地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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優しさとは?

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 久遠は丸くなっていた。
 殺との戦いを終えた後に彼は何かを悟ったのだろう。
 そうして考え始めた、優しさというモノを。
 彼はいつも自分勝手に生きてきた。
 それはとても我儘で怠惰な生活を。
 だから初めから優しさなんて、わからなかった。
 そもそも、元は生贄の身である。
 優しさなんて受けていない。
 だが白蓮のおかげで優しさは少しだけわかるつもりになれた。

 いつも自分を信じて、支えてきてくれた彼のおかげで少しは真っ直ぐになれた。
 だが、それでも久遠は優しさが完全にはわからない。
 取り敢えず周りの者に、金銀財宝を与えたが周りは戸惑うだけ。
 久遠は思い悩んだ、そして辿り着いた。
 自分が変わるきっかけとなった男のもとに。


~~~~


「相変わらずしみったれた部屋だな!」

「久遠……!?」

 突如、響いた久遠の声に人殺し課の皆は身構える。
 無理もない、散々自分たちを苦しめてきた男が今、眼前に立ちはだかっているのだから。
 だが久遠は武器など何一つ持っていなかった。
 それに部下たちも居ない。
 彼は一人で時空の歪みを利用し、人殺し課へ現れた。
 何故、一人なのか?戦いなら大人数の方が有利だろうと考えていた時である。

「陽、俺様に優しさというモノを教えてくれ!」

 久遠は何と土下座をして陽にお願いごとをしてきたのだった。
 殺たちは呆然とする。
 だが、取り敢えず久遠に戦意は無いとわかり、抜こうとしていた刀を鞘に収めた。

 久遠は話を続けていく。
 それはもう、必死なのが目に見えるくらいに。

「俺様はお前のおかげで変わりたいと思えたんだ!だが俺様には優しさというモノがわからない。だから少しだけ観察させてくれ!」

「え……」

 陽は戸惑いを隠せないでいた。
 昔、自分を殺そうとしていた者が今、自分に優しさを教えてくれと請い願っている。
 そう、昔に自分を殺そうとした者だ。
 だが、彼は変わろうとしているんだ。
 そんな者を無下には扱えない。

「僕は優しいかわからないが、観察くらいなら良いぞ」

「本当か!?」

「ああ、本当だ」

 その瞬間に久遠が「やったぜ!」と叫び声をあげる。
 けれども殺は許せなかった、自分の大切な恋人を殺そうとした者がのうのうと自分の恋人に教えを請うことが許せなかった。
 殺は久遠を自宅に帰そうとした時である。

「あ、これは白蓮からの手紙」

 殺の前に巻物が差し出される。
 その巻物にはこう書いてあった。

『人殺し課の皆様へ。うちの久遠様が沢山のご迷惑をおかけして申し訳ありません。ですが、久遠様もようやく変わろうとしてきているのです。どうか久遠様の手助けをお願いします。助けてくれたあかつきには満開全席を御用意致しますので楽しみにしていてください』

 満開全席、その言葉に馬鹿三人が釣られていく。
 だが殺に食べ物は通用しない、本格的に久遠を追い出そうとした。
 だが……。

「殺様~、良いではないですか!害は無いですし!」

「ですが!」

「これをあげますから、どうかお許しになって」

 Mが殺の手に何かを握らせる。
 殺は己が手を目の前まであげて、何を掴まされられたかを確認した。
 そうして見えた、己が手に握られているのが遊園地のペアご招待券だ。

「今度、人殺し課の皆に休みが与えられるでしょう?だから、その時に陽様を誘ってみれば如何ですの?」

「……仕方ないですね」

 Mは自分は良い仕事をしたと、自分を褒めたくなった。
 今回の遊園地のペアご招待券は元々、殺たちに渡すつもりだったから痛手は無い。
 久遠の無邪気な瞳を見てMは彼は変わろうとしているんだと思い、応援したくなったのだ。
 それはサトリと御影も同様だった。

「それじゃあ、優しさとは何だ?!」

 久遠は嬉しそうに訊ねる。
 すると話に関係のない御影が言葉を放った。

「優しさとは思いやりじゃ」

「……なるほど、思いやりか」

 久遠は深く頷く。
 陽だけではなく、周りの意見をも取り入れようとしているのだ。

「そうじゃ、だから儂らの仕事をよろしく頼む」

「私も」

「俺も!」

 皆は久遠に仕事の書類を渡す。
 書類を渡された久遠は、優しさを学ぶ為ならと仕事と睨めっこをしていた。
 その光景を見て殺は怒鳴り声をあげる。

「自分でやりなさい!そして久遠もやろうとしないでください!」

「えー……」

 久遠は三人の仕事を片付けようとしていた手を止める。
 仕事を片付けてくれると思っていた三人はとても残念そうな顔をした。

「取り敢えず、久遠。貴方は陽を観察するのでしょう?ならば早く観察して終わらせなさい」

「はーい」

 そうして久遠の陽観察の日が始まった。


~~~~


 久遠は焦っていた。
 何せ陽は特別なことは何一つしていなかったのだから。
 それでも彼は「ありがとう」の言葉を皆から貰っている。
 少し観察しただけで久遠は陽が気配り上手だということがわかった。
 いつも先読みをしているかのように行動をする。
 だが、自分は人に金銀財宝をやっている。
 そちらの方が喜ばれると思って仕方がない。
 そう思いながら部屋から出ていく陽についていく。

「久遠……」

「何だ?」

「厠にまでついてくるな!」

「でも観察が」

「うっ……」

 陽は久遠がいることを無視して用を足す。
 用を足し終えた後に久遠は陽に話を訊いてみることにした。

「陽……」

「何だ?」

 久遠はどんな風に相談しようかと悩む。
 その様子を陽は不思議そうに見つめる。
 見つめられて、言葉が出にくくなる。
 だがしかし、言葉にしなければならない。
 だから悩みを声に出した。

「なあ、俺様も優しさを実践しようとしているんだがな……。いくら金銀財宝をやっても周りは喜ばないんだ。如何すれば良い……?」

「久遠……」

 陽は久遠の悩みに真剣に向き合う。
 真剣だからこそ彼の目を見て話をした。

「久遠……優しさとはな、御影が言ったとおり思いやりなんだ」

「思いやり……でもわからない」

 久遠は下を向く。
 だが陽は久遠の顔が見えるように少し屈んで話を続けた。

「思いやりとはな、誰かの為に何かをしたいと思うことから始まることなんだ。お前は誰かの為を思って金銀財宝をやったんだろう?少し不器用だが、お前も既に優しいんだ」

「俺様が……優しい?」

「ああ、優しいぞ」

 子供に諭すかのように陽は久遠に言葉を投げかける。

「だがな、物を片っ端から与えるのは少し違う。誰かの為に何かをやりすぎるのも違う。それは自己犠牲と言うんだ。自己犠牲は自分を傷つけるだけ、辛いだけだ。だから……」

「だから?」

 陽は笑顔になり久遠を見つめた。
 そうして最後の言葉を久遠におくった。

「自分を守りながら、周りを守れば良いんだ。そうすれば自分は必要以上に傷つかない。適当で良いんだ」

「自分を守りながら……」

「些細なことを見ろ。少しでも気にすればお前は更に変われる」

「変われる……」

 陽の言葉に久遠は心を掴まれる。
 彼は自分の悩みに真剣に向き合ってくれた。
 それが嬉しくて。
 きっと今みたいな行動を取れることが優しさなのだろう。
 久遠はそう考えて笑顔を浮かべた。


~~~~

 久遠は変わった。
 前のように金銀財宝を皆に与えることはなくなった。
 その代わりに彼は些細なことに気づくようになった。
 体調の悪い部下を見抜き、すぐさま医務室へ向かわせ気遣う。
 些細なことに気づくことが出来るようになった彼はいつも笑顔だった。
 その笑顔は昔の独裁者の顔ではなく、ただの優しげな普通の青年の顔であった。


~~~~

「お疲れ様です。久遠様」

「俺様が居ない間、留守を守ってくれてありがとう。白蓮」

 彼は素直にありがとうが言える。
 本当はそれだけで良いだなんて白蓮は言わなかった。
 白蓮は笑顔で言葉を告げる。

「満開全席の用意が出来ました。じきに皆様も来るでしょう」

「そうか……くっくっく」

 久遠は笑う。
 心の底から幸せだと思い、満たされて笑う。
 そうして準備をした。
 自分の恩人や、その仲間たちを招く用意を。

「おーい!来たぞ!」

「美味しそうですわ!」

「中華も良いな!」

「騒ぐんじゃありません」

「良い匂いだ……」

 もう来た。
 愛しい存在たちが。
 久遠は大切なものを迎え入れる。

「ようこそ!中国地獄へ!満開全席は此方だ!」

 満開全席を見た人殺し課の皆は瞳を輝かせる。
 それを見て久遠は思った。

 楽しい日常も良いな。

 そう思った。
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