100 / 167
イザナミ
しおりを挟むある日、殺は嬉々として浮かれていた。
それはもう人殺し課の者が若干だが引いてしまい、一旦距離を置いた程に。
だが殺の尋常ではない昂りように、御影は思わず何故そこまで浮かれているのかと訊ねてしまう。
その瞬間に殺は待ってましたと言わんばかりの態度をとり、無くなった胸を張って自分にとっての自慢話を語り始めた。
「実は、あのイザナミ様に会うことになったのです!」
「ほぅ……、あのイザナミ様がか?」
「ええ、あのイザナミ様です!」
御影はなんとなく……否、全てがわかりきって少しスッキリとする。
御影は知っている、殺にとってイザナミは閻魔の次に尊敬にあたいする神だということを。
では、イザナミについて説明をしよう。
彼女、イザナミは人間の世界では架空とされている島、おのころ島でイザナギと結婚を果たしたのだ。
それから二人は互いに神々を創生していき、最初は淡路島、それから日本列島を作り順風満帆な日々を送っていた。
だがある日のことだ、イザナミは火の神を作った際に陰部に火傷を負ってしまう。
そのことで彼女はみるみるうちに弱っていってしまった。
だがイザナミは命尽きるまで神々を産むことを諦めなかった。
諦めなかったが故に死んでしまった。
それがあまりにも悲しかったイザナギは黄泉国へと地下の死者の国へと行き、イザナミに会いに行く。
だが彼女は黄泉国の神に会って良いか許可を取るまで会えないと言った。
しかしイザナギは待てなかった、約束を破り彼女の姿を見てしまったのだ。
その瞬間にイザナギは絶句したという、イザナミの蛆の集り、八雷神に囲まれている姿を見てしまい絶句したという。
イザナミは恥をかかされたと思い、黄泉国の者にイザナギを殺せと言った。
彼、イザナギを追いかける者は黄泉醜女とイザナミ。
夫、イザナギは簪を投げて野葡萄の木を生やし黄泉醜女が食べている間に逃げたり、桃を投げて逃げたそうな。
その後、イザナギは大岩を黄泉国の入り口に置きもう二度と会えないようにしたわけだ。
イザナミは大層悔しがり、「お前の子を一日に千人殺してやろう」と言ったほどだった。
結局だがイザナミとイザナギは離縁する。
まだ離縁してなかった頃に夫を殺そうとする妻……。
憎しみの激しいイザナミに何故、殺が憧れるのか。
それは、イザナミの思いの強さに憧れているのである。
彼女は火の神を作った際に火傷を負って弱っていってしまう。
だがそれでも神を産むことを止めなかったイザナミの思いの強さに殺は憧れているのだ。
それに約束を破った裏切り者のイザナギを容赦なく殺そうとする、それが殺を最高に昂らせるのである。
更に殺が今回、イザナミに会えることで喜んでいるのには他にも訳がある。
彼女、イザナミは引き篭もりなのだ。
地獄で働き始めて僅か数日で引き篭もりになってしまったのだ。
だからこそ殺はイザナミに会ったことがない、それで嬉しいのである。
一応言っておこう。
イザナミは引き篭もりだが仕事はちゃんとして、片付けた仕事を従者に地獄へと運んでもらっている。
その点を考えると彼女は真面目で人殺し課の三馬鹿とは違うことがわかる。
真面目なところもあるから殺はイザナミに惹かれるのだろうか。
「おっと、もうこんな時間ですか。早くイザナミ様に会いにいく用意をしなければ」
「楽しみがあるのは良いことですわね~」
「今日はお前にとっての良い日だな」
「ええ、そうですね」
そう殺は笑ってイザナミに会いに行く準備を始めた。
今日、この一日が楽しみだと彼は笑う。
~~~~
「嗚呼、どうしましょう。やはり会うのは止めた方が……、いやいや、約束を破るのは駄目でしょう私!!」
イザナミは思い悩んでいた。
彼女は引き篭もりである、それが故に他人に会いたくないのだろうと周りはそう思うだろう。
だが違う。
彼女は恐れているのだ。
醜い蛆が集ったことのある身体を晒すことを、怨念を抱いたことがあるその身を他人に晒すことを恐れているのだ。
彼女は確かに怨念を抱いた、だが実はそれはすぐさま消え失せていたのだ。
そうして気づいた、自分の身が酷く穢れていることに。
だからイザナミは顔を隠すように覆面を被っているのだ。
醜い身体中を覆い隠す為の荘厳華麗な豪華な衣服、それと覆面……。
彼女は酷く心を病んでいた。
それは全て自己嫌悪からくるものである。
イザナミは酷く自分を嫌っている。
醜い身体と心、そのどれもこれもが嫌で仕方がない。
イザナミは殺と会う約束を交わしたことを酷く後悔した。
何故、彼女は他人に会う約束を交わしたのか、それは自分を変えたかったからだ。
堂々としている理想の自分になりたかったのである。
それに、このまま引き篭もりを続けていれば、いつか寂しさで死んでしまいそうだったのだ。
それほどまでにイザナミは寂しがりやなのである。
だがイザナミは未だに悩む。
他人に会うのがやはり怖くて悩んでしまう。
その時だった。
「イザナミ様、殺様がお見えになられております」
「はわわわわわわわ!!」
イザナミは焦る。
未だ心の準備が出来ていないので、彼女は急に焦った。
それに微かだが、外から殺の声も聞こえてくる。
イザナミは緊張でいっぱいになり、壊れそうであった。
他人に会うのが怖くて少し扉に耳を当て、外の会話を盗み聞く。
「イザナミ様と会う時間は合っている筈です。まだですか?」
殺は痺れを切らしているようだった。
それにイザナミは焦り、勢いで「入って良いですよォォォォォォォ!!」と叫ぶ。
「それでは扉を開けますね」
「あっ……」
イザナミは忘れていた。
自分が今、扉に耳を当てて、身体の重みを扉で支えていたことを。
扉が開けられた瞬間にイザナミは見事に殺の方へと転がり転ぶ。
「これは……凄い歓迎ですね」
「ひぃっ!殺殿!?」
さあ、二人の一日は如何なるのか?
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる