復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

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15.罠の真相

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「退職願を出したって、本当か!?」

「え……?」

「なんで――。いや、俺のせいだよな。ごめん! 頼むから辞めるなんて――」

「――待って! 私、出してない」

 まだ、とは言わなかった。

 退職しようと思っていたのは、皇丞が来る前までのことだ。

 皇丞は「ん?」と聞き返す。

「出してないよ? 退職願」

 そもそも、今日は日曜日だ。

 そのことに気がついたのか、皇丞がその場にずるずると座り込む。

 手で顔を覆い、項垂れる。

「……はぁっ……」

「皇丞?」

 私もその場にしゃがむ。

「出してないなら、いい」

「どうしてそんなこと――」

「――俵に一杯食わされた」

「俵さん? ……っ!」

 忘れていた名前にハッとして、私は勢いよく立ち上がり、ダイニングに伏せて置いたスマホを手に取った。

 ロック画面に、メッセージのポップアップ。

〈助けが必要ならいつでも〉

「梓……?」

 私は〈ありがとうございます〉とだけ返信した。

 そして、スマホをテーブルに戻し、ラグの上でへたり込んでいる皇丞を見た。

「皇丞。私が辞めると思って来たの?」

「……ああ」

「昨日戻ったばかりなのに?」

「ああ」

「何やってんのよ」

「ホントだな」

 力なく笑う。

 本当に、いつもの余裕の表情はどこへやら。

 親に怒られた後の子供のようだ。

「私、怒ってるのよ」

 彼の視線が彷徨う。

「うん……。ごめん」

「どうして怒っているのか、わかってる?」

「林海が天谷に近づくのを――」

「――違う。皇丞が林海さんとこそこそ会ってたからよ。あんな録音までされて」

「ごめん」

「それに、林海さんをいい女だと言った」

「それは――っ!」

「ムカつくわ」

「ごめん……」

 がっくりと肩を落とす皇丞は、なんだかぐったりしてる。

「皇丞?」

「ん」

「大丈夫?」

「なにが」

「体調悪い?」

 彼の顔を覗き込むと、目の下が腫れぼったく、クマができている。

 所々に髭の剃り残しもある。

 なにより、ワイシャツもスーツもヨレヨレだ。

 いつも、人前ではきちんとしすぎるくらいしている皇丞らしくない。

「ちゃんとご飯食べて寝てる?」

「……」

「皇丞?」

「食欲なんかない。……お前と連絡とれなくなってからずっと、眠れない」

 なんだか、少しだけ可哀想になる。

 私は、ちゃんと食べていた。

 眠りは浅かったけれど、会社では平井さんと山倉さんとランチして、夜はオムライスの練習をしては食べていた。

 練習中に太ったんじゃないかと思うくらいだ。

 なのに、その間、皇丞は食べることも眠ることもままならなかったのだとしたら。

皇丞あいつ、梓ちゃんが初恋だよ、きっと』

 俵さんの言葉を思い出す。



 こんな風に、ボロボロになってくれるのね……。



「話をする前に、お風呂と食事が必要ね」

 問答無用で皇丞を浴室に連行すると、私は本日二度目のオムライス作りを始めた。


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