111 / 167
失恋
しおりを挟む「女殺しの犯人がまさか秦広王だったとはねぇ……」
閻魔は悩みはてていた。
何せ十王の内、二人が大罪を犯してしまったのだから。
これでは十王の信頼が下がっていくかもしれない。
そう考えて頭を悩ます。
だが終わったこと、これから起こる予測不能なことに頭を悩ましている場合ではない。
閻魔は手に持っていた書類に目を通して、亡者の裁判の準備を始めた。
~~~~
「やはり君も来たか。秦広王」
「ええ、来ましたよ。平等王」
秦広王は不機嫌な声で言葉をかえす。
衛生環境の良い、和やかな牢獄で彼女は現在は体育座りをして下を向いている。
まさか自分が囚人になる日が来るなんて……、彼女はまるで人生が終わったかのような表情を浮かべ小さな声で何かを呟いている。
「如何したんだい?」
「殺殿の隣には矢張り私がふさわしいと思って……」
秦広王がそう言ったのと同時に平等王は笑った。
それはそれはとてもウザいほどに。
流石の秦広王も平等王に苛ついて無言で目潰しをしようとする。
だがそれも平等王に防がれてしまう。
「何が可笑しいんですか?平等王」
「いや、君は純粋すぎると思って」
平等王は相変わらず良い笑顔をしていて秦広王を苛つかせた。
だが、平等王は言葉を続けた。
「君の良いところは純粋なところだ。だが純粋な思いは時に狂気となり凶器になる。君は純粋すぎたが為に、他の女に取られたくなかった。その思いは恋には大切だ。だけどね……」
「だけど何ですか?」
広い快適な牢獄に秦広王の鈴の音のような声が響いていく。
平等王は声だけなら好きなんだけどなぁと思いながら言葉を放つ。
「隣には自分の方がふさわしいって思うのは当たり前だけど、選ぶのは相手なんだ。だから失恋って言葉があるんだよ」
失恋、それは今の秦広王には辛すぎる言葉だった。
殺は陽を選んだ、それは実は本当はわかっていた。
だが認めたくなかったのである。
認めたら自分の今までの思いが台無しになる気がしたからだ。
そんなのは嫌だ、自分は守りたかった。
己の弱さを守りたかった。
秦広王は更に下を向く。
平等王はそんな彼女の頭を撫でて笑う。
泣いて良いのだと笑う。
すると秦広王の目から大粒の涙がこぼれ落ち、頬を濡らしていった。
「おー、よしよし。沢山お泣き」
「気安く……話し……かけないで……ください」
涙を他人に見せるのが初めてな王は如何すれば良いのかわからずに、ただ只管に泣いたそうな。
~~~~
「閻魔大王、お疲れですね」
「そうだよ、殺ちゃん。疲れてるよ……」
閻魔大王はやはり今後のことを考えられずにはいられなかった。
十王二人の事件はあまりにも閻魔一人には重すぎるものだったのだから。
閻魔は大嫌いな罪人の亡者の命乞いを聞いた後に考えてしまったのだから気分は最悪である。
閻魔は嫌なことは甘いものを食べて忘れるにこしたことはないと思い、殺をお菓子を食べることに誘う。
勿論だが、閻魔関係のことには即答の殺は「はい」と返事をしてお茶の用意をした。
殺は今回はどんなお菓子が出るのか楽しみでそわそわしている。
閻魔は殺の、その様子を見て羨ましいと密かに思った。
お茶が運ばれ、お菓子が用意される。
今日のお菓子は大福のようだった。
もちもちとした食感と餡子が絶妙的にマッチしていて美味しい。
殺は大福を幸せそうに食べ進めていく。
閻魔はそれを少し嬉しそうに眺める。
嗚呼、殺ちゃんのこの幸せそうな表情は見ていて幸せになるな……そう考えながら。
すると殺は口の中にあった大福を飲み込んで閻魔に語りかける。
「貴方、これから如何しようかと一人で悩んでましたよね」
「……」
閻魔は図星を突かれた。
更に殺は言葉を紡いでいく。
「貴方には私が居るでしょう?貴方にとって一番の存在が。だから私にも話してください。きっと貴方より良い案が出てくると思いますから」
「さりげなく最後が酷いよ……。ははは」
閻魔は少し楽しげに笑う。
それを見た殺は安心をした。
「酷くないですよ。本当のことですから。ですから一人で抱えこまないでくださいよ」
「わかったよ。りょーかい!」
閻魔は笑顔を浮かべた。
それは頼れる唯一無二の存在がいるからだろう。
その存在はきっと閻魔を救ってくれるのだ。
それが彼、殺の使命なのだから。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
辺境の無能領主、聖女と信者に領地を魔改造されて聖地と化した件〜俺はただ、毎日ジャガイモを食って昼寝したいだけなんだが?〜
咲月ねむと
ファンタジー
三度の飯より昼寝が好き。特技は「何もしないこと」。そんなグータラ貴族の三男、アッシュ・フォン・バルバドスは、ついに厄介払いされ、狼が出るという噂のド辺境「ヴァルハラ領」を押し付けられた。
「これで心置きなくグータラできる」と喜んだのも束の間、領地は想像を絶する貧しさだった。今日の食事も、裏庭で採れたジャガイモだけ。そんな絶望的な日々を送るアッシュの元に、ある日、王都から一人の美しい聖女セレスティアがやってくる。
政争に敗れて左遷されてきたという彼女は、なぜかアッシュを見るなり「神託の主よ!」とひれ伏し、彼を現人神として崇め始めた!アッシュが空腹のあまり呟いた「天の恵みはないものか…」という一言で雨が降り、なけなしのジャガイDモを分け与えれば「聖なる糧!」と涙を流して感謝する。
こうして、勘違い聖女による「アッシュ教」が爆誕!
「神(アッシュ様)が望んでおられる!」という聖女の号令一下、集まった信者たちが、勝手に畑を耕し、勝手に家を建て、勝手に魔物を討伐し、貧しい村を驚異的なスピードで豊かにしていく!
俺はただ、ジャガイモを食って、昼寝がしたいだけなんだ。頼むから、俺を神と崇めるのをやめてくれ!
これは、何の力もない(はずの)一人の青年が、聖女と信者たちの暴走する信仰心によって、意図せずして伝説の領主へと成り上がっていく、勘違い領地経営ファンタジー!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる