63 / 212
8 アプローチ
8
しおりを挟む
「……堀藤さんは?」
「え?」
「楽しくなかったですか?」
「楽しかったです。お料理もすごく美味しかったし、お店の雰囲気も良かったですし」
「そうじゃ、なくて」
「……?」
「俺と一緒で、って意味です」
ミラーに、彼女の困惑した表情が写り、わかった。
俺の気持ち、バレてるな。
隠しているつもりはなかった。
仕事中も気づけば彼女を目で追っていたし、彼女が俺の視線に気がついて目が合うこともあった。それに、子供たちまで巻き込んで近づこうとした。もしかしたら、溝口課長に聞いたのかも
しれない。
俺は、二十四時間営業のスーパーの駐車場に入った。わざと、入り口から遠くに停める。
「ちょっと、外で話せませんか?」
晴れているとはいえ、冬の夜は寒く、連れ出すのは気が引けた。けれど、眠っているとはいえ、子供たちのは聞かせたくなかった。
俺と彼女はエンジンのかかった車から三歩離れて、向かいあった。
「単刀直入に聞きます。溝口課長と付き合っているんですか?」
「恋人か、という意味なら、違います」
「でも、上司と部下以上の関係ではあるんですよね」
「……はい」と、彼女は俺の目を見て答えた。
目を逸らしたい衝動を堪えた。
ここで、挫けるな――!
「大人の……関係ってやつですか?」
聞かなきゃいいのに、聞いてしまった。疑問をうやむやに出来ないのは、性分。良くも悪くも、事実を知りたい。
「はい」
彼女は、はっきりと答えた。
はぐらかされるのも、嘘をつかれるのも、嫌だ。だが、認められるのも、嫌だった。
課長と堀藤さんが抱き合う姿を、想像してしまう。
「でも……恋人じゃ……ないんですよね?」
「……はい」
「なら……堀藤さんに好きな男が出来たら、溝口課長との関係は終わらせてくれますか?」
「え――?」
負けたく、ない。
俺は、彼女の肩を抱き寄せた。そっと、優しく。
「あなたが、好きです――」
渡したく、ない。
「好きです――――」
力いっぱい、抱き締める。
強い風に彼女の髪がなびく。俺の頬をくすぐるクセのある髪からは、柔らかい香りがした。ずっと包まれていたいと思える、優しい香り。
コートの上からでもわかる彼女自身の柔らかさや温かさも、心地良い。
「それは、本当に恋愛感情ですか?」
緊張と興奮で早鐘を衝くように高鳴る鼓動が、彼女の低く冷静な言葉で一瞬、動きを止めた。
彼女から身体を離し、また、僅かな距離を保つ。
「年上への憧れ……だと思いますか?」と、聞いた。
彼女はゆっくりと顔を上げた。頬が、少し赤い。瞳が揺れて見えるのは、気のせいか。
「正直……俺も考えました。年上で、俺なんかよりずっと落ち着きがある、そういうところに姉のような母親のような癒しみたいなものを求めてるのかなって」
「え?」
「楽しくなかったですか?」
「楽しかったです。お料理もすごく美味しかったし、お店の雰囲気も良かったですし」
「そうじゃ、なくて」
「……?」
「俺と一緒で、って意味です」
ミラーに、彼女の困惑した表情が写り、わかった。
俺の気持ち、バレてるな。
隠しているつもりはなかった。
仕事中も気づけば彼女を目で追っていたし、彼女が俺の視線に気がついて目が合うこともあった。それに、子供たちまで巻き込んで近づこうとした。もしかしたら、溝口課長に聞いたのかも
しれない。
俺は、二十四時間営業のスーパーの駐車場に入った。わざと、入り口から遠くに停める。
「ちょっと、外で話せませんか?」
晴れているとはいえ、冬の夜は寒く、連れ出すのは気が引けた。けれど、眠っているとはいえ、子供たちのは聞かせたくなかった。
俺と彼女はエンジンのかかった車から三歩離れて、向かいあった。
「単刀直入に聞きます。溝口課長と付き合っているんですか?」
「恋人か、という意味なら、違います」
「でも、上司と部下以上の関係ではあるんですよね」
「……はい」と、彼女は俺の目を見て答えた。
目を逸らしたい衝動を堪えた。
ここで、挫けるな――!
「大人の……関係ってやつですか?」
聞かなきゃいいのに、聞いてしまった。疑問をうやむやに出来ないのは、性分。良くも悪くも、事実を知りたい。
「はい」
彼女は、はっきりと答えた。
はぐらかされるのも、嘘をつかれるのも、嫌だ。だが、認められるのも、嫌だった。
課長と堀藤さんが抱き合う姿を、想像してしまう。
「でも……恋人じゃ……ないんですよね?」
「……はい」
「なら……堀藤さんに好きな男が出来たら、溝口課長との関係は終わらせてくれますか?」
「え――?」
負けたく、ない。
俺は、彼女の肩を抱き寄せた。そっと、優しく。
「あなたが、好きです――」
渡したく、ない。
「好きです――――」
力いっぱい、抱き締める。
強い風に彼女の髪がなびく。俺の頬をくすぐるクセのある髪からは、柔らかい香りがした。ずっと包まれていたいと思える、優しい香り。
コートの上からでもわかる彼女自身の柔らかさや温かさも、心地良い。
「それは、本当に恋愛感情ですか?」
緊張と興奮で早鐘を衝くように高鳴る鼓動が、彼女の低く冷静な言葉で一瞬、動きを止めた。
彼女から身体を離し、また、僅かな距離を保つ。
「年上への憧れ……だと思いますか?」と、聞いた。
彼女はゆっくりと顔を上げた。頬が、少し赤い。瞳が揺れて見えるのは、気のせいか。
「正直……俺も考えました。年上で、俺なんかよりずっと落ち着きがある、そういうところに姉のような母親のような癒しみたいなものを求めてるのかなって」
16
あなたにおすすめの小説
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
小野寺社長のお気に入り
茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。
悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。
☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる