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イザナミ
しおりを挟むある日、殺は嬉々として浮かれていた。
それはもう人殺し課の者が若干だが引いてしまい、一旦距離を置いた程に。
だが殺の尋常ではない昂りように、御影は思わず何故そこまで浮かれているのかと訊ねてしまう。
その瞬間に殺は待ってましたと言わんばかりの態度をとり、無くなった胸を張って自分にとっての自慢話を語り始めた。
「実は、あのイザナミ様に会うことになったのです!」
「ほぅ……、あのイザナミ様がか?」
「ええ、あのイザナミ様です!」
御影はなんとなく……否、全てがわかりきって少しスッキリとする。
御影は知っている、殺にとってイザナミは閻魔の次に尊敬にあたいする神だということを。
では、イザナミについて説明をしよう。
彼女、イザナミは人間の世界では架空とされている島、おのころ島でイザナギと結婚を果たしたのだ。
それから二人は互いに神々を創生していき、最初は淡路島、それから日本列島を作り順風満帆な日々を送っていた。
だがある日のことだ、イザナミは火の神を作った際に陰部に火傷を負ってしまう。
そのことで彼女はみるみるうちに弱っていってしまった。
だがイザナミは命尽きるまで神々を産むことを諦めなかった。
諦めなかったが故に死んでしまった。
それがあまりにも悲しかったイザナギは黄泉国へと地下の死者の国へと行き、イザナミに会いに行く。
だが彼女は黄泉国の神に会って良いか許可を取るまで会えないと言った。
しかしイザナギは待てなかった、約束を破り彼女の姿を見てしまったのだ。
その瞬間にイザナギは絶句したという、イザナミの蛆の集り、八雷神に囲まれている姿を見てしまい絶句したという。
イザナミは恥をかかされたと思い、黄泉国の者にイザナギを殺せと言った。
彼、イザナギを追いかける者は黄泉醜女とイザナミ。
夫、イザナギは簪を投げて野葡萄の木を生やし黄泉醜女が食べている間に逃げたり、桃を投げて逃げたそうな。
その後、イザナギは大岩を黄泉国の入り口に置きもう二度と会えないようにしたわけだ。
イザナミは大層悔しがり、「お前の子を一日に千人殺してやろう」と言ったほどだった。
結局だがイザナミとイザナギは離縁する。
まだ離縁してなかった頃に夫を殺そうとする妻……。
憎しみの激しいイザナミに何故、殺が憧れるのか。
それは、イザナミの思いの強さに憧れているのである。
彼女は火の神を作った際に火傷を負って弱っていってしまう。
だがそれでも神を産むことを止めなかったイザナミの思いの強さに殺は憧れているのだ。
それに約束を破った裏切り者のイザナギを容赦なく殺そうとする、それが殺を最高に昂らせるのである。
更に殺が今回、イザナミに会えることで喜んでいるのには他にも訳がある。
彼女、イザナミは引き篭もりなのだ。
地獄で働き始めて僅か数日で引き篭もりになってしまったのだ。
だからこそ殺はイザナミに会ったことがない、それで嬉しいのである。
一応言っておこう。
イザナミは引き篭もりだが仕事はちゃんとして、片付けた仕事を従者に地獄へと運んでもらっている。
その点を考えると彼女は真面目で人殺し課の三馬鹿とは違うことがわかる。
真面目なところもあるから殺はイザナミに惹かれるのだろうか。
「おっと、もうこんな時間ですか。早くイザナミ様に会いにいく用意をしなければ」
「楽しみがあるのは良いことですわね~」
「今日はお前にとっての良い日だな」
「ええ、そうですね」
そう殺は笑ってイザナミに会いに行く準備を始めた。
今日、この一日が楽しみだと彼は笑う。
~~~~
「嗚呼、どうしましょう。やはり会うのは止めた方が……、いやいや、約束を破るのは駄目でしょう私!!」
イザナミは思い悩んでいた。
彼女は引き篭もりである、それが故に他人に会いたくないのだろうと周りはそう思うだろう。
だが違う。
彼女は恐れているのだ。
醜い蛆が集ったことのある身体を晒すことを、怨念を抱いたことがあるその身を他人に晒すことを恐れているのだ。
彼女は確かに怨念を抱いた、だが実はそれはすぐさま消え失せていたのだ。
そうして気づいた、自分の身が酷く穢れていることに。
だからイザナミは顔を隠すように覆面を被っているのだ。
醜い身体中を覆い隠す為の荘厳華麗な豪華な衣服、それと覆面……。
彼女は酷く心を病んでいた。
それは全て自己嫌悪からくるものである。
イザナミは酷く自分を嫌っている。
醜い身体と心、そのどれもこれもが嫌で仕方がない。
イザナミは殺と会う約束を交わしたことを酷く後悔した。
何故、彼女は他人に会う約束を交わしたのか、それは自分を変えたかったからだ。
堂々としている理想の自分になりたかったのである。
それに、このまま引き篭もりを続けていれば、いつか寂しさで死んでしまいそうだったのだ。
それほどまでにイザナミは寂しがりやなのである。
だがイザナミは未だに悩む。
他人に会うのがやはり怖くて悩んでしまう。
その時だった。
「イザナミ様、殺様がお見えになられております」
「はわわわわわわわ!!」
イザナミは焦る。
未だ心の準備が出来ていないので、彼女は急に焦った。
それに微かだが、外から殺の声も聞こえてくる。
イザナミは緊張でいっぱいになり、壊れそうであった。
他人に会うのが怖くて少し扉に耳を当て、外の会話を盗み聞く。
「イザナミ様と会う時間は合っている筈です。まだですか?」
殺は痺れを切らしているようだった。
それにイザナミは焦り、勢いで「入って良いですよォォォォォォォ!!」と叫ぶ。
「それでは扉を開けますね」
「あっ……」
イザナミは忘れていた。
自分が今、扉に耳を当てて、身体の重みを扉で支えていたことを。
扉が開けられた瞬間にイザナミは見事に殺の方へと転がり転ぶ。
「これは……凄い歓迎ですね」
「ひぃっ!殺殿!?」
さあ、二人の一日は如何なるのか?
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