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13.元上司は優しい嘘つきでした
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しおりを挟む光希のお母さんと話をしてから、考えていた。
両親はどうして私を捨てたのだろうか。
可愛くなかったから?
再婚に邪魔だから?
私は本当にそれを知りたいのだろうか。
見限るため?
許すため?
知った私はどうしたいのだろうか。
自分は親のようにはならないと幸せを掴む?
自分が結婚を恐れるのは親のせいだと恨む?
そんなことをぐるぐる考えていたら、光希と恋人になって二か月半が過ぎていた。
私が彼のプロポーズを阻まなければ、あと二週間で約束の三か月。
あの日、父親に気づかれず、光希と元カノのキスシーンを見てしまった私には、どうしても自分が幸せな結婚をするイメージができなかった。
違う。
結婚を、結婚生活をイメージすることは容易い。
きっと、変わらない。
光希と一緒に暮らしたこの数か月と、同じ。
問題は、その後だ。
幸せはいつまで続く?
光希の気持ちはいつまで続く?
人の気持ちは変わる。
私はそれが怖い。
そして、怖い以上に悔しい。
光希を信じている。
なのに、信じきれない。
全部知ってスッキリしたら、信じきれる……?
「お母さんに会ってみようかな……」
悶々とした気持ちと、前に進むために何かしなければという焦りから、つい考えなしに言ってしまった。
しかも、光希と一緒にお風呂に入っている時に。
後ろから抱きしめられて、彼に背を預けてまったりしている時に言うことではない。
「あ! 光希の! 光希のおか――」
「――ダメだ!」
光希の低く勢いのある声がバスルームに響く。
驚いて肩を竦ませた。
「光希?」
「今更、母親に会う必要なんてない」
「え?」
「もう、忘れろよ。あんな親なんか!」
あんな……って?
勢いに任せて言ったようなその言葉が、やけに引っかかった。
その理由を聞きたかったけれど、後ろから強く抱きしめられて、肩に押し付けられた彼のおでこの重みがそれ以上聞くなと言わんばかりの圧に思えて、私は黙った。
「夏依は親の連絡先とか知ってるのか?」
「え? あ、うん。電話番号……だけ」
「そっか」
それだけ言うと、光希は先にお風呂をでてしまった。
光希は私を心配してくれている。それはよくわかっている。
けれど、引っかかった言葉を忘れられるわけではない。
さらにその日から、光希の様子がおかしくなった。
過保護なのは変わらないのに、私に触れようとしない。
寝るのも別の部屋。
これでは、私に何かを疑ってくださいと言っているようなもの。
とはいえ、浮気ではない。
帰りが遅いとか、こそこそ電話してるとかいうわけではないから。
ただ、家の中で私と少し距離をとっているだけ。
私が親の話をした直後からなのだから、それに関係があると思うのは自然だろう。
私をお母さんに会わせたくないことと関係がある……?
私に触れないことが?
わからない。
ふと、ベッド脇で充電器に繋がれたスマホが気になった。
充電器を外し、フル充電まであと十三パーセントが足りないスマホのロックを指紋認証で解除する。
そして、お母さんの番号を呼び出した。
あれ……?
番号が違う。
最後の四桁『8176』が『3175』になっている。
そして、お風呂での光希との会話を思い出す。
『夏依は親の連絡先とか知ってるのか?』
『電話番号だけ』
電話番号が違っていたら、私にお母さんと連絡を取る手段はない。
さすがに、わかる。
光希……。
スマホを勝手に見られて、お母さんの番号を変えられたことを怒る、というよりも、理由が気になった。
どうしてこんなことをしてまで、私がお母さんと連絡を取るのを阻止しようとするのか。
番号は覚えているから、電話してみようと思えばできる。
が、しなかった。
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