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14 ヘッドハンティング
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しおりを挟む日曜の午後。
昼ご飯の後でお母さんが言った。
子供たちは和室でゲームに盛り上がっている。今日は、真の熱も微熱程度に下がり、食欲も出てきていた。
私はお母さんと食後のコーヒーを飲みながら、真が私と智也の関係をよく思っていないのではと話した。
「友達が引っ越すって聞いたからかね」
「うん?」
「親の再婚で引っ越すんだって。彩が溝口さんと再婚したら、自分もそうなるんじゃないかって思ったとか?」
なるほど。
「真には悪いけど、お母さんはさっさと溝口さんと結婚してもらいたいよ」
「え?」
ため息と一緒にお母さんの口から飛び出した発言にギョッとして、思わず和室の方に目をやった。襖が三分の一ほど空いているが、ゲームのBGMと亮の笑い声で聞こえるはずもない。
「あのねぇ、今時子連れの再婚なんて珍しくもないでしょ。お母さんの職場でもいるよ? 子連れで年上のパートと若い社員が結婚するとか。真や亮の同級生にも、再婚で血の繋がらない兄弟とか、半分血の繋がった姉妹とかいるんでしょ?」
「まぁ……」
「だから! あんたが思うよりも難しいことじゃないってこと。簡単だとは言わないけど、血が繋がっていても絶縁状態だったり、殺したり殺されたりなんてことがあるんだから、こだわることじゃないと思うけど?」
母は、六十二歳。
私の友達の母親と比べると、若い方だ。早くに子育てを終えて自由を手に入れたお陰か、見た目も気持ちも若い。
去年、真と亮をインフルエンザの予防接種に連れて行き、『お母さんの予防接種は済んでますか?』と聞かれた時には、帰りにケーキを買って来た。
「それにね――」と言って、お母さんはコーヒーをすすった。
「あんたが八十まで生きるとして、今はまだ折り返し地点でしょ。これからの四十年のうち、真と亮がこの家で暮らすのはせいぜいあと十年か、長くても十五年てとこでしょ。そうあってもらわなきゃいけないし。てことは、その後の二十五年はあんた一人だよ? うわ、寂し!」
娘の将来を、なんと軽く言うのか。
まぁ、こういうさばさばした性格のお陰で、離婚問題の最中も励まされた。
「孫の成長を楽しみに生きるもん」
「なに、言ってんの。毎週のように『いつ帰ってくるんだ』って電話してはウザがられるのが目に浮かぶわ。で、真や亮に言われるんだよ? 『お母さん、どうしてあの時溝口さんと結婚しなかったんだ』って」
「そんなこと……」
「そんなもんだよ。真だって、今はあんたを取られるみたいでふてくされてるだけでしょ。自分に彼女でも出来たら、あっさりどうでもよくなるから」
「それはそれで嫌だ……」
真に彼女が出来て、私のことなんてどうでもよくなるなんて考えただけで、泣けてくる。
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