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20 最後の男
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しおりを挟む正式な辞令が出て、俺は一週間後に釧路支社に異動になった。営業部長として。
札幌から約三百三十キロ、車で約六時間、特急列車でも約四時間の場所。道内線の飛行機ならば一時間もかからないけれど、発着便がとにかく少ない。
形だけで見たら、栄転。昇進するのだから。だが、現実には左遷だ。
釧路支社は、支社とは名ばかりの、出張所のような規模で、業績不振のためにいつ閉社してもおかしくない状態。
そんな場所に、俺は行く。
「何が、『俺が守ってやる』よ」
堀藤が、言った。
「いなくなるくせに」
あの言葉に嘘はない。
堀藤がどうしても耐えられなくなったら、その時は攫って行くつもりだった。
けれど、そうはならないとも思っていた。
堀藤は強い女だ。
離婚前の彼女ならいざ知らず、現在の彼女は黙って元夫に虐げられているような女じゃない。
「やる気になったろ?」
「嘘つき……」
最後に、堀藤の顔が見たかった。
だから、彼女にだけ、出発の時間を知らせた。
千堂は、何も言わずに堀藤の半休を認めた。
「千堂課長に聞いたんだけど――」
堀藤は、風になびく髪を押さえながら言った。
「釧路支社、潰れるの?」
「……かもな」
「じゃあ――」
「誰かが、責任を取らなきゃならないからな」
京本らの一件で、上層部とホームルーム側に彼女たちの依願退職を認めさせるために、俺は自分の首を懸けた。
俺がそこまでする義理はなかったけれど、乗り掛かった舟だし、彼女たち三人だけを悪者にしようとしたホームルームに腹が立っていた。
京本たちの退職願が受理された後、俺も退職願を提出しようとしたが、部長に止められた。
結果、部長が早期退職し、俺が釧路支社営業部長に昇進の上で、閉社による会社都合で退職、という形で収まった。
課長と部長では退職金が違う。
会社からの、せめてもの恩恵だった。
「業績が――悪いんですよね? 釧路支社」
「ああ」
「立て直しに、行くんですよね?」
「……ああ」
表向きは、そうだ。
誰も信じちゃいなかったが。
「業績が良くなったら、潰れないんですよね?」
「まぁ……、そういうことかな」
釧路行きの特急列車が間もなく到着すると、アナウンスが流れた。
二人して、なぜかスピーカーを見上げた。
「じゃあ、頑張って立て直してください」
そんなことが出来るはずがないことは、わかっているはずだ。
彼女なりの励ましだと、受け取った。
「ああ」
「適当な励ましじゃないですよ」
「は?」
「本気で、言ってます」
見透かされているようだった。
釧路支社で、名ばかりの部長の椅子に座り、本社から閉社の知らせを待つ毎日。知らせを受け、数えるほどの取引先に挨拶をして、机を片付ける。幾らか割り増しされた退職金を受け取り、失業保険の手続きをする。
そして、思う。
どうして部長になりたかったんだ……?
そんな、近い将来。
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