地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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ついてない

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 殺は朝、珍しく寝坊して仕事場へと急いで走っていた。
 本来なら徹夜の筈だったが急な眠気が襲ってきて眠ってしまったのである。

「ついてない!」

 そう叫ぶ彼が急いでいる理由は他にもある。
 彼は今現在、野良犬数匹に追いかけられているのであった。
 しかも見た目からして強面の凶悪そうな野犬だ。

「何でですかぁぁぁぁぁぁ!?」

 野犬は何故だか増えていくは増えていくは……まるで何かに呼び寄せられてるみたいである。
 殺はもはや背後は見ないことにして走って逃げる。
 だが彼を最初に攻撃したのは背後の野犬ではなかった。

「ぐぁ!」

 殺は地面で勢いよく一回転を披露することになる。
 そう、彼は転んだのだ。
 石につまづいて。
 野犬はこれを好機と言わんばかりにじりじり寄ってくる。

「ちょっ……まっ……ぁぁぁぁぁぁ!!」

 悲鳴が長く続いたのは言うまでもない。


~~~~


「何でそんなにボロボロなのじゃ?」

「ついてないからですよ……ははは」

 殺は御影とサトリに挟まれて現在、閻魔殿の廊下を歩いていた。
 彼は所々、噛みつかれていて服がもう破れている。
 それでも殺は犬に対して攻撃はしなかった。
 それは自分より弱い存在をむやみやたらに殺生したくなかったからだ。
 まあ、放っておいたら他に被害者が出る気もするが知らん振りである。

 殺は朝の出来事を疲れたと言う風に話した。
 その話には思わず御影とサトリが同情してしまった。
 勿論のことであるが兄として憐れんでいる。

「何でついてないんだろうな?」

「きっとそういう日なんじゃろう……。殺、死ぬのではないぞ。決して毒矢が降り注いできて死にましたエンドなんか迎えるでないぞ」

「どんなエンドですか……」

 そう無駄話をしながら歩いていると廊下で女性と話をしている陽を見つけた。
 殺は嬉しそうに陽に駆け寄る。
 それは朝の悪い出来事を忘れて……。

「陽!会いたかっ……ぐふぁ!」

「殺!」

 そんな叫びも虚しく殺は何も落ちてない地面につまづき転ぶ。
 その際だが、何か布のようなものを掴んだ気がした。
 何やらベルトみたいなものも掴んでいる気がする。
 殺は嫌な想像をして上を見た。

 するとそこには陽の紅い顔と水玉模様の可愛らしいトランクスが見えた。
 殺は身体中から汗が流れ落ち、全身の水分が抜けるといった風な体験をする。
 因みに陽と話していた女性は顔を急いで覆ってから何も言わず走り去ってしまっていた。
 気まずい空気が殺とサトリと御影を襲う。

「殺……」

「は……はい……」

 殺は思わず後退りをして陽から距離を取る。
 だが陽はゆっくりと距離を詰めていった。
 それも見るにも見れない悍ましい顔つきで……。

「陽……落ち着きましょう!私の話を!」

「五月蝿い!死ねぇぇぇぇぇえ!」

「ぐぁぁぁぁぁぁ!?」

 殺は地面から空中に浮かび上がることになる。
 陽の拳によって吹き飛ばされた身体は痛みに支配される。
 その時に殺は思った。

 本当についてないと……。


~~~~


「よ……陽」

「話しかけるな、今は他人だ」

「恋人では……?」

「他人だ!」

「そんな!!」

 今現在、人殺し課では冷たい嵐が吹き荒れている。
 人を簡単に凍てつかせてしまいそうな寒気はあまりにも恐怖に思えた。
 いつもは仲の良い二人が今日は一方的に険悪だ。
 これは恐怖もあるが、その前に何があったか気になってしまう。

「何があったのですの?」

「ついてないことを語ってたらついてないことが起こって、ついてない結果になった」

「いやいや、わかりませんわよ」

 珍しく馬鹿三人は小声でコソコソと話す。
 その話し合いの際に何があったかをMは御影に聞かされて思わず笑いそうになった。
 だがここで笑えば、確実に陽の傷を抉る。
 そうして被害が殺へ行ってしまう。
 普段の幸せな二人に戻ってほしい三人は笑うことを堪えた。

「陽……、せめて恋人に戻してください……。奴隷扱いでも良いですから」

 殺が奴隷扱いでも良いと言う日が来るなんてと御影は呑気に考える。
 仲を前みたいに戻す為に自分から歩みよるとは……成長したものだ。
 だが陽はまだまだ子供だった。

「他人が何を言っている?」

 実はまだ成人したての陽は子供みたいな一面を持っていたのだ。
 一度拗ねると、とことん拗ねる。
 それが陽なのだ。
 だから行動も時に幼稚で馬鹿三人に直接的に制裁を下すこともある。

「陽……お願いですから……」

「何のお願いだ?聞かないが」

 そうやって仕事に立ち去る彼の後ろ姿は怒りに満ち溢れていた。


~~~~


「あれ?これは如何すれば良いんだ……?」

「あれ?陽くーん。殺ちゃんに訊けば?」

「閻魔大王、堂々とサボらないでくださいよ……。それと殺には聞きません!」

 何でー?と訊ねる閻魔は何となくだが二人に何かあったんだろうとわかっていた。
 陽は未だに朝の事を恨んでいて殺には頼らないつもりである。
 殺に頼らない気でいるのは閻魔はわかった。
 だがそれで仕事が滞るのは止めてくれとも言いたくなった。
 普段、仕事を滞らせているのは閻魔だが……。

「まぁ、これは後でで良いか……」

「え?そんな問題?」

「良いんです!これで!」

 閻魔は陽が大声をあげる様子を見て、これは陽が謝るのは時間の問題かと一人で笑う。
 そんなことに気づいていない陽は律儀に閻魔に向かって一礼をしてから部屋から立ち去った。


~~~~


「何で!わからないことが多いんだ!?」

 陽は怒りを抑えられずにいた。
 朝から出来ない仕事が重なるは重なるわ……もう彼は疲れていた。
 だが怒ると同時にこうも思った。
 嗚呼、自分は普段から殺にサポートされているんだなと。

 陽は自分の私情で仕事を滞らすのも嫌になっていた。
 確かに陽はまだまだ子供だが、それでも物事の判断はつく。
 皆に迷惑をかけているとわかったのである。
 そうなれば自分がしなければならない事もわかってくるものだ。

 一生懸命に謝る殺に酷い仕打ちをしてしまった。
 彼に一言、謝らねば。
 そう思い立ったら陽はもう殺のもとへと向かっていた。


~~~~


「はぁ……死にたい……」

「諦めるな。まだ勝機はあるぜ」

「何処に勝機などあるのですか?!」

 ぎゃーぎゃー騒ぐ彼はもはや生きる意味を見失っている。
 殺にとって陽は失いたくない最愛の存在だ。
 そんな彼を失ってしまうかもしれない事態に殺は絶望を感じていた。

「如何すれば……仲直りが……」

「出来るぞ!」

「本当ですか?」

 殺は真っ青な顔で御影に訊ねる。
 すると御影はドヤ顔を披露して言の葉を放った。

「多分じゃが、陽だけでは出来ない仕事がある。それは今までお主がサポートしてきた仕事じゃ」

「それが何ですか?」

 真っ青だった顔はもはや色を無くして白になっている。
 御影の話が耳に入っているかが疑問だ。
 それでも御影は呑気に言葉を紡いでいった。

「あの真面目な陽のことじゃ、仕事が出来ないことによってお主が大切な存在であることを思い出す。じゃから仕事を片付ける為にお主に謝りに来るじゃろう。そうしたら自然と仲直り出来るぞ」

「そう簡単に……「殺」

「!?」

 部屋の扉を挟んで陽の声がした。
 もう行動を起こしたかと御影は笑うと扉をゆっくりと開けた。

「御影……」

「陽。殺はそこに居るぞ。ゆっくりと話すが良い。儂らは外へ行く」

「いってきますわ!」

 その言葉を残して、馬鹿三人は部屋から去る。
 残っているのは勿論のことだ殺と陽だけだ。
 殺はまた自分を殴りに来たのでは?それとも罵声を浴びせに来たのか?などと疑心暗鬼に陥る。
 だが陽は穏やかな顔で殺を見つめた。

「殺……。すまなかった」

「……え?」

 最悪の結末を迎えるかもしれないと考えていた殺は一瞬だが何が起こったのかわからないでいた。
 だが陽はそれを放っておいて自分が言わねばならない事を更に言う。

「朝の事はお前には悪気は無かったのに……謝ってきていたのに無視してすまなかった。仕事が出来なくてわかった。今までお前が僕を支えてきてくれていた事が……。そんな優しいお前を子供のように無視するなんて……。本当に悪い事をした」

「なら……仲直りしてくれるのですね!」

 陽は首をゆっくりと縦に振る。
 その際もまた穏やかな顔であった。
 大切な者から離れてわかったのであろう。
 大切な者が自分を支えてくれていた事に。
 だから彼は優しい顔になっていた。

 殺は笑顔で陽に向かって駆け寄る。
 あと少しで愛しい彼を抱き締められる。
 あと少しで愛しい彼の笑顔を間近で見られる。
 その事に殺は気分を高揚させた。
 だが現実は残酷だった。

「陽!ぐぁ!」

「殺!?」

 殺は勢いよく転ぶ。
 床に足を滑らせて転んだ。
 陽を巻き込んで転んでいってしまった。


~~~~


「やっほー!閻魔さんだよ!……って、何これ?」

 現在、閻魔の前ではカオスな事が起きている。
 なんと殺が陽の股間に顔を埋めているのだ。
 流石の閻魔も状況を把握しきれない。
 だがわかる事は殺は真っ青な顔をしており、陽は真っ赤な顔をしている事だ。

 殺はもう泣きそうだ。
 そんな彼を陽は笑顔で見つめる。
 だが、先ほどの優しい笑みではない。
 悍ましい空気を纏った笑みだ。

「殺……」

「はい……」

 殺の顔が強張る。
 それと同時に陽の腕が上に上がった。

「死ねぇぇぇぇぇえ!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 その後、暫く殺は陽に無視をされたとか……。
 まあ、それでも別れないのが彼らなのだが。
 だって、自分にとって最愛の存在を失いたくないでしょう?

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