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8 彼が愛した女性《ひと》
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恋人に裏切られた智也の心情を思うと胸が痛むけれど、彼がアクセサリーを贈るほど真剣に好きで付き合っていた女性なんだと思うと、別の意味でも胸が痛んだ。
智也は私にもアクセサリーをプレゼントしてくれると言った。断ってしまったけれど。
智也は女性と深い関係を築いたことがない、と勝手に思っていた。彼自身もそう言っていたし、ご両親との関係がそうさせていると思えば、納得も出来た。
けれど、違った。
智也は『真剣に付き合っていた』と言った。
それは、『結婚』を意味していたのだと思う。
智也に、結婚を意識するほど深く愛した女性がいた。
苦しい。
うまく、呼吸が出来ない。
「真実のところはわからないけど、益井は仕事相手と浮気をして、溝口を切り捨てたのよ」
「そんな……」
それは、酷い。
酷すぎる。
「それで、智也は……?」
「仕事仲間の前でそんな風に言われて、溝口が『嘘だ。別れてない』なんて言えるはずがないって、益井はわかってたんでしょうね。溝口は『もう、俺には関係ない』としか言わなかったわ」
智也が言いたくないはずだ。
そんな酷い裏切り、私に知られて同情なんてされたら、それこそプライドが傷つく。
「ま、誰も納得してなかったし、そんな嘘で収束するとは思ってなかったんだけど、タイミングの悪いことに、私の不倫騒動が溝口の話題を食っちゃって……」と、凪子さんがため息をつきながら、宙を見た。
「それは、また……」
まさかのタイミング。
時に、現実はドラマや小説を超える。
「とにかく、そんなことがあったからかしらね。誰も正面から私に確かめようとしなかったけど、溝口だけは違ったの。ただ、結果的に不倫していたのは事実だから、私は否定しなかった。そうしたら、私に対して敵意むき出しになっちゃってね」
「でも、誤解は解けたんですよね?」
「意図したわけじゃなかったけどね」と言って、凪子さんがフッと笑った。
「私が彼から貰ったものを叩き返しているところに出くわしたのよ。びっくりよね。会社から電車で一時間のファミレスよ?」
「はぁ……」
「言葉通り、公衆の面前でプレゼントを顔面に叩きつけたのを見て、大笑いしたんだから!」
なんと……。
「ま、お陰で、自棄酒の相手をさせられたし? 吐くほど飲んで、お互いに言いたいことぶちまけたら、すっきりしたけど」
食べ終わって、凪子さんがランチョンマットで弁当箱を包む。凪子さんはバレンタインに料理をしてから、以前よりは爪を短めに整えていた。けれど、ネイルは好きでやめられないからと、薄い色を塗るようになった。
たまに、千堂課長と料理をしているらしい。
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それは、『結婚』を意味していたのだと思う。
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苦しい。
うまく、呼吸が出来ない。
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「そんな……」
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「ま、誰も納得してなかったし、そんな嘘で収束するとは思ってなかったんだけど、タイミングの悪いことに、私の不倫騒動が溝口の話題を食っちゃって……」と、凪子さんがため息をつきながら、宙を見た。
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