地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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女男

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 殺は元は女だった。
 そうして女に戻りたいとも願っていた。
 けれどもそれは過去の話である。
 今を死なないように必死に生きる彼にとってはどうでも良い話なのだ。
 だが、昔の話をするのも偶には良いだろう。
 さあ、今から始まるのは殺が女に戻りたいと願望を抱いていた時の話だ。
 皆様、とくとご覧あれ。


~~~~


 寒い冬の日だった。
 子供なのに殺は仕事の都合で雪の積もる外へと出向いていた。
 寒さが体を侵食していき、身が凍りそうになる。
 彼は白い街中を歩いて、その冷たい温度で疲弊した。

「嗚呼、寒い……」

 こんな日は帰って、こたつに入るに限る。
 殺は暖かい部屋を想像して閻魔殿へと帰る為に足早に移動した。
 帰ったら、こたつに蜜柑かと少しはにかみながら歩いていた。
 すると……。

「やーい!女男!」

「オカマは外に出るなー!」

 地獄で働く必要のない家の後ろ盾がある者が殺を罵倒する。
 彼らは幼かったが故に異端の者を馬鹿にした。
 殺は女男と言われて少し……否、だいぶ傷ついた。
 今ほどにメンタルも強くなかったこともあるが、当時に気にしていた呪いのことへ踏み込まれた気がして辛かったのである。

 だが彼もいつまでも落ち込む訳にはいかない。
 彼は前を向いて家へ帰る用意をした。
 だがそれを同い年位の彼らが許す筈もなかった。

「だったら、これをくらえ!」

「うわっ!」

 殺は自身の顔に当たった冷たい物に驚く。
 顔に当てられたのは、それはそれは大きな雪玉だったのだ。
 冷たい雪玉に驚いた殺を彼らは嘲笑する。
 だが殺は何もしなかった。

 殺は幼いながらにわかっていたのだ。
 こういう奴らは例え仕返ししても、また湧き出てくることを。
 それに仕返し返しをされることもわかっていた。
 此処にはそんな馬鹿が多いのである。

 だから殺は好きにさせてやれと言わんばかりの態度で雪玉を受ける。
 だが、それは彼らを調子に乗らせるだけだった。

「おらっ!」

「痛っ……!」

 殺の頭から血が滴り落ちていく。
 どうやら幼子たちは雪玉の中に石を仕込んでいたようだった。
 頭が痛みに支配される、その際に殺は彼らを睨んでしまった。
 生前、恐れられていた禍々しい眼で。

「っ……!何だよ!お前が悪いんだ!皆、行くぞ!」

「お……おう!」

 大将であろう者が皆と共に急いで走り去る。
 彼らは恐れ慄いたのだ、その悍ましい眼に……。
 殺は眼のことは気にしていない。
 それは昔に閻魔が、その眼を美しいと言ってくれたからだ。
 それに、この眼が自分を守ったことが嬉しかった。

「女男か……」

 彼はそう呟いて閻魔殿へ帰る用意をした。
 それも重い足取りで……。


~~~~


「殺ちゃん!如何したの?!その頭!」

「取り敢えず治療じゃ!」

「誰にやられたんだー?殺。俺が殺してやるからー!なー!」

 帰ったら閻魔、御影、サトリが殺の頭の傷を見て心配しながら治療の用意をする。
 若干一名、おっかないことを言っているが気にしたら負けだ。

「この位は大丈夫ですよ」

「でも……!」

「そんなことより仕事!」

 殺は自分のことを軽んじている。
 自分よりも仕事の方が優先順位が高いというのだ。

 いつも通りの殺に見える、普通の者からしたら。
 だが殺を気にかける者からしたらわかってしまう。
 殺が受けたのは心の傷だと……。

「お主……何か言われたな」

「何も言われてませんよ」

「嘘つけ!その顔でわかんだよ!」

「ねえ、何があったか教えてくれない?」

 殺は自分を気にかける存在に驚いていた。
 確かに皆は大切だ、だが殺は皆が自分を気にかけるとは限らないと考えていたのである。

 そうして殺は言わなければならない状況へと追い詰められた。
 皆が自分を心配して訊いてきている。
 もう何かがあったかもわかっている。
 ならば言わねばならない。

 殺は喋った。
 自分が女男だとオカマだと罵しられたことを。
 そうして石の入った雪玉をその身に受けたことを。

「よし!そいつらを殺してくる!」

「待て、サトリ!生き永らえさせて苦しめるのじゃ!」

 物騒なことが飛び交う中で殺は暗い顔をして三人にあることを訊ねた。
 その一言で皆が凍りつくとわかっていても訊ねられずにいなかった。

「私はもう男なのですか……?」

「殺ちゃん……」

 女男、それは男を前提とした言葉であった。
 それは女に戻りたい殺には残酷な言葉である。
 閻魔は何処の糞ガキにそんな酷い言葉を言われたのかを真剣に考えていた。
 それはそいつらに苦しい刑罰を与えたかったからだ。

 御影は殺の一言で凍りつく。
 だが、その一言が彼を奮い立たせる一言でもあった。

「儂が……儂がお主を女に戻してやる!」

「御影兄さん……」

 殺は御影の堅い決意に思わず泣きそうになる。
 誰もが辛い思いを受けた。
 殺の悲しみは殺の大切な者たちに伝染するからである。
 もうこんな悲しみは受けたくない。
 殺に傷ついてもらいたくないのだ。

「俺も協力するぜ!」

「はいはーい!私も!」

「サトリ兄さん……。閻魔大王……!」

 殺はとうとう大声をあげて泣きだす。
 そんな殺を三人は必死に宥めた。
 そうして願った、殺の幸せな未来を。


~~~~


 あれから千年が過ぎた。
 殺は女に戻りたい思いは捨てて今、守りたい大切な者の為に男になった。
 昔の殺がこの未来を見たら嘘だろうと笑うだろう。
 だが男になったことは真実だ。
 今の彼は男になったことを後悔はしていない。
 寧ろ喜んでいた。
 これで大切な者の旦那様になれると。

 女を捨てた殺の未来も幸せだった。
 御影は若干だが複雑そうだったが。
 それでも彼は笑った、大切な者たちと笑った。

 今が幸せ。

 そう笑った。
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