復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

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16.復讐の終わり

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*****


「おはようございます」

「おはよー」

 私と皇丞が揃って出社したにも関わらず、美嘉さんの挨拶は私だけに向けられた。

「ね! どうだった?」

「なにが?」

「金曜日! イヴ!」

 そうだった。

 土曜、日曜とバタバタしていて忘れていたが、金曜日は美嘉さんの誘導で私は会議室に向かった。

「あれ、指輪は?」

 美嘉さんが私の左手を持ち上げる。

 そして、皇丞を見た。

「課長は跪いて、ごっつい指輪を差し出すようなプロポーズをすると思ってたのに!」

「平井が言うと感動的に聞こえないのはなんでだろうな」

 皇丞がため息交じりに言う。

 実は皇丞、指輪を用意できなかったことを気にしていた。

 というか、何も、用意できなかったことを。

 金曜日は、本当にギリギリまで帰れるかわからなかったそうだ。

 変更可能な飛行機のチケットだけ買っておいて、あとはひたすらに仕事をしたという。

 晋太さんには、キャンセルする場合もあるという前提で準備してもらっていたと聞いた。

「あ~あ。うちの課の男どもは、揃ってヘタレね」

「ヘタレ……」

「揃ってって?」

 軽くショックを受けている皇丞を尻目に、私は美嘉さんが指さす方に目を向けた。

 そこには、机に突っ伏す山倉さん。

「え、プロポーズ失敗?」

 小声で美嘉さんに聞く。

「失敗……というか……」

「……?」

 口ごもる美嘉さんに、私と皇丞は顔を見合わせる。

「プロポーズ、されちゃったんだって」

「え……?」

「意気込んでたのに、逆プロポーズされて格好つかなかったって、今日になって落ち込んでるの」

「……」

「あ! 私がからかったわけじゃないわよ? そりゃ、待ちきれなくて女から言わせちゃうのってどうなの、みたいなことは? 言ったけど」

「それ……は――」

「――あ! もしかして、尻に敷かれるの確定ね、って言ったから? それで落ち込んでる?」

「美嘉さん……」

 ガタンッと物音がして振り向くと、皇丞がゴミ箱をひっくり返していた。

 まだ空のそれを元に戻し、どことなくフラフラとデスクに向かう。

「どしたの、課長」



 言えない……。

 私からプロポーズしたなんて。



「逆プロポーズでも、幸せならいいじゃないですか! 待ちきれないくらい好きだってことで」

 わざと大きめの声で言った。

 山倉さんと、皇丞に聞こえるように。

 だが、あまり効果はなかったようだ。

 今日の皇丞と山倉さんは、見るからにポンコツで。

 山倉さんに至っては「金曜日に戻りたい……」と涙ぐむ始末。

「課長はカッコよくプロポーズしてくれたんでしょう?」

 どこまでも卑屈になっている山倉さんを元気づけたくて、「普通だよ?」と言ってみれば、まさかの皇丞に聞かれてしまった。

 そして、帰宅後。

 私はソファに座って膝を抱く夫を前にしていた。

 まるで子供だ。

 結婚三日で、夫のこんな姿を見ることになろうとは。

「ね、皇丞? 私は――」

「――金曜に戻りたい……」

 皇丞が山倉さんと同じことを言った。

 皇丞はそれを知らない。

 だから、堪えようとした。

 なのに、昼間の山倉さんを思い出してしまい、堪えきれなくなってしまった。

「くっ……くくっ……」

 笑いが溢れる。

「笑うことないだろ! 俺は本気で――」

「――だって! 山倉さんと同じこと言うんだもん」

「嘘だろ……」

 しまった。

 さらに落ち込んでしまった。

「平井にはヘタレとか言われるし」

「ああ……」

「くそっ。それもこれも――」

 ばっと顔を上げた皇丞に腰を抱かれ、前のめりになった。

「――俺のプロポーズを邪魔した梓が悪い!」

「へっ!?」

「おしおきだな」

 彼は私に圧し掛かり、首筋にキスを落としながら片手は胸に、片手は太ももに触れる。

「なにがおしおきよ。ヤリたいだけじゃない」

「色気のないこと言うなよ」

「っていうか、どうするの? 子作り」

 皇丞の手がピタリと止まる。

 顔を上げ、私を見下ろした。

「どうしよう」

「結婚式、する? お父さんはああ言ってたけど、私は――」

「――する! 俺も梓のドレス姿見たいし」

「じゃあ、子作りは延期?」

「……そうなるか」

「なら、あんまり興奮しないでね?」

「……あんまり興奮させないでね?」

 皇丞が小首を傾げ、私たちは笑い合った。

 彼の顔がゆっくりと近づき、唇同士が触れる。

 ちゅっと軽く触れ、互いの唇を食み、舌を絡ませる。

 彼の手がカットソーの裾から侵入する。

「なぁ、梓」

「ん?」

「幸せか?」

「そう、ね」

「そう、か」

 皇丞の手がスウェット生地のワイドパンツの中に滑り込む。

 そのまま、ショーツの中にまで入り込み、足の付け根を撫でる。

「梓っ!」

「ね――」

 彼の指が私の弱いトコロを探る。

「――私が皇丞の復讐計画に乗らなかった……ら、どうす――っ」

 指の侵入に、ぎゅっと唇を結んだ。

「――どうしてたかな」

「……っは。んっ」

「でも、きっと、絶対、どうしたって諦められなかった」

 私の身体を知り尽くした彼の手にかかれば、簡単に高みへと誘われる。

「でも、もう、復讐は終わりだから――」

「――皇丞っ! も……ぉ」

「溺愛あるのみだな」

 今までだってそうだったじゃない。

 言いたかった言葉は、震える吐息に変わった。

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