最後の男

深冬 芽以

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10 女の闘い

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「お前とここでカツカレー食った時に、こういうのいいな、って思ったんだよな」

 私が具をのせ、ピザソースをかけると、智也がオーブントースターに並べて入れた。タイマーを回す。

「なら……、早くちゃんとした結婚相手を探さなきゃ」

 私は残った具を食パンにのせた。

「ちゃんとした、って?」

「智也の子供を産んでくれる女性ひと

「お前にだけは……言われたくないな」

「私以外に言ってくれる人がいるの?」

「……いないけど」

 私は、はははっ、と笑って、食パンにチーズをたっぷりとのせた。

 智也と一緒にいるのが、楽しくなっていた。

 こんな風に、楽な気持ちで飾らずに接することが出来るのは、家族以外にはいない。元夫とですら、こんなに会話が弾んだことはない。

 錯覚しそうになる。

 私と智也が本物の恋人であるかのような、錯覚。

 智也はそれでもいいと言ってくれたけれど、そういうわけにはいかない。



 私智也の家族にはなれない。

 彼の子供を……産んであげられない――。



「そういえばさ――」

 ピザトーストを頬張りながら、智也が言った。

「姉さんが彩に会いたいって」

 ゴフッ、と危うくコーヒーを吹き出しそうになった。

「大丈夫か!?」

「変なこと……言うから……」

 私は咳込んで、呼吸を整え、深呼吸をした。

「真心からお前のことを聞いて、会ってみたいって」

「なんで……。私のこと、どう説明したの?」

「普通に。部下で、付き合ってる、って」

「いや、おかしいでしょ!」

「『恋人ごっこ』してます、って言う方がおかしいだろ。お前を見習って『大人の関係』とでも言うか?」

 私が千堂課長に告白されたことをすぐに言わなかったこと、返事を保留にしていることで、智也が不機嫌なのはわかっている。

 智也との関係を『大人の関係』だなんて、セフレを連想させる言い方をしたことも。

 嫉妬が、くすぐったい。

「普通に、偶然居合わせた部下に真心ちゃんの世話を頼んだ、ってことで良かったんじゃないの? 実際、真心ちゃんと会った時は上司と部下でしかなかったんだし」

「そーだっけ?」

 白々しく、智也が言った。

「会わないよ」

「なんで?」

「いい年をして恋人を家族に紹介するって、意味わかってる?」

「さあ……?」

「智也」

「姉さんに恋人を会わせたこと、ないからな」



 え……?



 自分が特別だと言われているようで、ちょっと喜んでしまった。

「ちょっと嬉しいだろ」

 智也がニヤリと口角を上げて言った。

「とにかく! 会わないからね」

「ま、そのうちな」

「そのうちでも会わないから!」

「はいはい」

 智也には翻弄されっ放しだ。

 それが嫌じゃない自分に、驚きだ。
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