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3.復讐計画
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しおりを挟む「空けておけ、って。どこかに行く予定でした?」
お腹が温まったからか、薬が効いてきたからか、体調はだいぶ楽になった。足を伸ばし、ソファにもたれる。
「ひとりでメソメソしてるんじゃないかと思って、な」
気晴らしにでも連れ出してくれるつもりだったのだろうか。
それにしても、婚約解消した三日後に他の男と出かけるなんて、それはそれでいかがなものか。
「直の私物を片付けるつもりでした」
課長は「ああ」と呟いた。
「先にそっちだったか」
「先に、とは?」
「復讐、より」
「……さっきも言ってましたけど、復讐って?」
「……」
無言でじっと私を見たかと思えば、課長は食器を持って立ち上がった。
「コーヒー、もらうわ」
「え? あ、はい。あ、課長はご飯食べてないですよね。私はもう大丈夫なので――」
「――冷蔵庫にあったパン、適当に食っていいか?」
「いいですけど……」
初めてこの部屋に足を踏み入れて一時間弱。なぜか課長はすでに冷蔵庫の中身を把握しているだけでなく、コーヒーまで淹れている。
なんとも不思議な気分だ。
課長はモテる。
イケメンで仕事ができて御曹司。
モテるだろうにトラブルの噂がないところが、さらに好感度をアップさせているらしい。
その上、料理ができて、傷心で体調不良の部下の面倒を見てくれるだなんて、完璧じゃないだろうか。
「課長の苦手なことってなんですか?」
私に背中を向けるように立っていた課長が振り向く。
「は?」
「人には言えない性癖でもいいですよ?」
再び背を向け、冷蔵庫を開ける。
ちょうど私の位置から冷蔵庫は死角見えないが、昨日買って入れておいたパンを取り出しているようだ。
「人に言えないような性癖なら、お前にも言わないだろ」
「あるんだ」
「確かめてみるか?」
「無理です」
「即答かよ」
冷蔵庫を隠している柱から顔を出した課長の手には、パンとサンドイッチとサラダ。私が買ったものほとんどだ。
冷蔵庫に置き去りにされたのは、あんドーナツ。
私が好きだと言ったこと、覚えてくれていたのだろうか。
ガラステーブルにそれらを置いて、キッチンに戻った課長は、カップを二つ持って戻ってきた。
「あ、お前はコーヒーじゃない方が良かったか?」
「大丈夫です」
さっきまで座っていた私の斜向かいに腰を下ろすと、パンの袋をバリッと開けた。くるみパンだ。袋には二十パーセント引きのシール。
「課長と割引シールって、驚くほど似合いませんね」
「似合うとは言われたくないから、誉め言葉だと思っとくよ」
私がハハッと笑うと、課長も笑った。
「木曽根はさ――」
課長が大きな口でパンを頬張ると、三分の一ほどがなくなった。
咀嚼し、飲み込み、コーヒーを含んでもう一度飲み込む。
スーパーのくるみパンを食べても様になるから、納得いかない。
そういえば、いつもは後ろに流しているてっぺんの長い髪が、今日はうねうねして刈り上げた部分を隠している。
くせっ毛……?
Tシャツにジーンズ姿なら、三十代には見えないだろう。
「――あの二人に慰謝料払わせたらすっきりするか?」
「……どうでしょう」
すっきり、なんてしない。が、そう言ってしまうのは、悔しい。
「で、復讐だ」
「……?」
「このままじゃ、木曽根は慰謝料はもらえても、社内の噂の的のまま居心地の悪い環境で働き続けなきゃならない。あいつらは慰謝料こそ痛手だとしても、一時だろう」
「はあ……」
言われなくても、わかっている。
慰謝料を受け取ったら、転職してもいいかもしれない。そこまでしなくても、休職して林海さんが産休に入るのを待ってもいい。
私の今の状況を考えれば、課長や部長も許してくれるのではないだろうか。
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