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12.真実は残酷で……
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しばらく考えて、俺は夏依の母親に会うと決めた。
大貴は反対したが、頼み込んで連絡してもらった。
夏依は父親と連絡を取っていなかったが、大貴には母親からの連絡があったそうだ。
十七年間で二度だけらしいが。
どちらも大貴の近況を聞いただけで、大貴はその問いに答えなかった。
大貴は初めて自分からかける番号に緊張しているようだった。
「もしもし。――うん。話があって――」
事務所内には俺と大貴だけで、距離を取っていても会話が聞こえる。
「――会って話が――っは? いつから? ――夏依は知ってるの?」
ただならぬ様子に近づいて行くと、大貴はスマホを耳から離して胸に当て、囁いた。
「海外に住んでるって」
マジか……。
「スピーカーにして話してもいいか」
大貴が頷く。
スマホをタップして、テーブルに置いた。
「話があるんだけど」
『なに?』
その短い言葉だけでも、夏依に似ているなと思った。
「初めまして、篠井といいます。大貴の友人で、夏依の恋人です」
『夏依の……?』
双方の息遣いが聞こえるほど静まり返り、俺は大貴のスマホを見下ろして口を開いた。
「お聞きしたいことがあって電話しました」
『なに……かしら』
「どうして夏依を産んだんですか?」
『……は?』
「夏依から聞きました。捨てるくらいならどうして産んだのかと聞いたが、答えてもらえなかったと」
『……』
「夏依が父さんの子供じゃなかったから?」
『どうして――』
「――父さんに聞いた」
『……夏依は知ってるの?』
「言ってない」
『そう』
再び沈黙。
俺は大貴と顔を見合わせ、またスマホに視線を落とした。
「再婚する時、どうして夏依を連れて行かなかったんですか」
『聞いてどうするの? いい答えなわけがないってわかっているでしょう?』
「そう……ですね。それでも――」
『愛せると思ったから産んだの』
「……でも――」
『――でも愛せなかった』
無意識にグッと拳を握った。
『あの子に言えるわけがないでしょう?』
「夏依は、あなたが曖昧にした答えに怯えて、幸せになるのを恐れてる。嘘でも――」
『――気づくわ。あの子、賢いもの』
だから、逃げた。
そういうことだ。
『夏依、元気?』
「夏依はあなたが海外にいることを知ってるんですか?」
『いいえ』
「なら、このまま、もう二度と、夏依に連絡しないでください」
『……』
怒りで、大貴のスマホを投げつけてしまいそうだ。
俺はゆっくりと深呼吸して、スマホに向かって頭を下げた。
「夏依は俺が幸せにします。お願いですから、もう夏依と関わらないでください」
『……わかっ……たわ』
微かに、本当に微かに、鼻をすするような音が聞こえた気がした。
俺の願望かもしれない。
もう二度と娘に会えない、声も聞けないことを少しでも悲しんでくれたらと、願ったのは事実だ。
『私ね、夏依をうまく愛せなかったけれど、あの子が幸せだと……嬉しいわ』
意味がわからない。
わかりたくもない。
この元夫婦は揃いも揃って自分勝手なことばかり。
だが、夏依の両親だ。
父親は違うらしいが、戸籍上は両親だ。
仕方がない。
『あの子の泣き顔を見た時、産まない方が良かったと思ってしまった……。こんな風に悲しませるなら、産まない方が――』
「――俺は感謝しています。夏依を産んでくれたこと」
『……っ』
「俺が、夏依を幸せにします。産まれてきて良かったと心から思えるくらい」
『ありが……とう……』
大貴が〈終話〉のマークをタップした。
俺はやりきれなさに深呼吸をする。
だが、大貴の気持ちはそんなことで落ち着くものじゃなかった。
スマホを掴むと、思いっきり床に叩きつけた。
「なにが、ありがとう、だ! 子供を何だと思ってんだよ!!」
大貴もまた、被害者だ。
無責任で不道徳で自分勝手な親の、被害者だ。
俺は大貴の叫びを聞きながら、せめて兄妹は和解させてやりたいと思った。
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