地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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危険な者

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『時代の摂理に反してまで守り抜きたいものがあるって良いことですよね』

「急にどうしたのですか?幸さん」

 不幸の鬼はいつものように殺の頭の中に直接語りかける。
 いつも、そうだいつもだ。
 この鬼は仕事の時間でも、プライベートな時間でも構わずに語りかけてくる。
 殺にはそれがとても酷く鬱陶しかった。

 けれども今日の話題はいつもみたいに他愛ない会話ではない。
 それは不幸の鬼の言葉から滲み出る真剣な雰囲気でわかった。
 時代の摂理に反してまで守り抜きたいこと……。
 何故、鬼はそんなことを訊ねてきたのか。

 殺は徹夜明けで、いきなりの真剣な話題についていけずにぼーっとする。
 正直に言うと人が五徹目の時に、やっと眠れる時に話しかけてこられると困ってしまうものだ。
 否、困るだけで済めば良い。
 若干だが殺には殺意が湧いている。
 それは不幸の鬼が目の前に現れたら殺してやりたいと思う程に。

 だが、それでも真剣な対応をとってしまうあたりは殺もそこまで不幸の鬼を無碍な扱いにするわけではないことがわかる。
 不幸の鬼は殺の頭の中できっと笑みを浮かべただろう、殺が無視をしなかったことに喜んでいた。

「で、本題は?」

『そうですね……』

 不幸の鬼は殺の心情を見ながらわくわくしている。
 殺は心を読むなと思いながら鬼の話を待った。
 すると不幸の鬼は、やっと本題を語り始める。

『私には時代の摂理に反してでも創りたいものがあった……。貴方は時代の摂理に反してまでも創りたいものがあったら創りますか?守りますか?』

「創らない、守りません」

『おや、即答ですか』

 不幸の鬼はそれが殺の本音なのかと思い、確かめようと心を覗き込む。
 だが、それが殺の本心であるとわかると同時に不幸の鬼は酷くがっかりした。
 実は鬼は期待していたのだ、殺が自分の考えに賛同してくれることを。
 その時だった。
 殺の目が紅い光を灯し、夜闇を照らす。

「貴方は自分の意見に人々も賛同すると思いますか?」

『え……?』

 不幸の鬼は逆に心を読まれたような感覚に陥る。
 いつも主導権を握っていたのは鬼の方だ。
 なのに今はまるで殺が主導権を握っているかのように思えてしまう。
 殺は語り始める、それは自分個人の考えを語り始める。

「貴方の思いに賛同する者が居たのならば、当時の太古の時代に貴方と同じようなことをする者が居た筈です。ですが、その者たちが居ない時点で貴方は認められていないようなものです」

『……』

 不幸の鬼はとても傷ついた。
 自分を認めてくれる存在が少なくとも自分が宿る殺ではないことに。
 だが、鬼もそう簡単に引き下がるわけにはいかなかった。
 鬼は質問を変えたのである。
 それも、とてもとても卑怯な質問に。

『では、今の貴方にとって大切な仲間たちが時代の摂理に反する者になったらどうしますか?!』

「……」

 不幸の鬼は残酷な質問をしてしまったと思った。
 だが、それでも認めてもらいたかった。
 手段を選ばなくなるほどに彼女は自分を認めてもらいたかったのだ。
 けれども、その願いも打ち砕かれる。

「始末します」

『え……?は……?』

 今、この男は何と言ったか。
 始末する……それは確かにこの男、殺の発言であった。
 不幸の鬼は久しぶりに混乱した、何故に大切な人々を始末することが出来るのかと。

 鬼は狂気に満ちた答えを聞いて恐怖した。
 そうして怖いもの見たさで殺の心を覗き込む。
 だが彼女が見たものは残酷とはあまりにもかけ離れた心だった。

『殺様……』

「心を覗いたならば、何も言わないでください」

 不幸の鬼は黙ることにした。
 最後までは言わないことにした。
 きっとそれが殺の為だと思ったのである。
 殺が壊れない為に。
 もう自分は認められなくて良い、それよりもこの男の方が心配だ。

「それでは私は寝ますから、貴方はもう話しかけてこないでください」

 そう言って殺は自分の部屋に入って、従者が敷いてくれた布団へ入り、寝る用意をした。
 するとやはり疲れていたのかすぐさま彼は眠りの世界へ誘われてしまった。

『これが……この男……』

 不幸の鬼は殺を可哀想なものを見るかのように呟く。
 この男、殺はおそらくは簡単に嘘をつける。
 自分の心に無いことを簡単に言ってのけたり、やってのけたりするのだ。
 それはなんと残酷なものか……。

 そうだ、殺は残酷だ。
 それは今更すぎることである。
 彼は本心に背いて本当に仲間たちを殺すことが出来るのだろう。
 不幸の鬼は自分は馬鹿な質問をしたものだと一人で考えた。

 いつも一緒に居たのだ。
 だからわかる筈だった、わからねばならない筈だった。
 それがわからないとは自分も落ちぶれたものだと鬼は自嘲の笑みを浮かべる。

 殺は残酷、仲間たちも必要なら殺せる存在だ。
 それが彼にとってどれほど辛いかはもはや誰にもわからない。
 わかる者などもはや彼の裏の顔を知らねば現れない。
 否、知っても現れるのだろうか。

 それはわからない、だが今の彼を言い表せる言葉ならばある。

『危険』

 そうだ、彼は危険だ。
 誰にもわからない嘘を並べて、残酷に必要のない者を始末する。

 はたして仲間たちは彼と関わって良いのか?
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