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失恋
しおりを挟む「女殺しの犯人がまさか秦広王だったとはねぇ……」
閻魔は悩みはてていた。
何せ十王の内、二人が大罪を犯してしまったのだから。
これでは十王の信頼が下がっていくかもしれない。
そう考えて頭を悩ます。
だが終わったこと、これから起こる予測不能なことに頭を悩ましている場合ではない。
閻魔は手に持っていた書類に目を通して、亡者の裁判の準備を始めた。
~~~~
「やはり君も来たか。秦広王」
「ええ、来ましたよ。平等王」
秦広王は不機嫌な声で言葉をかえす。
衛生環境の良い、和やかな牢獄で彼女は現在は体育座りをして下を向いている。
まさか自分が囚人になる日が来るなんて……、彼女はまるで人生が終わったかのような表情を浮かべ小さな声で何かを呟いている。
「如何したんだい?」
「殺殿の隣には矢張り私がふさわしいと思って……」
秦広王がそう言ったのと同時に平等王は笑った。
それはそれはとてもウザいほどに。
流石の秦広王も平等王に苛ついて無言で目潰しをしようとする。
だがそれも平等王に防がれてしまう。
「何が可笑しいんですか?平等王」
「いや、君は純粋すぎると思って」
平等王は相変わらず良い笑顔をしていて秦広王を苛つかせた。
だが、平等王は言葉を続けた。
「君の良いところは純粋なところだ。だが純粋な思いは時に狂気となり凶器になる。君は純粋すぎたが為に、他の女に取られたくなかった。その思いは恋には大切だ。だけどね……」
「だけど何ですか?」
広い快適な牢獄に秦広王の鈴の音のような声が響いていく。
平等王は声だけなら好きなんだけどなぁと思いながら言葉を放つ。
「隣には自分の方がふさわしいって思うのは当たり前だけど、選ぶのは相手なんだ。だから失恋って言葉があるんだよ」
失恋、それは今の秦広王には辛すぎる言葉だった。
殺は陽を選んだ、それは実は本当はわかっていた。
だが認めたくなかったのである。
認めたら自分の今までの思いが台無しになる気がしたからだ。
そんなのは嫌だ、自分は守りたかった。
己の弱さを守りたかった。
秦広王は更に下を向く。
平等王はそんな彼女の頭を撫でて笑う。
泣いて良いのだと笑う。
すると秦広王の目から大粒の涙がこぼれ落ち、頬を濡らしていった。
「おー、よしよし。沢山お泣き」
「気安く……話し……かけないで……ください」
涙を他人に見せるのが初めてな王は如何すれば良いのかわからずに、ただ只管に泣いたそうな。
~~~~
「閻魔大王、お疲れですね」
「そうだよ、殺ちゃん。疲れてるよ……」
閻魔大王はやはり今後のことを考えられずにはいられなかった。
十王二人の事件はあまりにも閻魔一人には重すぎるものだったのだから。
閻魔は大嫌いな罪人の亡者の命乞いを聞いた後に考えてしまったのだから気分は最悪である。
閻魔は嫌なことは甘いものを食べて忘れるにこしたことはないと思い、殺をお菓子を食べることに誘う。
勿論だが、閻魔関係のことには即答の殺は「はい」と返事をしてお茶の用意をした。
殺は今回はどんなお菓子が出るのか楽しみでそわそわしている。
閻魔は殺の、その様子を見て羨ましいと密かに思った。
お茶が運ばれ、お菓子が用意される。
今日のお菓子は大福のようだった。
もちもちとした食感と餡子が絶妙的にマッチしていて美味しい。
殺は大福を幸せそうに食べ進めていく。
閻魔はそれを少し嬉しそうに眺める。
嗚呼、殺ちゃんのこの幸せそうな表情は見ていて幸せになるな……そう考えながら。
すると殺は口の中にあった大福を飲み込んで閻魔に語りかける。
「貴方、これから如何しようかと一人で悩んでましたよね」
「……」
閻魔は図星を突かれた。
更に殺は言葉を紡いでいく。
「貴方には私が居るでしょう?貴方にとって一番の存在が。だから私にも話してください。きっと貴方より良い案が出てくると思いますから」
「さりげなく最後が酷いよ……。ははは」
閻魔は少し楽しげに笑う。
それを見た殺は安心をした。
「酷くないですよ。本当のことですから。ですから一人で抱えこまないでくださいよ」
「わかったよ。りょーかい!」
閻魔は笑顔を浮かべた。
それは頼れる唯一無二の存在がいるからだろう。
その存在はきっと閻魔を救ってくれるのだ。
それが彼、殺の使命なのだから。
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