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5.交際を申し込まれました
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しおりを挟む篠井さんと同居を始めてひと月が過ぎた。
その間、卓からの連絡はなく、代わりに知らない番号からの着信が数件あった。
篠井さんの方はわからない。
一度聞いてみたけれど、濁された。
同居生活は、順調だ。順調すぎて怖いほどに。
基本的に朝ご飯は一緒に食べている。
が、私の負担になるようなメニューを求められたり、文句を言われることはない。
何度か希望を聞いたが、本当に何でもいい、と言われた。
私はその言葉を素直に受け止め、自分の気分や冷蔵庫の中身次第で、好きにした。
彼は私が並べたものを黙って食べる。
だからと言って無関心ではない。
ちゃんと美味しいと思ったものはそう言うし、あまり好きではないものに関してもそう言った。
夜ご飯は一緒に食べたり食べなかったりだが、一緒に食べられそうな時は朝のうちに言われたり、メッセージがきたりした。
だからと言って強制ではなく、メニューが決まっていなかったり私が残業になりそうな時はお弁当やお惣菜を買って来てくれたりする。
洗濯は各自で、掃除は気が付いた方が気が付いた時にやる。
家事の一切が私の仕事だった卓との生活に比べると、格段に手間も気持ちも楽だった。
同居に不満はないかという篠井さんの問いにそう答えたら、彼は頬杖を突いて唇を尖らせた。
「そもそもさぁ、羽崎はなんで結婚したいんだ?」
「はい?」
「いや、聞けば聞くほど、なんであの元カレと結婚しようと思っていたのかが謎過ぎて」
「そう……ですか?」
「告られて付き合って、押しかけられて一緒に暮らして? 家事全部どころか金に関しても羽崎の負担が大きくて、転勤先の住まいまで手配してやって、てめぇは金も出さずに会いに来いの一点張り。で、来なけりゃ浮気って、羽崎が惚れる要素がひとつも見つからないんだが?」
要約されると、確かに酷いクズだ。
そして、それにすぐに反論できない私も大概だ。
それでも、何もないと卓と付き合った三年が無駄でしかなかったようで、考える。
「自分を好きだって言ってもらえるのは、嬉しいですよね」
「それは、付き合い始めるにあたっての大前提だな。俺が聞きたいのは、羽崎があいつのどこを好きになったか、だ」
私も頬杖を突き、考える。
「……顔?」
「疑問形かよ。ってか、ああいうのが好みか?」
「好みかと言われると……」
「あいつの顔をどうこう言うつもりはないぞ? 見るからに優男というか頼りなさ気ではあるが、それがいいと言う女はいるだろうしな。俺とはタイプが正反対だが、まぁ――」
「――あ! それです。優しそうなところ」
私は人差し指を篠井さんに向けて言った。
篠井さんは私の指先を見て、ため息を吐く。
「優しそう、ってことは実際は優しくなかったってことだろ」
「……いや、だって、正直、好きだったこと自体忘れたいんですよ? どこが好きだったかなんて考えたくもないですよ」
「ああ、まぁ、そうだな。わり」
食材を買いに行ったスーパーの前で、食欲をそそる香りを漂わせていた屋台の焼鳥を口に入れ、串を引く。
篠井さんもまた、軟骨を頬張って力強く咀嚼する。
今日、作るはずだったおでんは、明日に持ち越しになった。
「篠井さんは、結婚したらどんな家庭を作りたいとか、考えてました?」
「どんな、とは?」
「まぁ、ベタですけど、明るい家庭とか? 芸能人がよくコメントするような?」
「ん~~~」
篠井さんが串を咥えたまま、考える。
「今更だが、流された感はあるんだよ。まぁ、強いて言えば? 依存することのない対等な関係で切磋琢磨して向上心を――」
「――社訓みたいですね?」
「……だな」
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