地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

文字の大きさ
90 / 167

少女たち

しおりを挟む

 今日も始まる仕事地獄。
 そんな日常に殺たちは日々体力を消耗しながらも平和な一日を送っていた。
 平和、それは何もない日常。
 最近ではそれが覆されそうになっているが、殺たちも平和を壊す魔の手に負けてはいられない。
 毎日馬鹿なことをしながらも、けっして気を抜かないのだ。

 そんな神経がすり減りそうな日常がまた平和ではなくなる。
 とある少女の所為で……。


~~~~


「やっほー!あやさん!遊びに来たよ!」

「いらっしゃい、美咲さん」

 前回、オリジナルの陣を気合いと意地と根性で作り地獄へ遊びに来た少女、美咲が人殺し課で大きな声をあげる。
 今日も少女は華麗に着地出来なくて頭から落下していた。
 毎度毎度の落下に人殺し課の職員は着地地点がわかっていられれば助けられるのにと思ってしまう。
 そんな人殺し課の職員の気持ちを一欠片も知らない美咲は嬉しそうにまた大きな声をあげて殺に話しかける。

「あのね!あやさん!今日はお友達も来るんだよ!」

「そうですか!お友達ですか……良かった」

 殺は美咲に友達が出来たことを喜ぶ一方、溜め息をつきたい気持ちでもあった。
 何せ地獄という場所に生きた人間が来ることはあまり良いことではないのだ。
 幽体離脱をしてしまったなら仕方ない、だがこれは生きた生身の人間。
 もし自分の家の感覚で今回みたいに人を連れて来て入り浸られると困ってしまう。
 それも、大人数だと更に困ってしまうものだ。

 美咲に友達が出来た事実を祝う一方、殺は美咲にあまり人間を連れて来たらいけないと伝える。
 すると存外、美咲はあっさりとそれを理解し、素直に受け入れる。
 だがもう友達は連れて来てしまった、ならば仕方がない。
 殺は美咲が連れて来た友達とやらを待つことにした。

 ストッ……。

 軽い着地音が人殺し課に響き渡る。
 美咲の様なドジな着地ではないことがわかり人殺し課は取り敢えず安堵して美咲の友達の方を向いた。
 すると人殺し課は一瞬だけ声が出せなくなってしまう。
 そう何せ目の前に立っていたのは、かつては陰陽師の一族で廃れた自分の家より栄えた分家を恨み、先祖の無念を晴らす為と地獄で働く者を強制的に式神状態にして異変を起こした張本人の少女であったからだ。

「お久しぶりです。皆様方」

「貴方は……」

 殺は少し動揺する。
 だが少女は堂々として名前をなのった。

「私の名前は恵里奈(えりな)と言います。あの時はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。皆様の名前なら美咲に訊きましたので紹介は無くて大丈夫ですよ」

 殺は美咲の友達が恵里奈という事実に若干だが未だ困惑しながらも、恵里奈のことも祝う。

「良かったですね、生きる意味の第一歩を踏み出せて」

「おかげさまで。ありがとうございます」

 二人を包み込む空気は穏やかで事件の時の様な悍ましい雰囲気ではなかった。
 あの日の血生臭かった少女は今では普通の女子高生だ。
 まあ、地獄に来ている時点で普通ではないかもしれないが……。

 恵里奈と美咲は最近に出逢ったばかりだと言う。
 恵里奈が美咲の陣を本物と見抜いて、恵里奈から美咲に話しかけたのだ。
 そこから地獄のことを聞いて実際に来てみたというわけだ。
 これらの出来事を二人は楽しそうに話す。

「まだ地獄に来たのが恵里奈さんで良かったです。死んだ後に此処で働いてもらう予定ですからね」

「えー、ずるーい!私も地獄で働きたい」

「地獄はブラックですよ」

 ブラックという言葉に周りの者は皆が首を縦に振る。
 だが美咲はそれでも地獄で働きたい様だ。
 殺は閻魔に美咲も働かせて良いのかと後で訊ねることにする。

「ねえねえ!あやさん!私ね、今は恵里奈ちゃんに式神の使い方や戦闘方も学んでるの!」

 いつか手合わせしてねと笑う少女は一人ではなくなったので確実に強くなっていた。

「殺さん。私、今では生きるのが楽しいんです」

 生きるのが楽しいという少女の笑みは歳相応になっていた。

「殺、今でも手合わせしてやったら如何じゃ?」

 御影が殺の肩に手を置いて言葉を放つ。
 手合わせという言葉に少女たちは目を輝かせながら殺を見つめている。

「こうなれば仕方がないのではないか?」

「人間の戦い方が気になるしな」

「レッツ、ファイトですわ!」

 周りから期待が集まっていく。
 殺は仕方ないといった風に笑いながら構えをとる。

「さあ、二人同時にかかって来なさい!」

 二人の少女は煌めく笑顔で式神と武器を手に取った。



~~~~


「はぁ……はぁ」

「流石です……はぁ」

 二人の少女は息を切らす。
 手合わせは二分もかからない内に勝敗が決してしまった。
 勿論だが勝者は殺、手加減しまくりの勝負であった。

「人間にしてはお強いですね、感心します」

 殺の褒め言葉を受けて少女たちは更に強くなってやると決心を固める。

「お茶は如何ですか?」

「運動後は水分補給ですよ」

「茶菓子もあるぞ!」

 美鈴と小夜子と冥王が一斉に声をあげて即座にお茶とお菓子の用意をする。
 目の前の美味しそうなフィナンシェを見て二人は幸せそうな笑顔になった。

「「いただきます!」」

 頬にフィナンシェをいっぱい溜めて頬張る姿はとても幼く見えた。


~~~~


「……もうこんな時間……」

「帰らなきゃ……」

 人殺し課で様々な者と笑いあった少女らは帰る時間が来たことに寂しさを感じた。
 だが皆が少女らの頭をわしゃわしゃと擬音がつきそうなほどに撫でる。

「またすぐに会いましょう」

 すぐに会いましょうという言葉に少女らはまた笑顔になった。

「では、また今度」

 美咲が紙に書かれた陣を破いていく。
 破られた陣から光が放たれ二人の少女を包んでいった。
 今生の別れではないのに殺たちも寂しくなってくる。
 少女たちが居なくなった人殺し課は少しだけ静かになったが、またいつもの調子に戻っていく。
 そう、いつも通りの馬鹿な日常にだ。

 殺は今日は良いことだらけだったと一人、感慨にふける。
 美咲に友達が出来、恵里奈に生きる意味が見つかった。
そんな一日だった。
 心配していたことが一気に無くなり殺の足取りは軽いものになる。
 それにしても、早く閻魔大王に訊かなければと殺は少し早足になる。
 それも美咲の死後、地獄で働かせて良いかと。
 早く訊ねたいものだと殺は急ぐ。
 そして閻魔に訊ねたところ別に良いと答えを貰った。


~~~~


 殺は夜中まで働く。
 美咲と恵里奈の幸せな人生を願って働く。
 美咲と恵里奈は死後も二人仲良く過ごし仕事をするのだろうと想像をしながら殺は働いた。
 実際に二人は永遠に仲良しなのだろう。
 きっと二人の縁は切れない、そう殺は確信した。
 心配されなかった者を心配する者が現れ、生きる意味がわからなかった者に生きる意味を与える者が現れた。

 二人はきっとお互いを補い合う存在だ。
 だからこそ、この縁は切れない。
 どうか、二人が幸せであります様に……。
 真っ赤な空に殺は願いを込めて祈った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。 勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。  辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。  だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...