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11.炎上
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しおりを挟む専務は知っている。そんな気がした。
そんな気にさせる、言葉と表情。
見なくても、皇丞がどんな目で専務を見ているかわかる。だから、ここは彼に言わせてはいけないと思った。
背筋を伸ばし、真っ直ぐ専務を見据える。
「私が担当している二社から、担当替えの要望がございました」
「――っ!」
皇丞が私を見たのを、視界の端に捉えた。
平井さんと山倉さんが息を呑むのも感じた。
わかっている。
専務につけ入る隙を与えてやる必要はない。
きっとまた、社長の息子の恋人がやらかしたと、噂される。
皇丞はもちろん、社長だって何を言われるかわからない。
それでも、今隠したとしても、どうせバレる。
部長に報告した十分後に知られるなら、今知られても変わりない。
それに、林海専務の前でこそこそしたくない。
せめて今だけは、強がり通したい。
「広塚家具の件が耳に入ったらしく、私を担当から外すようにとのことです」
「まったく! なんてことをしてくれたんだ!!」
突然の大声に、聞き耳を立てるだけに留めていたフロアの面々の視線が集まる。
「電話一本もまともに対応できないばかりに、どれだけ迷惑をかけたら気が済むんだ!」
ドンッと専務が机を叩いたものだから、部長まで肩を竦ませる。
私はなぜか、専務の言葉や表情が、とても芝居じみて見えた。
そう思いたいだけか。
やはり、専務は知っていたのか。
「申し訳ございません」
今はそう言って場を収めるのが一番だと思い、深く頭を下げる。
「それは、広塚家具の件は自分のミスだったと認めた上での謝罪か?」
「――っ!」
頭を下げたまま、考える。
そう思われても仕方がない。
そういうことにしてしまった方が、収束できるのかもしれない。
でも、私じゃない。
私は電話を受けていない。
けれど、それを証明できない。
皇丞は証明しようとしてくれている。
社長もきっと、信じてくれている。
平井さんも山倉さんも。
けれど、私が認めないせいで、こうして被害が出ている。
私の潔白は、たくさんの人、業務に支障をきたしてまで証明されるべきものだろうか。
私に、そんな価値があるだろうか。
答えに迷ったまま、顔を上げた。
けれど、専務の勝ち誇った顔を見たら、迷いが吹き飛んだ。
「いえ。私のミスではないことを早々に証明できないばかりに、ご迷惑をおかけしてしまうことへの謝罪です」
一瞬で、専務の表情が歪む。
いつか見た、きらりの鬼のような表情にそっくりだ。
「まだ言うか! いい加減に――」
「――その件に関しては、次の経営会議でハッキリさせます!」
皇丞が言った。
「それとも、専務には木曽根のミスだと証明できる何かがおありですか」
「――――っ!」
わなわなと、まさにその表現が相応しく、専務が拳を震わせる。
彼は、なぜここまでするのだろう。ふと思った。
皇丞が言っていたように、副社長になりたいから?
そのために、一人娘をダシにして皇丞を追い詰め、社長も追い詰めようと?
それとも、きらりのため?
きらりにとって目障りな私を辞めさせるため?
ついでに、皇丞も蹴落とせたらラッキーくらい?
わからない。
わかりたくもない。
わかったって、許せない。
「部長」
専務の横でハラハラしている部長に言った。
「要望のあった二社の担当を外れます」
「あ、うん。そうだね」
専務の反応を気にしながら、部長は頷いた。
「この際だから、少し休んだらどうかな? 木曽根さんも、その、やりにくいだろう? 色々と! ね?」
これ以上の面倒はごめんだからほとぼりが冷めるまで消えてくれ、ってことね。
なんならこのまま辞めてほしい、のが部長の本音だろう。
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