復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

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番外編*甘いお仕置き

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「梓。株式会社ホリモクの堀田源一げんいち社長と、奥様の永江ながえさんだ」

 ゆっくりと腰を折る。

「梓です。結婚式にご列席いただけるとのお返事をいただきまして、ありがとうございます。子供の頃から可愛がっていただいたと主人から聞いて、お会いできるのを楽しみにしておりました」

「私も楽しみにしていたんだよ。皇丞くんが惚れぬいた女性に会えるのを」

 堀田社長が茶目っ気たっぷりに笑う。

 杖を突いていても、皇丞より背が高いとわかる。

 足腰を痛めるまでは、自ら現場に出てより良い木材を吟味、加工していたと聞く。

 親が遺した山々を元手に木材を扱う会社を立ち上げ、トーウンの商品にも深く関わってきた。

「なんで知ってるんですか?」

「結婚式の招待状、お義父さまとお義母さまが直接持って行ってくださったの」

 私は皇丞に言った。

 招待状の発送前チェックの時に、手渡しする分を抜いたのだが、お義母さまも数件分を抜いていた。

 そして、堀田ご夫妻は、結婚式の日時も場所も確認せずに『必ず出席する』と、その場で返事を書いてくださったとお義母さまから聞いていた。

「東雲の喜びようったら、すごかったぞ?」

「お恥ずかしい限りです」

「いやいや。私でさえ涙が出るほど嬉しいんだ。東雲や寿々音さんはこんなもんじゃないだろう。梓さん、皇丞のことをよろしく頼みます」

 堀田社長の目に、うっすらと涙の膜が見えた。

「子供がいない私たちにとっては、息子も同然だ。何かあったらいつでも言っておいで。私からもきつく叱ってやるから」

「なんで俺が叱られる前提なんですか」

「バカだな。それが夫婦円満の秘訣だ。東雲も同じことを言うさ」

 社長はもうじき、ホリモクを手放す。

 私はそれをお義母さまから聞いたが、皇丞はお義父さまから聞いているはずだ。

 後継者がいない以上、廃業するか人手に託すかしかない。

 堀田社長は、何年も前から会社を託せる人を探していたらしい。

トーウンうちだってね? 皇丞が継がないと言えば同じだったのよ。無理に継がせるつもりはなかったから』

 私が息子を授かるかはわからない。

 何十年後かには、皇丞と私が堀田社長と同じ立場かもしれない。

 そう思うと、少し怖くなった。

「さ! 続きは受付を済ませてからにしましょう」

 奥様がそう言うと、皇丞が社長の、杖を持たない方に立った。

 社長が皇丞の腕に手を添える。

「お前に手を借りる日がくるとはな」なんて言いながらも、社長は少し嬉しそうだ。

「お着物、素敵ね。良く似合っているわ」

 社長と皇丞の背中を見ながら、奥様が言った。

「寿々音さんが自慢したくなるのもわかるわ」

「そんな……。でも、ありがとうございます。お義母さまの大切なお着物が似合うと言っていただけて、嬉しいです」

「今度、寿々音さんとのランチに入れてもらってもいいかしら? お嫁さんとのランチやお買い物がとても楽しいって聞いたの」

 ふふっと穏やかに微笑む彼女は、年齢なんて関係なく『可愛い』という表現がぴったり。

「こちらこそ、ぜひご一緒させてください」

「ありがとう。今日は他社のパーティーこういう場だから仕方がないけれど、そんなに畏まらないでね? 今でこそ社長夫人なんて呼ばれているけれど、実のところは生まれも育ちも田舎のおばあちゃんなんだから」

 寿々音さんをはじめ、皇丞との結婚で私を可愛がってくれる人たちは、驚くほどいい人ばかり。

 立場のある人、お金のある人は鼻持ちならないなんて、嘘だ。

 と思えたのは、その時だけ。

「奥様のご実家はどちらでしょう?」

 パーティー会場で真っ先に皇丞に声をかけた女性に聞かれ、ドラマみたいなシチュエーションに驚いた。

 これは、ダンスもあり得るかもしれない。

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