【ルーズに愛して】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

文字の大きさ
8 / 179
2.OLC

しおりを挟む



「あ! 麻衣ちゃん」

 店に入り、「いらっしゃいませ。おひとりですか?」と店員さんに声をかけられた時、奥からさなえの声がした。

 正面、奥の座敷の襖が空いていて、首を伸ばした陸が見えた。

 私は店員さんに、「席、わかりました」と言って、奥に進んだ。

「龍也とあきらはまだ?」

「ああ」と、陸が答える。

「今日、寒いね」と言いながら、私はジャケットをハンガーに掛け、壁のフックに引っ掛けた。

 バッグから財布を出す。

「麻衣ちゃん、先週は大斗がごめんね」と、さなえが言った。

「ううん、大丈夫だよ」

 私は会費を千尋に渡した。

「ん? 大斗?」

 陸と話していた大和が、息子の名前に反応した。

「ほら! 勝手に私のスマホ弄って、麻衣ちゃんに電話しちゃったって言ったじゃない」

「ああ、言ってたな」

「大斗くんがスマホ弄るの?」と、千尋が私の会費を封筒に入れながら、聞いた。

「そうなんだよ。動画見たくて」

「今時の二歳児って、みんなそうなの?」と私は聞いた。

 さなえの隣に座る。正面には、陸。

「うちはあんまり見せないようにしてたんだけどさ」と、大和がため息交じりに言った。

「あ、また私のせいにしようとしてる」と、さなえが少しムッとする。

「大和だって――」

「龍也! あきら!」

 店に入ってきた二人を見て、陸が呼んだ。二人は店員が駆け寄るより先に、奥に進んだ。

「なに、二人で来たのか?」と、陸が聞く。

「いや、そこで会った」と、龍也が答えた。

 大学時代、龍也はあきらが好きだった。再会して、こうして集まるようになって、龍也のあきらへの気持ちは復活したと思う。

 時々、あきらのことをすごく優しい表情で見ているから。

 あきらが龍也の気持ちに気付いているかはわからないけれど、二人はお似合いだと思う。

 いつからだったか、あきらは雰囲気が変わった。

 もともと、年上の私より大人っぽくて、面倒見が良くて、さなえと揃ってしっかり者のあきらだけれど、陽気さがなくなってきている気がする。

 再会した頃のあきらは、大学時代のまま、よく笑っていた。けれど、最近は少し違う。

 集まりにも、来たり来なかったり。

 みんなそれぞれに仕事を持って、次第に責任のある立場になっていけば、ずっと変わらずにいられるはずはないとわかっているけれど、私にとってOLCのみんなは心の拠り所だったりするから、この集まりを大切にしていた。

 千尋が二人から会費を受け取る。

「まずはビールでいいか?」と、陸が聞いた。

「私、ウーロン茶で」と、さなえ。

「飲まないの?」と、あきらが聞く。

「うん。大斗が風邪気味で先に帰るかもしれなくて」と、さなえが言った。

「最近寒いもんね」

「私もさっき、同じこと言った」と、千尋が笑った。

「んじゃ、ビール六つにウーロン茶一つな」

 陸が部屋から顔を出し、店員さんに注文した。開けておいた襖を閉める。

 店内が混みあってきて、乾杯から盛り上がる学生らしき若者の笑い声が響いた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

体育館倉庫での秘密の恋

狭山雪菜
恋愛
真城香苗は、23歳の新入の国語教諭。 赴任した高校で、生活指導もやっている体育教師の坂下夏樹先生と、恋仲になって… こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載されてます。

処理中です...