98 / 167
自己犠牲の悪党
しおりを挟む殺は闇色のスーツとコートを身に纏う。
それが全て、裏の仕事の始まりを告げていた。
集合場所は老舗料理屋の特別な者だけが入れる一室である。
殺は笑いながら裏切り者が居るのならば殺さねばと足早に料理屋へ向かった。
~~~~
料理屋へ入ったまでは良い。
だが先に集まっていた真と美優は酒を注いでは飲みを繰り返していた。
此奴ら、仕事をする気があるのか?などと疑問を持ち、部屋から去ろうとする。
だがそんなこと真と美優が許す筈がない。
二人は去ろうとする殺の肩を掴み、強引に部屋へ引きずる。
殺が引きずられ、入ったその部屋はもはや酒臭くて、その場に居るだけで吐きそうになるほどだった。
酒には強い殺ではあるが、そんな者さえ吐き気をもたらす匂い。
いったい彼らはどれだけ酒を酌み交わしたのか……。
「仕事……する気あるのですか?」
「まあまあ、今日は実は仕事は無いんだよ。だから酒を飲もうぜ」
「そうよ!飲みましょう!」
「はぁ……」
真の誘いなら断っていた。
だが美優が居るとなれば話しは別である。
何せ彼女は暴君、断ったら後で碌なことがないのは目に見えている。
寧ろ半分くらい死んでいる未来が見える気がしてならない。
殺は仕方なく三人で酒を酌み交わすこととした。
「そういやぁ、俺たち昔にはいろいろあったよな」
「そうですね」
「殆どが美優の所為だったけど」
「何か言った?」
「いえ、何も」
確かに今まで二人は美優に振り回されてきた。
だが美優はそれを否定していて、逆に二人に振り回されたなどとのたまっている。
まあ、どちらもお互い様な気がするが。
「そうだ!昔のことを語ろうぜ!」
「え、面倒臭いです」
「良いじゃない!語りましょう!」
「……はい」
殺は美優には逆らえない。
その光景を見て真はゲラゲラと笑い、殺に顔面を殴られる。
真は顔面が若干めり込んだが気にせず話を続けた。
「じゃあ、美優。お前から」
「えー、私から。何か緊張感するわねー」
そう言いながらも少し楽しげに笑顔を見せる美優は可愛らしい。
美優は口を開いて話を始める。
「そういえば……昔、暑い季節に暑い暑いって言いながら川があることを良いことに服のまま川へ入った馬鹿がいたわよね。しかも、その川には危険生物がいて大変だったわね~。ほんとそいつは馬鹿だわ」
「うんうん、そいつは馬鹿……って俺じゃねぇか!」
真は立ち上がって怒声をあげて美優を睨む。
だが美優はそれに臆することもなく酒を一杯飲み干した。
真は怒りを態度にも出していて、いつ切れるかわからない状況である。
「あん時は死ぬかと思ったんだぞ!それをテメェらは笑いやがって!」
「もう良いじゃない。過去の話しは。次は殺ねー」
「了解です」
殺は必死で真を宥めてから語り出す。
それはまるで愛しい過去を話すかのように……。
「昔、美優のお母様の口紅で落書きして……三人で怒られましたね」
「そうそう……三人で……ってあんたらぁぁぁぁぁぁ!!」
「何ですか?美優」
殺は何も問題ないといった風な表情で高価な酒を飲み干す。
その姿に美優は怒りを隠せないでいた。
「あれは、あんたら二人だけでやったことだろうが!!何で私まで怒られて暫くおやつ抜きになる必要があったのよォォォォォォォ!!」
「まあまあ、過去は忘れましょう」
「忘れると思ったかぁぁぁぁぁぁ!」
美優は怒りでいっぱいだったが、今度ご飯を奢ると言えば彼女はすぐにご機嫌になった。
そうして話しの順番は真に回る。
彼は楽しそうに言葉を出す。
「そういえば、前に美優と殺がご飯に行ってて……しかもそれが大食いチャレンジで美優はクリア出来たけど殺は出来てなかったよな。しかも妊婦みたいになりやがって……ぷふっ!」
「テメェぇぇぇぇぇえ!!あの時は上手く逃げやがって!あの後に吐いたんですからね!!
「まあまあ、過去は水に流して」
「過去でも最近でしょうがぁぁぁぁぁぁ!」
笑いを堪えながら真と美優は必死に殺を宥める。
それでも怒りが抑えられない殺は真を殴った。
だが美優は殴らない、ちゃんと彼は殴る相手を選んで殴っていたのである。
何せ美優を殴れば最期を迎える気がしてならなかったからだ。
「もう!落ち着きなさい!えいっ!」
「グファ!!」
えいっ!の掛け声とは似合わないほどのえげつない腹パンが殺にヒットする。
殺は今まで飲んでいたぶんの酒を全て吐き出し、痛みに悶えた。
「過去は碌でもない話しかないわね。なら今後の話しをしましょう」
「「はい……」」
身体中にダメージが入った二人にはもはや美優に逆らう気力などなかったそうな……。
~~~~
「裏切り者はきっとまた出てくるわ」
「それを私たちが殺せば良いのですね」
「だな」
先ほどまでは和やかだった……和やかなのかは知らないが普通だった彼らが黒い色に染まっていく。
そうだ、彼らは必要な善の為の悪なのだ。
彼らが居なければおそらく地獄は成り立っていないだろう。
裏切り者を殺し、地獄に有益を与える。
それが彼らの役目、しなければならないこと。
だって彼らには代わりが居ないんだもの。
いや、創ってはならないのだ。
必要な悪は自分たちだけで良い。
それが彼ら、自己犠牲を躊躇いなく行う存在なのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる