楽園 ~きみのいる場所~

深冬 芽以

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1.動かない指の価値

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「明堂さんのお身体は、リハビリで回復すると聞いています。ですから、回復なさって私が必要なくなった場合は……、その場合も一か月前に知らせていただけるのでしょうか」



 リハビリ……ね。



 確かに、医師には言われた。

「努力し続ければ、日常生活に支障のない身体に戻れる」と。

 だが、俺の「回復にかかる期間は?」という問いに、医師はこう言った。

「焦りは禁物です」



 ようするに、どれだけ努力しても戻れるかは神のみぞ知る、ということか。



 俺は無理を言って退院した。

「明堂さん?」と、お義姉さん。

「ああ、はい。そうですね。お義姉さんの手伝いなしで生活できるようになったら、ひと月前にはお知らせします。もしくは、四週分の給料をお支払いさせていただきます。もちろん、次の住まいやお仕事の紹介もさせてもらいますから、心配しないでください」

 そんな日が来るとも信じていないのに、言った。

「……わかりました」

 契約書をプリントアウトし、お義姉さんがプリンターのある書斎に取りに行く。が、なかなか戻って来ない。

「お義姉さん?」

 しばらくたって呼びかけて、ようやく戻って来た。手には、A4用紙が二枚。

「すみません!」

「どうかしましたか?」

「いえ。本が……たくさんあって……」

 書斎の壁二面に、天井高の本棚があり、あらゆるジャンルの本がぎっしりと詰まっている。俺が萌花と住むタワーマンションではなく、この家に帰って来た理由の一つだ。

「ああ」

「本、お好きなんですか?」

 それまであまり表情を変えなかったお義姉さんの頬が僅かに紅潮し、心なしか声も興奮気味。

「ええ。最近は時間がなくて読んでいませんけど。これからはたっぷり時間があるので、また本の虫になろうかと」

「そうですか」

「お義姉さんもお好きですか? 本」

「――はいっ! 私も最近はあまり読む時間が取れなかったんですけど、気になる本はブックアプリでお気に入り登録しておくようにしているんです」

 息を弾ませて話す彼女は、さっきまでとは別人のよう。

 本当に、萌花とはまるで違う。

 萌花は、映画の原作を読んだことがあるなどと話しても、無反応だった。

「なら、時間のある時は自由に読んでください。ここにいる間に新しい本も増えると思うので。あ、お義姉さんが気になっている本も一緒に買ったらいい」

「あ! いえ! その、今ある本をお借りできるだけで充分です」と言いながら、首を振る。

「時々、読ませてください」

「自由に持って行ってください。並び順がめちゃくちゃなので探すのが大変かもしれませんが」

「ありがとうございます」と、頭を下げる。

「あ、とりあえず、契約書に署名をしましょうか」

「え? あ、はい」

 一枚ずつ手に取って内容を確認し、署名する。交換して、署名する。

「じゃあ、これで契約完了です。必要に応じて内容を変更していきましょう」

「わかりました」

「早速なんですが、そこのバッグから財布を取ってもらっていいですか」

 俺は手を伸ばして、ダイニングの椅子の黒いビジネスバッグを指さした。人差し指は動く。

 お義姉さんはパタパタとスリッパを鳴らして、バッグを持ってきた。そして、俺の膝の上に置き、ファスナーを開けて、中が見やすいように口を大きく広げた。
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