サレたふたりの恋愛事情

深冬 芽以

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12.真実は残酷で……

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*****


 しばらく考えて、俺は夏依の母親に会うと決めた。

 大貴は反対したが、頼み込んで連絡してもらった。

 夏依は父親と連絡を取っていなかったが、大貴には母親からの連絡があったそうだ。

 十七年間で二度だけらしいが。

 どちらも大貴の近況を聞いただけで、大貴はその問いに答えなかった。

 大貴は初めて自分からかける番号に緊張しているようだった。

「もしもし。――うん。話があって――」

 事務所内には俺と大貴だけで、距離を取っていても会話が聞こえる。

「――会って話が――っは? いつから? ――夏依は知ってるの?」

 ただならぬ様子に近づいて行くと、大貴はスマホを耳から離して胸に当て、囁いた。

「海外に住んでるって」


 マジか……。


「スピーカーにして話してもいいか」

 大貴が頷く。

 スマホをタップして、テーブルに置いた。

「話があるんだけど」

『なに?』

 その短い言葉だけでも、夏依に似ているなと思った。

「初めまして、篠井といいます。大貴の友人で、夏依の恋人です」

『夏依の……?』

 双方の息遣いが聞こえるほど静まり返り、俺は大貴のスマホを見下ろして口を開いた。

「お聞きしたいことがあって電話しました」

『なに……かしら』

「どうして夏依を産んだんですか?」

『……は?』

「夏依から聞きました。捨てるくらいならどうして産んだのかと聞いたが、答えてもらえなかったと」

『……』

「夏依が父さんの子供じゃなかったから?」

『どうして――』

「――父さんに聞いた」

『……夏依は知ってるの?』

「言ってない」

『そう』

 再び沈黙。

 俺は大貴と顔を見合わせ、またスマホに視線を落とした。

「再婚する時、どうして夏依を連れて行かなかったんですか」

『聞いてどうするの? いい答えなわけがないってわかっているでしょう?』

「そう……ですね。それでも――」

『愛せると思ったから産んだの』

「……でも――」

『――でも愛せなかった』

 無意識にグッと拳を握った。

『あの子に言えるわけがないでしょう?』

「夏依は、あなたが曖昧にした答えに怯えて、幸せになるのを恐れてる。嘘でも――」

『――気づくわ。あの子、賢いもの』

 だから、逃げた。

 そういうことだ。

『夏依、元気?』

「夏依はあなたが海外にいることを知ってるんですか?」

『いいえ』

「なら、このまま、もう二度と、夏依に連絡しないでください」

『……』

 怒りで、大貴のスマホを投げつけてしまいそうだ。

 俺はゆっくりと深呼吸して、スマホに向かって頭を下げた。

「夏依は俺が幸せにします。お願いですから、もう夏依と関わらないでください」

『……わかっ……たわ』

 微かに、本当に微かに、鼻をすするような音が聞こえた気がした。

 俺の願望かもしれない。

 もう二度と娘に会えない、声も聞けないことを少しでも悲しんでくれたらと、願ったのは事実だ。

『私ね、夏依をうまく愛せなかったけれど、あの子が幸せだと……嬉しいわ』

 意味がわからない。

 わかりたくもない。

 この元夫婦は揃いも揃って自分勝手なことばかり。

 だが、夏依の両親だ。

 父親は違うらしいが、戸籍上は両親だ。

 仕方がない。

『あの子の泣き顔を見た時、産まない方が良かったと思ってしまった……。こんな風に悲しませるなら、産まない方が――』

「――俺は感謝しています。夏依を産んでくれたこと」

『……っ』

「俺が、夏依を幸せにします。産まれてきて良かったと心から思えるくらい」

『ありが……とう……』

 大貴が〈終話〉のマークをタップした。

 俺はやりきれなさに深呼吸をする。

 だが、大貴の気持ちはそんなことで落ち着くものじゃなかった。

 スマホを掴むと、思いっきり床に叩きつけた。

「なにが、ありがとう、だ! 子供を何だと思ってんだよ!!」

 大貴もまた、被害者だ。

 無責任で不道徳で自分勝手な親の、被害者だ。

 俺は大貴の叫びを聞きながら、せめて兄妹は和解させてやりたいと思った。
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