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「千堂はなんて?」
『決定事項なら仕方がないけど、FSPの反応を見てるようなら課長が出てくれるって』
半人前の部下に対する、上司としての模範解答だ。
大抵は、その言葉で気持ちが楽になる。
だが、どうやら彩には通じなかったらしい。
「自社製造の話は、どこからの情報だ?」
『企画部長』
「ハッタリで値下げ交渉されたことは?」
『この一年は、ない』
「じゃあ、ハッタリじゃない?」
『……と思う』
「なら、彩の手に負える問題じゃないだろ」
『……そうなんだけど……』
彩が口ごもり、俺は先を待った。が、言うのを迷っているのか、なかなか沈黙が消えない。
「どうした?」
『……なんでもない』
「なんだよ」
『こんなんで指導係なんてしてていいのかなって思っただけ』
「関係ないだろ」
『けど……』
こういう時、顔が見えないのが本当にもどかしい。
声だけじゃ、彩の感情が読めない。
「堀藤」
『え?』
「気になることがあるなら言ってみろ」
『……?』
「上司として聞いてやる」
ちょっと偉そうに言った。
いや、仕事中はいつもこんな感じだ。
彩と付き合うようになってからは、自分でも大分丸くなったと思うけれど、それでも部下たちからは怖がられている。
『どうせなら、恋人としての方がいいかなぁ』
「なんでだよ」
『直属の上司でもない智也のアドバイスを聞いちゃったら、千堂課長の立場ないじゃない』
こいつはどこまで真面目なんだ、と思った。
「千堂に、お前から相談されるほどの人望がないだけだろ。気にすんな。それに、せっかく恋人が上司なんだから、上手く利用しろよ」
『利用なんて――』
「わっかんねーかな。頼れる男だってアピールしたいんだよ。つーか、普通に頼れ。愚痴でも何でもいいから、言えよ」
彩が笑っている気がした。声は聞こえなかったけれど。
彩なら少し呆れたように、でも嬉しそうに笑ってくれている気がした。
「で? なにが気になるんだ?」
『担当の部長、ハッタリを言うような人じゃないんだけど、自社製造なんて本気なのかが不思議で……』
「どういう意味だ?」
『業績が落ちてるの。事業も縮小してるこの状況で、自社製造なんて莫大な初期投資をする余裕があるとは思えなくて』
いいところに気が付いたな、と感心した。
顧客の業績不振も知らずに契約を結び、不渡りを出されるなんて営業マンとしては絶対にあってはならないことだ。
だが、実際には、さほど大きな額でなければ、大した調査もなしに契約してしまう。
まして、契約を切られるかもしれない顧客の業績なんて、どうでもいいことだ。
『正式決定前に私に漏らしたのも気になるし』
「確かにな……」
『再来年の創業五十周年に向けて、自社製造ラインを導入したいのはわかるんだけど、工場用地も決まっていない状態で間に合うとも思えないし』
「完全オリジナルの商品の製造の為の自社製造、か」
『多分……』
『決定事項なら仕方がないけど、FSPの反応を見てるようなら課長が出てくれるって』
半人前の部下に対する、上司としての模範解答だ。
大抵は、その言葉で気持ちが楽になる。
だが、どうやら彩には通じなかったらしい。
「自社製造の話は、どこからの情報だ?」
『企画部長』
「ハッタリで値下げ交渉されたことは?」
『この一年は、ない』
「じゃあ、ハッタリじゃない?」
『……と思う』
「なら、彩の手に負える問題じゃないだろ」
『……そうなんだけど……』
彩が口ごもり、俺は先を待った。が、言うのを迷っているのか、なかなか沈黙が消えない。
「どうした?」
『……なんでもない』
「なんだよ」
『こんなんで指導係なんてしてていいのかなって思っただけ』
「関係ないだろ」
『けど……』
こういう時、顔が見えないのが本当にもどかしい。
声だけじゃ、彩の感情が読めない。
「堀藤」
『え?』
「気になることがあるなら言ってみろ」
『……?』
「上司として聞いてやる」
ちょっと偉そうに言った。
いや、仕事中はいつもこんな感じだ。
彩と付き合うようになってからは、自分でも大分丸くなったと思うけれど、それでも部下たちからは怖がられている。
『どうせなら、恋人としての方がいいかなぁ』
「なんでだよ」
『直属の上司でもない智也のアドバイスを聞いちゃったら、千堂課長の立場ないじゃない』
こいつはどこまで真面目なんだ、と思った。
「千堂に、お前から相談されるほどの人望がないだけだろ。気にすんな。それに、せっかく恋人が上司なんだから、上手く利用しろよ」
『利用なんて――』
「わっかんねーかな。頼れる男だってアピールしたいんだよ。つーか、普通に頼れ。愚痴でも何でもいいから、言えよ」
彩が笑っている気がした。声は聞こえなかったけれど。
彩なら少し呆れたように、でも嬉しそうに笑ってくれている気がした。
「で? なにが気になるんだ?」
『担当の部長、ハッタリを言うような人じゃないんだけど、自社製造なんて本気なのかが不思議で……』
「どういう意味だ?」
『業績が落ちてるの。事業も縮小してるこの状況で、自社製造なんて莫大な初期投資をする余裕があるとは思えなくて』
いいところに気が付いたな、と感心した。
顧客の業績不振も知らずに契約を結び、不渡りを出されるなんて営業マンとしては絶対にあってはならないことだ。
だが、実際には、さほど大きな額でなければ、大した調査もなしに契約してしまう。
まして、契約を切られるかもしれない顧客の業績なんて、どうでもいいことだ。
『正式決定前に私に漏らしたのも気になるし』
「確かにな……」
『再来年の創業五十周年に向けて、自社製造ラインを導入したいのはわかるんだけど、工場用地も決まっていない状態で間に合うとも思えないし』
「完全オリジナルの商品の製造の為の自社製造、か」
『多分……』
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