地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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秦広王

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 秦広王は笑った。
 笑って大剣を振り回し殺たちを……否、陽を殺そうとする。
 殺にも痛い目をみてもらう、その言葉通りに彼女は殺にも攻撃する手を止めない。
 だが殺も黙ってやられてる訳にはいかない。
 愛する者を守る為に彼も命がけで戦うのだ。

「死んでください」

 秦広王は意地の悪い笑みを浮かべて陽に剣を振るう。
 でも簡単に負けてはならない、陽は見事に攻撃を先読みして防いでいく。
 だがあまりにも重い攻撃で腕が痛い。
 陽は若干だが苦しみの表情を浮かべていた。

「流石ですね、五人の英雄の力が目覚めています……。ですが……」

 秦広王は今までとは違う爽やかな笑みになる。
 そうして陽に毒のように酷い言葉を投げかけた。

「貴方は弱い、弱すぎる。殺殿は確かに脅威ですが、貴方は弱いから何にもなりません」

 弱い、その言葉は酷なほどに的を得ていて陽は少し顔つきが暗くなる。
 その油断をいいことに秦広王は陽を真っ二つに斬り刻もうとした。
 けれども、そう簡単に陽が斬られる訳など無かった。

「陽!!」

 秦広王が振り下ろした剣は殺の刀に遮られる。
 それを彼女は悔しそうに見つめていた。
 何故、何故に陽を救おうとするのか?
 秦広王にはそれが理解出来ないでいた。
 だが、殺と陽は仲間であるとともに恋人でもある。
 恋人を見捨てるなんて殺には出来ない。

「いきますよ!」

「ああ!」

 殺と陽が秦広王の頭上にいきなり現れる。
 真正面からくると思わせておいての奇襲のつもりだった。
 だが秦広王は愉快気に笑っている。
 そうして己が持っていた二つの大剣を振り回して殺と陽を空へ飛ばす。

 空中に飛ばされた二人はなんとか地面に着地をして眼前の敵の姿を捉える。
 秦広王は最早、狂気に染まっていた。

「秦広王……あの方、先ほどの生肝を食べて強くなっています」

「本当か……厄介だな」

 そう喋っている間に秦広王の周りには光り輝く無数の銃弾による弾幕が張り巡らされていた。
 弾幕は常に色が変わり、先ほどまで青色だったものが紫、赤色、黄色と変わっていっている。

 あまりにも美しい光景に二人は言葉を失う。
 きっと秦広王に殺されたら幻想的な夢を見て死んでいく気がして彼らには恐ろしく思えた。

 光る銃弾はゆっくりと広がっていく。
 そうしてやがて、己が眼前へ向かおうとしてやってくる。

 陽は冷静に弾幕を走って避けていく。
 その間に殺は己が手を前に出す。
 すると彼の手からは紅色の闇が集まってきていた。
 その闇が弾幕を破壊して、逆に秦広王を襲おうとする。
 だが秦広王はこれまた狂気染みた笑い声をあげた。

「甘いですね!」

 秦広王の大剣の先に銀色の光が集まっていく。
 それが何と光線となり殺の闇の攻撃を阻んでいった。
 こうなれば意地のぶつかり合いだ。
 何方の方が力が強いか……それに勝負がかかっている。

「うぐ……流石は殺殿。私も負けませんよ!」

 だがお互に力が強すぎて相手に攻撃が届く前に光と闇が暴発を起こした。
 その間のことだった。

「おらぁぁぁぁぁぁ!」

 秦広王の背後から陽が現れたのである。
 本日二度目の奇襲、だが秦広王はそれに臆さなかった。

「弱いですね」

「なっ!?」

 陽の刃が秦広王が持っていた大剣に防がれる。
 そうして殺の眼前まで弾き飛ばされた。
 だが彼はすぐに体制を整える。それも全て、何もかもを終わらせる為に。

 刀と大剣がぶつかり合い火花を激しく散らしていく。
 二刀流の彼女は右手で殺、もう片方で陽の相手をしていた。
 だが陽にも限界というものがやってくる。

 腕が痺れて刀を持つのもやっとになってきたのだ。
 それを秦広王は笑いながら陽を集中的に狙う。

 けれども、それを殺が許さない。
 殺は陽を助ける為に前に立ちはだかり傷を負ったのだ。
 それだけではない、陽のサポートをして更に傷を負う。
 彼の身体は細かい傷でうめられていった。
 真っ白だった狩衣が傷が開くにつれて真っ赤に染まって血が滴る。
 ぐちゃぐちゃと傷が広がり殺は苦痛に顔を歪めた。
 それを見て秦広王は更に笑う。

「如何です?殺殿、守る戦いは自分が傷つくだけでしょう?」

 秦広王は嬉しそうに一方的に喋る。
 その姿は無邪気な子供のようにも見えるが、これは狂気に歪んだ大人だ。
 けっして良いものではない。
 秦広王は更に続ける。

「貴方は今まで全てを守ってきた。それもこれも周りの皆が弱い為……。ですが私は違う!貴方に苦労はかけさせない!貴方が望むなら何でもしましょう!私なら貴方を守れますよ、殺殿」

 秦広王は全てを言い切ったらすっきりとしたのか殺に手を差し伸べる。
 だが……。

「ふざけるな……、黙れ!」

 口を開いたのは殺の背後に居た陽だった。
 陽の顔は怒りに歪んでいる。

「確かに僕は弱い!今も殺に守られているほどだ!」

 陽は怒鳴る。
 いったい何を考えて怒鳴っているのか?
 だが殺は不思議と笑顔を見せていた。

「だがな、何も……今まで何も守ったことのないお前に何が守られるか?せめて何か一つ……お前の為に命をかけた少女を守ってから口を開け!馬鹿女!」

 瞬間に陽は秦広王の目の前へ現れ刀を振るう。

 バキッ!

 何かが折れる音がした。
 折れたのは紛れもなく秦広王が持っていた大剣の一つだった。

「嘘よ……、私の剣が折れるなんて!」

 秦広王は怒りに狂う。
 時折聞こえる獣の如き呻き声が彼女の怒りをあらわしていた。
 彼女は己の感情、怒りに任せて殺と陽を蹴り飛ばす。

「ガハッ!……グッ!?」

 蹴り飛ばされて木にぶつかったは良いが殺の腹にはグサリと大剣が突き刺さっていた。
 殺は急いで気合いで大剣を抜き出す。
 抜かれた大剣からは血がぬちゃりと滴り落ち、生臭い気持ち悪い臭いが漂った。
 するとゆーらゆらと揺れながら秦広王が殺の前に現れる。

「殺殿……愛しています。だから私にしてください……」

 秦広王は殺の前でかがんで目線を合わせた。
 瞬間に殺は秦広王を抱き締める。
 いきなり抱き締められた秦広王は混乱しながらも喜び恍惚の表情を浮かべた。
 嗚呼、自分を選んでくれたんだと。

「私には誰からも愛されない、愛せない呪いがかかっていました。ですが、こんなにも自分を愛してくれている者が居たなんて……ありがとうございます。ですが……」

 ですが、その言葉の続きが秦広王には気になって仕方がなかった。
 殺は喋り続ける。

「私は陽を選んだのです。誰よりも優しい、お人好しな彼を……だからごめんなさい」

 殺は抱き締める手の力を一層強くした。
 そうして叫んだ。

「陽!今です!」

「うォォォォォォォ!」

 背後に現れた陽に秦広王は深く傷をつけられる。
 背中につけられた大きな傷から大量の血が吹き出て辺り一面を鮮血で汚す。
 殺の抱き締める手から逃れられなかった故に彼女は背中に大きな傷を負った。

「痛いいいいいいいいい!」

 そう泣き叫ぶ秦広王は最早、化け物である。

「一気に決めますよ!」

「了解!」

 彼らの刀に紫の闇、紅い闇が宿っていく。
 そうして刀を構えて勢いよく秦広王のもとへと走っていった。

「「うォォォォォォォ!!!」」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 刀を秦広王に突き刺す。
 紫の闇と紅い闇に包まれた秦広王は苦しみにもがく。
 だがそんなこと知ったことではない。
 殺と陽は刀に力を込める。
 紅い闇と紫の闇に覆われた秦広王は更に苦しんでいった。

 そしてゆっくりとスローモーションのように倒れていく。
 やっとだ、彼らは女殺しの犯人にして強大な敵の秦広王を倒したのだ。

 すると世界が眩い光を放っていく。
 如何やら元居た街中に帰られるようだった。


~~~~


 街中へ帰ると地獄の救護班が少女を助ける為に動いていたところだった。
 詩織は担架に乗せられて運ばれていく。
 御影が言うには応急処置が早かった為に毒によるダメージは無く命に別状はないそうだった。

 陽は安堵からへたりとその場へ倒れこむ。

「お疲れ様」

 その晩は倒れこんだ陽を支えながら歩く人殺し課の姿が見えたようだった。
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