地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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自己犠牲の悪党

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 殺は闇色のスーツとコートを身に纏う。
 それが全て、裏の仕事の始まりを告げていた。
 集合場所は老舗料理屋の特別な者だけが入れる一室である。
 殺は笑いながら裏切り者が居るのならば殺さねばと足早に料理屋へ向かった。


~~~~


 料理屋へ入ったまでは良い。
 だが先に集まっていた真と美優は酒を注いでは飲みを繰り返していた。
 此奴ら、仕事をする気があるのか?などと疑問を持ち、部屋から去ろうとする。

 だがそんなこと真と美優が許す筈がない。
 二人は去ろうとする殺の肩を掴み、強引に部屋へ引きずる。
 殺が引きずられ、入ったその部屋はもはや酒臭くて、その場に居るだけで吐きそうになるほどだった。

 酒には強い殺ではあるが、そんな者さえ吐き気をもたらす匂い。
 いったい彼らはどれだけ酒を酌み交わしたのか……。

「仕事……する気あるのですか?」

「まあまあ、今日は実は仕事は無いんだよ。だから酒を飲もうぜ」

「そうよ!飲みましょう!」

「はぁ……」

 真の誘いなら断っていた。
 だが美優が居るとなれば話しは別である。
 何せ彼女は暴君、断ったら後で碌なことがないのは目に見えている。
 寧ろ半分くらい死んでいる未来が見える気がしてならない。
 殺は仕方なく三人で酒を酌み交わすこととした。

「そういやぁ、俺たち昔にはいろいろあったよな」

「そうですね」

「殆どが美優の所為だったけど」

「何か言った?」

「いえ、何も」

 確かに今まで二人は美優に振り回されてきた。
 だが美優はそれを否定していて、逆に二人に振り回されたなどとのたまっている。
 まあ、どちらもお互い様な気がするが。

「そうだ!昔のことを語ろうぜ!」

「え、面倒臭いです」

「良いじゃない!語りましょう!」

「……はい」

 殺は美優には逆らえない。
 その光景を見て真はゲラゲラと笑い、殺に顔面を殴られる。
 真は顔面が若干めり込んだが気にせず話を続けた。

「じゃあ、美優。お前から」

「えー、私から。何か緊張感するわねー」

 そう言いながらも少し楽しげに笑顔を見せる美優は可愛らしい。
 美優は口を開いて話を始める。

「そういえば……昔、暑い季節に暑い暑いって言いながら川があることを良いことに服のまま川へ入った馬鹿がいたわよね。しかも、その川には危険生物がいて大変だったわね~。ほんとそいつは馬鹿だわ」

「うんうん、そいつは馬鹿……って俺じゃねぇか!」

 真は立ち上がって怒声をあげて美優を睨む。
 だが美優はそれに臆することもなく酒を一杯飲み干した。
 真は怒りを態度にも出していて、いつ切れるかわからない状況である。

「あん時は死ぬかと思ったんだぞ!それをテメェらは笑いやがって!」

「もう良いじゃない。過去の話しは。次は殺ねー」

「了解です」

 殺は必死で真を宥めてから語り出す。
 それはまるで愛しい過去を話すかのように……。

「昔、美優のお母様の口紅で落書きして……三人で怒られましたね」

「そうそう……三人で……ってあんたらぁぁぁぁぁぁ!!」

「何ですか?美優」

 殺は何も問題ないといった風な表情で高価な酒を飲み干す。
 その姿に美優は怒りを隠せないでいた。

「あれは、あんたら二人だけでやったことだろうが!!何で私まで怒られて暫くおやつ抜きになる必要があったのよォォォォォォォ!!」

「まあまあ、過去は忘れましょう」

「忘れると思ったかぁぁぁぁぁぁ!」

 美優は怒りでいっぱいだったが、今度ご飯を奢ると言えば彼女はすぐにご機嫌になった。
 そうして話しの順番は真に回る。
 彼は楽しそうに言葉を出す。

「そういえば、前に美優と殺がご飯に行ってて……しかもそれが大食いチャレンジで美優はクリア出来たけど殺は出来てなかったよな。しかも妊婦みたいになりやがって……ぷふっ!」

「テメェぇぇぇぇぇえ!!あの時は上手く逃げやがって!あの後に吐いたんですからね!!

「まあまあ、過去は水に流して」

「過去でも最近でしょうがぁぁぁぁぁぁ!」

 笑いを堪えながら真と美優は必死に殺を宥める。
 それでも怒りが抑えられない殺は真を殴った。
 だが美優は殴らない、ちゃんと彼は殴る相手を選んで殴っていたのである。
 何せ美優を殴れば最期を迎える気がしてならなかったからだ。

「もう!落ち着きなさい!えいっ!」

「グファ!!」

 えいっ!の掛け声とは似合わないほどのえげつない腹パンが殺にヒットする。
 殺は今まで飲んでいたぶんの酒を全て吐き出し、痛みに悶えた。

「過去は碌でもない話しかないわね。なら今後の話しをしましょう」

「「はい……」」

 身体中にダメージが入った二人にはもはや美優に逆らう気力などなかったそうな……。


~~~~



「裏切り者はきっとまた出てくるわ」

「それを私たちが殺せば良いのですね」

「だな」

 先ほどまでは和やかだった……和やかなのかは知らないが普通だった彼らが黒い色に染まっていく。
 そうだ、彼らは必要な善の為の悪なのだ。
 彼らが居なければおそらく地獄は成り立っていないだろう。
 裏切り者を殺し、地獄に有益を与える。
 それが彼らの役目、しなければならないこと。
 だって彼らには代わりが居ないんだもの。
 いや、創ってはならないのだ。

 必要な悪は自分たちだけで良い。
 それが彼ら、自己犠牲を躊躇いなく行う存在なのだ。
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