サレたふたりの恋愛事情

深冬 芽以

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2.サレた者同士で……

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 ミサイル二基の照準となっているこの状況でそんなことを思うなんて、余程余裕があるのか、現実から目を背けているのか。

 それとも、危機的状況で思考がバグッているのか。

 とにかく、私は迫り来る卓と卓の浮気相手をガン見しながら、手はキーケースを探し、新しいキーケースのことを考えるという、なんとも器用なことをしていた。

 とはいえ、彼らがエレベーターを降りてからほんの数秒のこと。

 女が私のバッグを掴んだ。

 もはや、ピザは完全に垂直になっている。

「スマホは!? どこ?!」

 バッグをひっくり返す勢いだが、生憎バッグは私の身体に斜めにぶら下がっていて、それは簡単じゃない。

 だが、ショルダーを引きちぎる勢いで引っ張られて、私はそれに逆らった。

「やめて!」

 バッグを抱えるように手で守ると、ピザの箱で女を押し退ける格好になった。

「きゃっ――」

 思いがけず女はバランスを崩して壁にもたれる格好になり、私はバッグを背後に回して守る。

 だが、今度は女を押し退けるようにして卓が迫ってきた。

「ちょっと!」

 自分を支えることもしない卓に向かって、女が悪態をつく。

 卓は女など眼中にないらしく、私に手を伸ばした。

 怖い、と思った。

 身体を玄関ドアに向けて捻ると、勢い余ってドアにぶつかった。

 と同時に、ドアが開く。

 隙間から篠井さんの顔が見えて、ホッとした。

 が、このままでは卓に乗り込まれる可能性がある。

 私は、手に持っている買い物袋を思いっきり振り回した。

「うおっ――!」

 袋が卓の腹部にクリーンヒットした。

 袋の中身は、ビール六缶パックと三本の缶チューハイ。

 痛いだろう。

 それは、卓がお腹を抑えて蹲ったところを見ると明らか。

「夏依!」

 卓が膝をついた時、背後から私の腕が掴まれ、篠井さんだとすぐにわかった。

 後ろに引っ張られてふらついたが、お腹に回された手に支えられてひっくり返りはしなかった。

 足が地面を蹴り、浮く。

 あっと思った私が着地したのは、玄関の中だった。

 腕を掴んでいた篠井さんの手が、鍵を回す。

 ドンッとドアが殴られたか蹴られたかした。

 冷たいグレーのドアを見つめたまま、座り込む。

「大丈夫か!?」

 私の腰を抱いたままの篠井さんも一緒に座り込む。

「びっくり……したぁ」

「ああ。俺も」

 はっはっはっと浅い呼吸が弾む。

 心臓がばくばくする、という表現がぴったりなほど力強く脈打ち、肋骨に当たっているのではと思うほど痛い。

 篠井さんにもきっとそれが伝わっていて、だから、彼はぎゅっと抱きしめてくれているのだと思う。

 私もまた、恐怖のあまり身体を捻って彼の腕にしがみついた。

「なにもされてないか?」

「はい」

「良かった……」

 篠井さんがはぁと深いため息をついた。

「起きたらいないから心配しただろ」

「お腹……空いて……」

「起こせよ」

「ごめんな――あ! ピザ……」

 篠井さんにしがみついたまま、ピザの行方を捜す。

 ピザの箱は廊下にあった。

 篠井さんに腕を引っ張られた弾みで飛んで行ったらしい。

 ビールの袋は私の足元にある。

「ぐちゃぐちゃかも……」

「味は変わんねぇよ」

「ビール……も思いっきり振っちゃいました」

「ああ。しばらく置いとけばいい。いや、なんか、振った炭酸が吹き出なくなる方法があった気がするな」

「そうですね」

 だが、二人共その場を動かない。

 またドアがドンッと音を立てた。

 私と篠井さんの、互いを抱きしめる手に力がこもる。

 ピロンッと、この状況を揶揄い笑うような電子音がして、私と篠井さんはさらに、これ以上ないほど密着した。

 篠井さんのお尻の横のスマホがピロンピロンッと鳴り続ける。

「電話――」

「――見るな」

 私の言葉を見透かしていたように、篠井さんの言葉が遮ってきた。

「見るな」

 そう言われると、見たくなるのが人間のサガだろう。

 だから、そう言った。

「そう言われると気になります」

「香里からだ」

「え?」

「話がしたいだの、写真を消せだの、やり直したいだの、さっきから着信とメールが半端ない」

「え――」

 私と同じだ。

「てか、お前、スマホは?」

「え?」


 あれ? そういえば私のスマホ……。


 そうだ。卓からの電話やメッセージが怖くて電源を切った。

 多分、寝室だ。
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