地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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少女たち

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 今日も始まる仕事地獄。
 そんな日常に殺たちは日々体力を消耗しながらも平和な一日を送っていた。
 平和、それは何もない日常。
 最近ではそれが覆されそうになっているが、殺たちも平和を壊す魔の手に負けてはいられない。
 毎日馬鹿なことをしながらも、けっして気を抜かないのだ。

 そんな神経がすり減りそうな日常がまた平和ではなくなる。
 とある少女の所為で……。


~~~~


「やっほー!あやさん!遊びに来たよ!」

「いらっしゃい、美咲さん」

 前回、オリジナルの陣を気合いと意地と根性で作り地獄へ遊びに来た少女、美咲が人殺し課で大きな声をあげる。
 今日も少女は華麗に着地出来なくて頭から落下していた。
 毎度毎度の落下に人殺し課の職員は着地地点がわかっていられれば助けられるのにと思ってしまう。
 そんな人殺し課の職員の気持ちを一欠片も知らない美咲は嬉しそうにまた大きな声をあげて殺に話しかける。

「あのね!あやさん!今日はお友達も来るんだよ!」

「そうですか!お友達ですか……良かった」

 殺は美咲に友達が出来たことを喜ぶ一方、溜め息をつきたい気持ちでもあった。
 何せ地獄という場所に生きた人間が来ることはあまり良いことではないのだ。
 幽体離脱をしてしまったなら仕方ない、だがこれは生きた生身の人間。
 もし自分の家の感覚で今回みたいに人を連れて来て入り浸られると困ってしまう。
 それも、大人数だと更に困ってしまうものだ。

 美咲に友達が出来た事実を祝う一方、殺は美咲にあまり人間を連れて来たらいけないと伝える。
 すると存外、美咲はあっさりとそれを理解し、素直に受け入れる。
 だがもう友達は連れて来てしまった、ならば仕方がない。
 殺は美咲が連れて来た友達とやらを待つことにした。

 ストッ……。

 軽い着地音が人殺し課に響き渡る。
 美咲の様なドジな着地ではないことがわかり人殺し課は取り敢えず安堵して美咲の友達の方を向いた。
 すると人殺し課は一瞬だけ声が出せなくなってしまう。
 そう何せ目の前に立っていたのは、かつては陰陽師の一族で廃れた自分の家より栄えた分家を恨み、先祖の無念を晴らす為と地獄で働く者を強制的に式神状態にして異変を起こした張本人の少女であったからだ。

「お久しぶりです。皆様方」

「貴方は……」

 殺は少し動揺する。
 だが少女は堂々として名前をなのった。

「私の名前は恵里奈(えりな)と言います。あの時はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。皆様の名前なら美咲に訊きましたので紹介は無くて大丈夫ですよ」

 殺は美咲の友達が恵里奈という事実に若干だが未だ困惑しながらも、恵里奈のことも祝う。

「良かったですね、生きる意味の第一歩を踏み出せて」

「おかげさまで。ありがとうございます」

 二人を包み込む空気は穏やかで事件の時の様な悍ましい雰囲気ではなかった。
 あの日の血生臭かった少女は今では普通の女子高生だ。
 まあ、地獄に来ている時点で普通ではないかもしれないが……。

 恵里奈と美咲は最近に出逢ったばかりだと言う。
 恵里奈が美咲の陣を本物と見抜いて、恵里奈から美咲に話しかけたのだ。
 そこから地獄のことを聞いて実際に来てみたというわけだ。
 これらの出来事を二人は楽しそうに話す。

「まだ地獄に来たのが恵里奈さんで良かったです。死んだ後に此処で働いてもらう予定ですからね」

「えー、ずるーい!私も地獄で働きたい」

「地獄はブラックですよ」

 ブラックという言葉に周りの者は皆が首を縦に振る。
 だが美咲はそれでも地獄で働きたい様だ。
 殺は閻魔に美咲も働かせて良いのかと後で訊ねることにする。

「ねえねえ!あやさん!私ね、今は恵里奈ちゃんに式神の使い方や戦闘方も学んでるの!」

 いつか手合わせしてねと笑う少女は一人ではなくなったので確実に強くなっていた。

「殺さん。私、今では生きるのが楽しいんです」

 生きるのが楽しいという少女の笑みは歳相応になっていた。

「殺、今でも手合わせしてやったら如何じゃ?」

 御影が殺の肩に手を置いて言葉を放つ。
 手合わせという言葉に少女たちは目を輝かせながら殺を見つめている。

「こうなれば仕方がないのではないか?」

「人間の戦い方が気になるしな」

「レッツ、ファイトですわ!」

 周りから期待が集まっていく。
 殺は仕方ないといった風に笑いながら構えをとる。

「さあ、二人同時にかかって来なさい!」

 二人の少女は煌めく笑顔で式神と武器を手に取った。



~~~~


「はぁ……はぁ」

「流石です……はぁ」

 二人の少女は息を切らす。
 手合わせは二分もかからない内に勝敗が決してしまった。
 勿論だが勝者は殺、手加減しまくりの勝負であった。

「人間にしてはお強いですね、感心します」

 殺の褒め言葉を受けて少女たちは更に強くなってやると決心を固める。

「お茶は如何ですか?」

「運動後は水分補給ですよ」

「茶菓子もあるぞ!」

 美鈴と小夜子と冥王が一斉に声をあげて即座にお茶とお菓子の用意をする。
 目の前の美味しそうなフィナンシェを見て二人は幸せそうな笑顔になった。

「「いただきます!」」

 頬にフィナンシェをいっぱい溜めて頬張る姿はとても幼く見えた。


~~~~


「……もうこんな時間……」

「帰らなきゃ……」

 人殺し課で様々な者と笑いあった少女らは帰る時間が来たことに寂しさを感じた。
 だが皆が少女らの頭をわしゃわしゃと擬音がつきそうなほどに撫でる。

「またすぐに会いましょう」

 すぐに会いましょうという言葉に少女らはまた笑顔になった。

「では、また今度」

 美咲が紙に書かれた陣を破いていく。
 破られた陣から光が放たれ二人の少女を包んでいった。
 今生の別れではないのに殺たちも寂しくなってくる。
 少女たちが居なくなった人殺し課は少しだけ静かになったが、またいつもの調子に戻っていく。
 そう、いつも通りの馬鹿な日常にだ。

 殺は今日は良いことだらけだったと一人、感慨にふける。
 美咲に友達が出来、恵里奈に生きる意味が見つかった。
そんな一日だった。
 心配していたことが一気に無くなり殺の足取りは軽いものになる。
 それにしても、早く閻魔大王に訊かなければと殺は少し早足になる。
 それも美咲の死後、地獄で働かせて良いかと。
 早く訊ねたいものだと殺は急ぐ。
 そして閻魔に訊ねたところ別に良いと答えを貰った。


~~~~


 殺は夜中まで働く。
 美咲と恵里奈の幸せな人生を願って働く。
 美咲と恵里奈は死後も二人仲良く過ごし仕事をするのだろうと想像をしながら殺は働いた。
 実際に二人は永遠に仲良しなのだろう。
 きっと二人の縁は切れない、そう殺は確信した。
 心配されなかった者を心配する者が現れ、生きる意味がわからなかった者に生きる意味を与える者が現れた。

 二人はきっとお互いを補い合う存在だ。
 だからこそ、この縁は切れない。
 どうか、二人が幸せであります様に……。
 真っ赤な空に殺は願いを込めて祈った。
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