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4.男としての価値
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しおりを挟むガタンッ!
玄関から物音がして、俺と楽は顔を見合わせた。恐らく、玄関ドアを開けようとしたが、鍵がかかっているために跳ね返されたのだろう。
ピーンポーン
今度はインターホンが鳴る。
楽がモニターを覗く。
「萌花?」
「え?」
少し不安そうに俺の顔を見て、楽は玄関に向かった。
「もう! さっさと開けてよ」
一か月振りに聞く、萌花の声。しばらく聞いていなかったから、頭に響く高音がやけに不快に感じる。
ドカドカと廊下を近づいてくる足音。
俺は無意識に息を止めた。
どうせ、親父に言われたかして様子を見に来たんだろ。
「あら。すっかり元気そうじゃない」
リハビリ生活を送っている旦那に会っての第一声。
相変わらず髪はクルクルしていて、秋も深まったこの時期にもかかわらず、肩を出して、スカートも短い。
「おかげさまで」
顔を背けてそう言うと、俺は両手をテーブルについて立ち上がった。その拍子に、椅子に引っ掛けていた杖が音を立てて落ちた。すかさず、楽が杖を拾う。
「ありがとう」
杖を受け取りながら礼を言う。楽は、いつものように右肩を担いでソファまで支えてくれた。
「まだ、歩けないの?」
「ああ」
「ふーん……」
萌花の香水の匂いが生肉の匂いと混じって、何とも表現しがたい異臭となった。
「俺はまだまだ使い物になりません、って社長に報告しといて」
「わかった」
そう言うと、萌花が俺の隣に来て、ソファに座った。足を組み、組んだ足を俺の膝にのせる。
「ね、出てってよ」
ソファの脇で膝をついていた楽に言う。
「明日の朝まで、どっか行ってて」
「は?」
「わかんないの? 久々の夫婦の時間、邪魔しないで」
「――なっ!」
俺の反応などお構いなしに、萌花は俺の首に腕を回す。そして、楽に見せつけるかのように首を傾げてキスをしてきた。
口紅の不快なぬめり。
反射的に両手で萌花の身体を押し退ける。
「ふざけっ――」
「ほら。悠久も見られたくないって」
「萌花! いい加減に――」
楽がすっくと立ちあがり、俺は慌てて萌花の足を払おうとしたが、そう出来ないように膝を折ってしがみつかれていた。
楽の顔を覗き込んだが、背けられた。
「――ちょ――」
「――お邪魔……しました」
そう言うと、楽はエプロンを外しながらリビングを出て行った。階段を駆け上がる音がして、すぐに駆け下りてきた。
「楽! 待って――」
バタンッ!
呼び止める声も半端に、玄関ドアの締まる音が響く。
くそっ――!
「楽、って呼んでんの? 随分親しくなったのね」
「お前には関係ないだろ」
「大アリじゃない。あなたの妻だもの」
「覚えてたとはな」
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