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6 ダブルパンチ
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しおりを挟む「あなたは本当に智也を好いてくれているの?」
「はい」
「あなたは、智也との結婚を望んでいるの?」
「それは……」
「私は反対です」
でしょうね、と思った。
「三十歳と四十歳では、妊娠の可能性が全然違うでしょう。妊娠したとしても、無事に出産できるのか、健康な子供を産めるのか。晩婚化とは言っても、高齢での初産の危険《リスク》は――」
「子供が、います」
「え――?」
「私には子供がいます」
この流れで言わずにいたら、もう言えなくなるだろう。
智也のお母さんにどう思われようと、子供たちのことを隠すつもりはなかった。
案の定、智也のお母さんは、信じられないと言わんばかりに小さく首を振り、大きく息を吸い、大きく吐いた。
「問題外ね。今すぐに息子と別れてちょうだい」
「子供のことは智也さんも――」
「息子には不利益しかないじゃない。あなたと結婚したら、他人の子供を育てるために利用される。結婚しなくても、あなたと付き合っていた時間が無駄になる。あなたはいいわよ? 智也と別れても子供がいるんだから。でも、智也には何も残らないのよ。ただ、時間を無駄にしただけ。その無駄な時間のせいで、智也が結婚出来なかったり、子供を持てない可能性もあるのよ」
重い右ストレートが直撃した。
正面から受け止めてはいけない言葉を、顔面に食らってしまった。
ごもっともです、と思った。
認めたくないけれど、正論。
私がどうしても拭えない、智也への罪悪感の正体。
私と一緒にいることは、智也にとって不利益しかない――。
返す言葉が、なかった。
智也のお母さんは、もう一度大きなため息をついた。
「バスの時間だから、ここまでね」と言って、腕時計を見た。
年齢に似合わない、ボタンやネジがたくさんついたごついデジタル時計。
「智也に、私が来たことは話さなくていいわ。でも、あなたは忘れないでちょうだい」
智也のお母さんは千円札をテーブルに置いて、ダウンを羽織った。
見送るつもりはなかった。
立ち上がって、頭を下げるつもりも。
「私の息子を、あなたの子供の為に利用しないでちょうだい」
智也のお母さんが店を出て行き、私はようやく二口目のコーヒーを飲めた。
一気に、飲み干す。
コーヒー代の四百円をテーブルに置き、私も店を出た。
めんつゆ……。
スーパーを探しながら、私は全く別のことを考えていた。
智也のお母さん、最後まで智也の様子を聞かなかった。
どんなに大人になっても、息子が寝込んでいると聞けば、熱は高いのか、ちゃんと食べているのか、心配になるもの。なのに、智也のお母さんは聞かなかった。
そんな人の言葉に動揺したくないのに、私の頭の中で声が繰り返される。
『智也には不利益しかないじゃない』
スーパーが見当たらず、仕方なくコンビニで高いめんつゆと卵を買って帰った。
智也はまだ、眠っていた。
良かった。
私の顔は涙でべちゃべちゃだった。
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