112 / 167
女男
しおりを挟む殺は元は女だった。
そうして女に戻りたいとも願っていた。
けれどもそれは過去の話である。
今を死なないように必死に生きる彼にとってはどうでも良い話なのだ。
だが、昔の話をするのも偶には良いだろう。
さあ、今から始まるのは殺が女に戻りたいと願望を抱いていた時の話だ。
皆様、とくとご覧あれ。
~~~~
寒い冬の日だった。
子供なのに殺は仕事の都合で雪の積もる外へと出向いていた。
寒さが体を侵食していき、身が凍りそうになる。
彼は白い街中を歩いて、その冷たい温度で疲弊した。
「嗚呼、寒い……」
こんな日は帰って、こたつに入るに限る。
殺は暖かい部屋を想像して閻魔殿へと帰る為に足早に移動した。
帰ったら、こたつに蜜柑かと少しはにかみながら歩いていた。
すると……。
「やーい!女男!」
「オカマは外に出るなー!」
地獄で働く必要のない家の後ろ盾がある者が殺を罵倒する。
彼らは幼かったが故に異端の者を馬鹿にした。
殺は女男と言われて少し……否、だいぶ傷ついた。
今ほどにメンタルも強くなかったこともあるが、当時に気にしていた呪いのことへ踏み込まれた気がして辛かったのである。
だが彼もいつまでも落ち込む訳にはいかない。
彼は前を向いて家へ帰る用意をした。
だがそれを同い年位の彼らが許す筈もなかった。
「だったら、これをくらえ!」
「うわっ!」
殺は自身の顔に当たった冷たい物に驚く。
顔に当てられたのは、それはそれは大きな雪玉だったのだ。
冷たい雪玉に驚いた殺を彼らは嘲笑する。
だが殺は何もしなかった。
殺は幼いながらにわかっていたのだ。
こういう奴らは例え仕返ししても、また湧き出てくることを。
それに仕返し返しをされることもわかっていた。
此処にはそんな馬鹿が多いのである。
だから殺は好きにさせてやれと言わんばかりの態度で雪玉を受ける。
だが、それは彼らを調子に乗らせるだけだった。
「おらっ!」
「痛っ……!」
殺の頭から血が滴り落ちていく。
どうやら幼子たちは雪玉の中に石を仕込んでいたようだった。
頭が痛みに支配される、その際に殺は彼らを睨んでしまった。
生前、恐れられていた禍々しい眼で。
「っ……!何だよ!お前が悪いんだ!皆、行くぞ!」
「お……おう!」
大将であろう者が皆と共に急いで走り去る。
彼らは恐れ慄いたのだ、その悍ましい眼に……。
殺は眼のことは気にしていない。
それは昔に閻魔が、その眼を美しいと言ってくれたからだ。
それに、この眼が自分を守ったことが嬉しかった。
「女男か……」
彼はそう呟いて閻魔殿へ帰る用意をした。
それも重い足取りで……。
~~~~
「殺ちゃん!如何したの?!その頭!」
「取り敢えず治療じゃ!」
「誰にやられたんだー?殺。俺が殺してやるからー!なー!」
帰ったら閻魔、御影、サトリが殺の頭の傷を見て心配しながら治療の用意をする。
若干一名、おっかないことを言っているが気にしたら負けだ。
「この位は大丈夫ですよ」
「でも……!」
「そんなことより仕事!」
殺は自分のことを軽んじている。
自分よりも仕事の方が優先順位が高いというのだ。
いつも通りの殺に見える、普通の者からしたら。
だが殺を気にかける者からしたらわかってしまう。
殺が受けたのは心の傷だと……。
「お主……何か言われたな」
「何も言われてませんよ」
「嘘つけ!その顔でわかんだよ!」
「ねえ、何があったか教えてくれない?」
殺は自分を気にかける存在に驚いていた。
確かに皆は大切だ、だが殺は皆が自分を気にかけるとは限らないと考えていたのである。
そうして殺は言わなければならない状況へと追い詰められた。
皆が自分を心配して訊いてきている。
もう何かがあったかもわかっている。
ならば言わねばならない。
殺は喋った。
自分が女男だとオカマだと罵しられたことを。
そうして石の入った雪玉をその身に受けたことを。
「よし!そいつらを殺してくる!」
「待て、サトリ!生き永らえさせて苦しめるのじゃ!」
物騒なことが飛び交う中で殺は暗い顔をして三人にあることを訊ねた。
その一言で皆が凍りつくとわかっていても訊ねられずにいなかった。
「私はもう男なのですか……?」
「殺ちゃん……」
女男、それは男を前提とした言葉であった。
それは女に戻りたい殺には残酷な言葉である。
閻魔は何処の糞ガキにそんな酷い言葉を言われたのかを真剣に考えていた。
それはそいつらに苦しい刑罰を与えたかったからだ。
御影は殺の一言で凍りつく。
だが、その一言が彼を奮い立たせる一言でもあった。
「儂が……儂がお主を女に戻してやる!」
「御影兄さん……」
殺は御影の堅い決意に思わず泣きそうになる。
誰もが辛い思いを受けた。
殺の悲しみは殺の大切な者たちに伝染するからである。
もうこんな悲しみは受けたくない。
殺に傷ついてもらいたくないのだ。
「俺も協力するぜ!」
「はいはーい!私も!」
「サトリ兄さん……。閻魔大王……!」
殺はとうとう大声をあげて泣きだす。
そんな殺を三人は必死に宥めた。
そうして願った、殺の幸せな未来を。
~~~~
あれから千年が過ぎた。
殺は女に戻りたい思いは捨てて今、守りたい大切な者の為に男になった。
昔の殺がこの未来を見たら嘘だろうと笑うだろう。
だが男になったことは真実だ。
今の彼は男になったことを後悔はしていない。
寧ろ喜んでいた。
これで大切な者の旦那様になれると。
女を捨てた殺の未来も幸せだった。
御影は若干だが複雑そうだったが。
それでも彼は笑った、大切な者たちと笑った。
今が幸せ。
そう笑った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる