいつも以上にドタバタしていた。
 何せ人間界を守ってきた妖怪の頭領が顔を見せに来るのだから。
 殺も労いの言葉をかけようと考えたりして頭を悩ましていた。

 よりシンプルに短く、それが殺である。
 殺は取り敢えず徹夜だったこともあり閻魔殿の風呂に入っていく。
 風呂が完備されているのは職員に二十四時間働けとのことかと殺はシャワーを浴びながら考える。

 だがそんなに長い時間を風呂で過ごすわけにはいかない。
 殺はさっさと頭と顔、体を洗うとすぐに風呂から出る。
 夏だからこそ脱衣所も暖かい。
 だが冬になると寒くて風邪をひいてしまいそうになる。
 だから暖房を完備してくれと文句がくる。

 殺は洗濯しておいた服を身にまとう、と言ってもいつもの狩衣だが。

 人間界を守る妖怪の頭領……それはいくつかの組織を束ねる存在。
 彼らが居るからこそ人間界が妖怪の被害を受けなくて済む。
 いわゆる、救世主なのだ。
 殺は彼らを心から尊敬する、それは同じ守るものがあるからこそだ。

 そんな頭領が今日、閻魔殿に来る、それだけで胸が高鳴る。
 殺は閻魔殿の自室に向かう、なにせ今日会うのは殺だけだからだ。
 自室でそわそわする心を落ち着けて冷静に妖怪の頭領を待つ。

 すると扉の開く音が聞こえた。
 殺は一瞬で顔をあげれば、そこには大人びた立派な男がいた。
 身長は180cmほどだろうか?
 つり上がった目なのに、怖いという印象は与えない。
 だが威厳というものに満ち溢れている。

「失礼します。殺様、会いに来ました」

「そこで立ってないで入ってどうぞ」

 少し殺はにやついていたかもしれない。
 だが、それほどに彼に会えたことが嬉しいのだ。
 殺はニヤつきを抑える為に小さく咳払いをする。
 それが頭領……悠(ゆう)にはわかっていて遠慮なく笑ってしまう。
 殺はそれに不機嫌を表したが相手にもされなかった。

「よく頑張りましたね、これからも期待しています」

「ありがとうございます」

 もう少し褒めれば良かっただろうか?殺は不安になってしまう。
 それでも目の前の人は笑っていた。
 そして殺には訊きたいことがあった、人間界のことだ。
 それを見透かしていたかの様に悠は人間界のことを語り始める。

「人間は優しいですよ、拾った財布を交番に届ける。立派でした」

「……そうですか!」

 殺は人間が大好きだ、だからこそ気になってしまう。
 だが、良いニュースだけではない。
 悪いニュースも勿論ある。

「今日も人が人を殺しました」

 殺は表情を暗くする。
 地獄というものがわかってない人間がまた罪を犯したのだ。
 地獄での仕事が増えるうえに人間にそんなことをしてもらいたくなかった。

 そんな殺を見て悠は彼を落ち込ませない様に、また報告をする。

「良いことだらけではないですけど先ほど言った通り良いこともあります」

 悠は語り始める。

「公園の花壇の花が綺麗に咲いていて……あれも人間のおかげです」

 殺は表情を元に戻す。
 人間の事件に妖怪は割り込めない、それがわかっているので良いことだけを考えることにした。
 殺は他にも話をせがむ。
 悠は笑って人間界で起きた珍しいことを語る。

 二人は自然と笑顔になり話に花を咲かす。
 殺はこの前買ったお高いお茶を惜しみなく悠に注いだ。
 殺の労いのつもりだった。
 それが分かり、悠はまた笑顔になる。

~~~~

 どれほど時間が経っただろうか?
 午前を回っていた針は午後を回っている。
 そろそろ人間界に帰らねばならない時間だ。
 いつまでも頭領が居なければ組織も困るだろう、
 殺はこの時間を名残惜しく思うが、相手にも仕事がある。
 だから仕方ないことだ。

「そろそろ帰らねばならないですね」

「そうですか」

 殺は寂しさを隠す、だが眼前の人物は真剣な目をする。
 そして言葉を放つ。

「 寂しさは隠さなくていい、感情は隠さなくていいんだよ」

 悠は優しく子供を諭すかの様に言う。

「でも貴方には笑顔が似合いますね」

 悠は優しいのだ。
 ちゃんと言いたいことを言葉を選んで言っている。
 失礼のない様に、言いたいことが伝わる様に。
 悠は言葉を紡ぐ。

 彼は殺に背を向ける、だがその背は語っていた。
 また来ると……。

「私は守りたいモノの為に戦うのです。貴方も戦いを……それでは」

 守りたいモノの為に戦う。
 それが彼であるのだ。
 殺は願った、彼が無事である様に、自分も彼と同じ様に地獄を守れる様にと。
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