復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

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10.彼女が愛した男

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「社内で俺に恋人ができたと噂になって――」

『――できたの!?』

「うん……」

『きゃぁっ! どんな子? プロポーズは?』



 きゃぁ、って……。



 この手の話になると、母のテンションは十代のようになる。

 もしかしたら、その場でジャンプしているかもしれない。

「まだ日が浅いから」

『そう。そうね。急いじゃだめね。でも、皇丞は? 結婚も考えてるの? あ、彼女はいくつ? お母さんとランチとか行ってくれそう? 姑とは関わりたくないとか思っちゃう?』

「どう……かな」

 とてもじゃないが、梓が逃げ腰なことを言えるテンションじゃない。

「とにかく! 父さんが噂を聞いたらしいから、会いに行ったり呼び出したりしないように頼もうと思って電話したんだよ」

『わかった。お母さんから言っとくから。社長に呼び出されるなんて、プレッシャーでしかないものね』

 母の言葉を聞いて焦る父が目に浮かぶ。

『皇丞、頑張ってね! でも、デキ婚はダメよ。家族計画は慎重に――』

「――わかってるよ。あ、キャッチ入ったみたいだ。じゃあ、お休み」

 適当なことを言って〈終話〉をタップした。

 あとは父さんに任せよう。

 いや、父さんのことを母さんに任せると言うのが正解か。



 どっちでもいいか……。



 疲れた。

 梓を抱いて、いい気分だったのに台無しだ。

 ダメダメ言っていたくせに、最後は俺の「愛してる」に「私も」と応えた彼女の蕩けた表情を思い出すと、簡単に下半身が反応する。

 目が覚めればまた俺から離れようと考えるかもしれないが、絶対に離す気はない。



 そのためにも――。



 俺は履歴から欣吾の番号を呼び出して発信した。

 なかなか出ない。

 メッセージにするかとスマホを耳から離した時、声が聞こえた。

『もしもし』

 スマホを耳に戻す。

「欣吾?」

『ああ』

 不機嫌そうな声。

「寝てたのか?」

『ああ』

「悪い」

『いや。起きなきゃいけなかった』

「会社か?」

『そ』

 欣吾にはいつも助けられているが、オーバーワークはどうにかしなきゃならないと思う。

 欣吾は週の半分は会社に泊まり込み、残りは女と遊んでいる。

 会社で溜めたストレスを女と遊ぶことで発散しているのだと言っていたが、健全ではない。

『梓ちゃんは?』

「は? 寝てるけど――」

『――俺も寝てぇ』

「帰って寝ろ――」

『ヤリてぇ』

 そっちか。

 今日は頭の痛いことが多い。

 俺はスマホを持っていない方の手で前髪を掻きむしった。

「状況は?」

『OK』

「サンキュ」

『梓ちゃん、ひと晩貸して』

「殺されたいか」

『抱き枕でいいから』

「欣吾」

『俺、頑張ってるのに……』

 それは感謝しきれない。

「もう一つ頑張ったら、梓と食事させてやる」

『店は俺が決めていい?』

「ダメに決まってるだろう」

『二人きり?』

「はぁ?」

『……ひどい』

 自覚は、ある。

『で? 何をしろって?』

 さすが、持つべきものはチャラいが仕事のデキる親友だ。

 俺は簡単に用件を伝え、電話を終えた。

 欣吾には、礼をしなければ。梓が絡まないことで。

 俺はベッドに戻り、梓を抱きしめた。



 抱き枕?

 冗談じゃない。

 梓は誰にも触れさせねぇ。



 梓が俺の胸に頬擦りをする。

 可愛い。

 ぎゅっと強く抱きしめると、彼女の手が俺の腰を抱いた。

 起きているのかと顔を覗き込むが、穏やかな寝息を立てている。

 無意識にそうしているのだから、なおさら堪らない。

 絶対に離してやるものかと、思った。
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