地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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動け!

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「御影兄さん」

「……何じゃ?」

 殺はいたって真剣な目で御影を見つめる。
 その様子に御影は彼らに何かがあったことをなんとなく察した。
 そうして何故、自分が頼られているかを考える。
 自分にしか頼れない訳とは?
 そう考えていると殺は日向の髪の毛を差し出した。

「これを使って日向の居る場所を探してください」

 その一言で日向が居なくなったことがわかる。
 だが御影は髪の毛を受け取ることを拒否した。
 殺はそんな御影を見てやはりそうかと思いながらも諦めずに懇願する。
 それも必死に。

「もう御影兄さんしか頼りが居ないのです!お願いします!」

「断る。連れ去られていたとしたならば少女は敵の本拠地に居る筈じゃ。お主は場所を言えば行くのじゃろう?」

「はい、行きます」

 殺の態度、危険が迫っているのにいつも通りの凛として背筋を伸ばした態度に御影は唇を噛む。
 御影は手渡された髪の毛を受け取った。
 だがそれをその場で地面にわざと落とし踏みつけてみせる。
 それに殺は流石に焦りを覚えた。

「何をするのですか!!」

「何故じゃ……」

「……ん?」

「何故お主はあの少女にこだわる!!」

 御影は顔を怒り、苦しみに歪めて殺に問いかける。
 それは殺に余計な傷を負ってほしくないから、戦いに明け暮れた彼をもう戦わせたくなかったから。
 殺は今まで修羅を生きてきた。
 それはこれからもである。
 御影はそんな彼に余計なものを背負ってほしくなかった。
 だが殺は穏やかな顔で御影の問いに答える。

「あの少女の笑顔を守りたいからです」

「笑顔?」

 殺の穏やかな顔に御影は少し調子を狂わされる。
 だがそれも少しだけ、彼はいたって冷静だ。
 冷静に殺の答えを聞いてみる。
 聞こうとしたからこそ続きを促した。

「言ってみよ……」

「あの少女は私にはなかった笑顔を持っていた。今でこそ笑える私ですが昔は本当の意味で笑顔がなかった。毎日苦渋を舐めて少しずつ私は笑顔を失っていった。毎日が苦しいと思って笑えなかった」

 御影は殺の話を真剣に聞く。
 それは真面目な彼には真摯な態度でいたかったからだ。
 殺は話を続ける。

「だがあの少女は死ぬかもしれない今でも今を楽しんで笑っていた。本当は辛い、苦しい筈なのに。生きる希望を持って笑っていた。希望を持って生きていたのです。私はそんな少女の笑顔に知らず知らずのうちに励まされてきた。そうして日向に未来を見せたいと思ったのです」

 未来を見せたい。
 見ず知らずの少女に言えたことではない。
 だが殺は殺なのだろう。
 そうやって人を助け導く。
 それが彼だ。
 だからこそ止められないと御影は悟った。
 御影は地面から髪の毛を取り、呪(まじな)いの言葉をかけていく。

「……御影兄さん!」

「場所は以前まで地獄の管轄下じゃった廃工場じゃ。お主は止めてもいくのじゃろう?儂らは手出しせん。一度だけ痛い目を見てこい」

「ありがとうございます!」

 そうして殺は刀を手に取り、走って日向の捕まっている場所へ向かった。
 さあ、準備は整った。
 行こう、戦場へ。


~~~~


「御影、良かったのか?」

「隠れて見てるとは趣味が良いのぅ、サトリ。それだけではないな……陽、M」

「ここは止めるべきだろう!」

「陽様、もう無理です。殺様は誰にも止められませんわ。手遅れになって絶望を見るよりは良かったのでしょう」

「そうじゃ。止められない。だからこそああやって奴は人を導くんじゃ……」

 そう笑う御影はどこか穏やかで安心しきった顔だった。
 彼らしい言葉を聞いて本当に安心したのだろう。
 彼は変わってなどいなかった。
 誰も見捨てない、諦めない強さは変わってなどいなかった。
 全員を救う、自信はたいしてないことは知っているが有言実行も知っている。
 今回も見事に解決してくるのだろう。

「俺たちも用意しようぜ」

「ああ」

 そうやって皆が武器を手に取った。


~~~~



「……うーん、此処は?」

「やっと目が覚めましたか」

「貴方は……八咫!?」

 日向は八咫を知っていた。
 何せ日向は殺に八咫を地獄で働く獄卒として紹介されていたからだ。
 とても強い優秀な部下だと。
 日向は焦り戦闘の体制をとろうとするが体が鎖に繋がれていて上手く動けない。

「何で私の命を狙うのです!」

「それを貴方に知ってもらう為に起きるのを待っていたのです」

「そこまでです」

「もう来ましたか……」

 来たのは勿論だが殺だ。
 刀を手に取り、覇気を滲ますその姿はまさに戦神である。

「裏切り者の処刑人、殺様ですか」

「貴方が何故それを?」

「憧れの存在を調べないわけがありません」

 八咫は爽やかな笑顔で殺がおさめられた大量の写真をばら撒く。
 その写真は八咫の地面の周りを埋め尽くしていた。
 中には着替え中の姿など変態的な写真もおさめられていて殺は若干だが引いたと同時に最近の妙な気配に納得がついた。

「ストーカーですか……?」

「私は純粋に貴方に憧れているだけですよ。正義に生きる貴方に」

「……何故、その少女の命を狙う必要がある?」

「何故と言われれば答えられることは一つしかないですね」

 そう言って八咫は「くふぅ」と笑ってみせる。
 その笑っている八咫に腹が立ったのか殺は答えを急かす。
 すると八咫は更に笑った。

「この子は世界を揺るがす兵器になる可能性が高いのです」

「……は?」

 さあ、物語は動き始めた。
 悪いことなど何一つしていない良い子の少女を巻き込んだ争い。
 殺は少女を取り戻せるか?
 はたまた取り返せないか?
 それはまだわからない。
 だが殺は戦うのだろう。
 少女の為に、己の生きる意味の為に。
 命尽きるまで……。
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