地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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嘆きの我儘

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「閻魔大王!」

「なーに?今は珍しく仕事中」

 面倒くさそうに閻魔は人殺し課の職員をあしらおうとする。

 人殺し課の馬鹿が焦って来たことを閻魔は軽い用事だと判断したのだ。
 信用がないにもほどがある。

「緊急を要すること!」

「殺が連れ去られた!」

 サトリと御影が大声で叫ぶ。
 漸く事態の深刻な状況がわかった閻魔はガタッと椅子の音を大きく響かせて立ち上がった。
 閻魔の表情が歪み、顔がみるみる青ざめる。

「なんだって?!」

 閻魔殿に居た職員たちも緊急事態に焦っていた。
 あの殺が連れ去られるなどあってはならないことだった。
 混乱が広がっていく。
 そんな中、閻魔は少し黙ってから声をあげた。

「皆、仕事をしっかりする様に!私は少し席を外すからそれまで裁判だけは中止!でもすぐに戻るから!さあ、人殺し課の皆はこっちに」

 閻魔は的確に指示をくだしてから人殺し課の職員を自室へと案内する。
 後ろ姿からではわからないがおそらく閻魔は今回の事件のことを察していた。
 早足で陽の光の届かない暗い異様な廊下を歩いていく。
 大きな重い扉を両手で開ければ電気のついてない広い部屋が広がる。

「電気つけるね、適当に腰掛けていいよ」

「は、はい」

 初めて見た閻魔の自室は殺同様、物が少ない部屋であった。
 時計がチクタクと音を鳴らす。
 妙な緊張感に包まれながらも閻魔は話を始めた。

「殺ちゃんが連れ去られたって……久遠とのこと?」

 閻魔は前回の久遠とのことでやはりわかっていたらしい。
 人殺し課の職員の沈みゆく顔を見て閻魔は確信を得る。

「やっぱりか……あのヤンデレの子はどうせ家から出さない気なんじゃないのかな?」

 家から出さない、そう久遠は言っていた。
 それを思い出しよけいに暗い表情を皆が浮かべていく。

「図星なのか……困ったな……」

 人殺し課は誰一人欠けてはならない。
 もし誰かが欠けては運命が変わってしまう。
 五人で立ち向かえなくなってしまう。
 それがあらわすことは世界の破滅だった。
 それだけは避けたい、大切な世界が一人の我儘で消えるなどあってはならないことだ。

「今の中国地獄はね、久遠が支配している状況なんだ」

「支配?」

 陽は気になり訊ねる。

「そのままの意味、彼が実権を握ってるの。彼が強すぎて誰も逆らえなくなった結果だって。私も正直恐ろしいよ」

 強すぎて、その言葉に皆が顔を厳しくする。
 閻魔の言っていることは本当に決まっている、だからこそ恐ろしいのだ。
 彼の言う恐ろしいという言葉が。

「君たち、もちろんだが殺ちゃんを救ってくれるよね?」

「「「「もちろん!」」」」

「よろしい、ならば中国への転送用意をしよう。それに中国の久遠の呪縛が解ければこちらにも都合が良い。中国地獄に貸しが出来る」

 閻魔は手を真っ直ぐ前に伸ばす。
 すると彼の腕から掌へと真っ赤な炎が進んで広がっていく。
 真っ赤な炎は少しずつ時空の歪みに変化していき、やがて人が通れる大きさになった。

「はい、私の力では簡単なことだよ!さあ、急いで!」

「「「「はっ!」」」」

 皆が勢いよく時空の歪みを潜る。
 時空の歪みの中は炎に包まれていて火事の様に見えた。
 閻魔は地獄の業火を使役するからこそ炎なのだろう、だが炎は熱くない。

「急いで進むんじゃぞ!」

「わかってますわ!」

 一本道を全速力で走る彼等はそれぞれの覚悟を決めて殺の奪還に向かっていった。



~~~~


 ああ、なんで俺様を選んでくれないんだ?

 そう彼は苦しげに嘆く。
 久遠は全てを手に入れようといつも頑張っていた。
 殺に相応しい男になる為なら努力も惜しまなかった。
 だからこそ強さを求めて本当に強くなり中国地獄の実権を握った。
 どれもこれも殺の為だった。

 だが殺は如何したことか。
 床へと倒れこみ、呪詛のような禍々しい言葉を言っている。
 殺は久遠を殺したいと願っていた。
 だが久遠はそんな殺の願いを勿論だが踏みにじる。

「結婚しよう、式は明日に」

 結婚、それを言った彼は幸せそうだった。
 幸せになろうとしていた。
 けれど独り善がりとは本当に幸せなのか?
 独りの我儘は皆を幸せにはしない……。

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