地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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悪夢を見せし者

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 思い出したか。
 己の背負う業を。
 全ては悪に生きたお前たちが悪い。
 そうお前たちは悪なんだよ。
 生きるだけで害悪になる存在だ。
 だから諦めて死んでしまえ。




~~~~


「ぁぁぁぁぁぁ!」

「殺様!!」

「はっ!?」

 殺は従者に揺さぶられて目を覚ます。
 従者は心配を全面にあらわしていて慌てふためいていた。
 鳥のさえずりを聞きながら殺は夢かと笑う。
 こんなに後味の悪い夢は初めてだと笑った。

「殺様……、大丈夫ですか?」

「ちょっと悪夢を見ただけです。心配なさらず」

 殺は従者の頭を撫でると仕事へ向かう準備を始めた。



~~~~


「暫くは休んで良いよー!殺ちゃんは頑張ってたからね!」

「はあ……」

「あれ?嬉しそうじゃないね」

「……いえ、嬉しいです」

 嬉しい、そう言ったが殺は本当は嬉しくなかった。
 休める、それは眠って良いことをあらわす。
 今日、見た悪夢の所為で嫌な気分。
 だから仕事に打ち込んで忘れようとしていた。
 だがそれが駄目になる。

「では、今日の分の仕事を終えてから休みます」

「うん!」

 そう言って殺は閻魔の自室から去っていった。



~~~~


「殺、なんか今日はやつれてるな」

「……そうですか?」

 人殺し課は殺の些細な変化に気づいて心配をする。
 今回は本当に殺がやつれてるので人殺し課の皆は彼に迷惑をかけないようにと仕事を頑張っていた。
 殺は虚ろな目を陽に向ける。
 だがその目が映し出したのは陽ではなかった。

「人殺し」

 その一言に殺は悲鳴をあげて頭を抱えこむ。
 黒い人影が笑いながら近づく。
 勿論だが皆はそんな言葉を発していない。
 これは殺にだけ聞こえた幻聴だ。

「私は悪くない!お前たちが悪いんだぁぁぁぁぁぁ!!」

「殺!?落ち着くのじゃ!」

 御影が殺の背中をさすって落ち着きを取り戻させる。
 その間ずっと殺は苦しそうに悶えていた。
 殺が落ち着きを取り戻してから皆は彼に何があったか訊ねる。
 だが人殺しのことは言えない。
 殺は悪夢のことだけを話すことにした。

「実は悪夢を見まして……。その所為で取り乱してしまいました。すいません」

「悪夢の所為か……」

「殺が暴れるってどれだけだよ。よっぽど恐ろしい夢だったんだな」

 各々が殺の見た悪夢について考える。
 彼が暴れるほどの夢、どれだけ彼は怯えたことか。
 するとMが何かを閃いたのか笑顔になる。

「どうした?M」

「皆で殺様の家にお泊まりに行きませんか?」

「お泊まり?」

 殺が疑問符を浮かべて訊ねる。
 Mは本当に自分が名案を思いついたと思い堂々としていた。

「皆が居れば悪夢なんて怖くない!殺様が悪夢を見た瞬間に叩き起こしたら良いのですわ!」

 叩き起こす。
 その一言に殺は笑った。
 それも楽しそうに。
 実際、負の感情は抑えられたのだろう。
 この者は馬鹿なことを言って笑わしてくれる。
 それが何より嬉しかった。

「皆が居れば確かに怖くないですね。わかりました!お泊まりを許可します!」

「やったー!!」

 自分には心強い仲間が居る。
 きっと彼らが自分を悪夢から救ってくれる。
 そう殺は信じた。
 信じて彼らに任せた。



~~~~



「ふォォォォォォォ!やっぱり大豪邸だな!」

「何回も来てるでしょう。落ち着いてください」

 サトリの無駄に高いテンションに殺は呆れ顔をする。
 だが今回は殺は皆に救ってもらう側だ。
 何も言えない。

「皆様、夕餉の用意が出来ました」

 従者が皆に声をかける。
 その日の晩はいつもより豪華なご飯を食べて彼らは満足した。

~~~~


「ふぅー!食った、食った!」

「お風呂も済ませましたし、後は寝るだけですね」

「殺、大丈夫か?」

 陽が心配そうに声をかける。
 だが殺は笑顔だった。

「皆さんが救ってくれるのでしょう?」

 救う。
 その一言に彼らは自信満々な表情を浮かべる。

「当たり前だ!」

 そう答えて皆が用意された布団に入る。
 ふかふかの布団で良い夢が見られそうだと考えながら。

「「「「「おやすみなさい!」」」」」

 皆は大きな、叫び声に近い声をあげて寝ることにした。



~~~~



「人殺し!人殺し!」

 殺の頭に声が響いてくる。
 刀は風を斬り、肉を斬った。
 鼻をそらしたくなる血生臭い臭い。
 顔に血飛沫が飛び散る。

「またか……」

「またですよ」

 殺はもう一人の自分を見つめる。
 今回は彼にとって怖いものは何一つない筈だった。
 筈だった。

「今回は前みたいにいかないですよ!」

「それは如何でしょう?」

「なっ!?」

 殺は急な光に包まれて目を閉じる。
 開けた目が映したのは殺にとって最も最悪の光景だった。

 四人の死体が積み重なる。
 それは見慣れた、毎日見ている顔だった。

「陽……?御影兄さん?サトリ兄さん?M?」

 嘘だと思いたかった。
 殺は錯乱していてこれが夢だと忘れている。
 いや、現実と夢がわからなくなっていた。

「嘘だ……嘘だぁぁぁぁぁぁ!!」

 殺は地面に崩れ落ち泣き叫んだ。


~~~~


「ぁぁぁぁぁぁ!!」

「殺!殺!」

 陽が必死に殺を揺さぶる。
 だが無情にも彼は起きなかった。
 だんだん皆が焦りを隠せなくなってくる。
 そんな中で御影は一つの呪符を手に取り、何かを唱えた。
 眩い光が四人を包む。

「殺の夢の世界へ行くぞ!」

「最初からその気だったのかよ!」

 こうして彼ら四人は殺の夢の中へ入っていった。


~~~~


「此処が殺の夢?」

 真っ暗な世界で彼らは呆然と立ち尽くす。
 すると殺の悲痛な叫び声が聞こえた。
 御影は叫び声の方を見る。
 すると……。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

「殺!?……誰じゃ。お主」

「あれ?俺ちゃんがわかるの?」

 殺は一人の男の前で苦しんでいた。
 苦しんで意識を手放した。

「あーあ、夢なのに気絶しちゃったな。笑える」

「何が笑えるんだ!?」

 陽が男に向けて叫ぶ。
 男は少し長めの三つ編みを揺らして礼儀正しくお辞儀をする。

「はじめまして!五人の英雄!俺ちゃんの名前は悪だ!翠様の息子だ!」

 翠、その言葉で悪という男が不幸の鬼の家族、翠の仲間だとわかった。
 少し前に話で聞かされた敵。
 それが本格的に動きだした。

「何故、殺に悪夢を見せたんだ?」

 サトリが冷静に訊ねる。
 すると悪は笑った。

「苦しませて死なせたかったんだよ!」

 その一言が陽には許せなかった。
 陽は刀を抜く。
 その光景が面白いのか悪はまた大笑いした。

「俺ちゃんに勝てると思ってるの?無理無理、諦めたら?諦めたら絶望しなくて済むよ」

「生憎、諦められない性分でな。皆、手出し無用。此奴は僕が殺す」

「出来るなら殺ってみなよ……」

 さあ、夢幻の世界で絶望を見るのは何方?

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