楽園 ~きみのいる場所~

深冬 芽以

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10.離婚届と母子手帳

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 予想通り、萌花は調停に現れなかった。

 一度ならず二度までも。

 だが、二度目は一度目とは違った。

「体調不良により欠席すると連絡があったそうです」

 俺の聴取の後、調停員に呼ばれて待合室を出ていた弁護士が戻って来て、言った。

 彼は岡谷克之おかやかつゆき、三十八歳。

 亡くなったばあちゃんと岡谷さんのお祖母さんが友達で、母さんと岡谷さんのお母さんも友達で、俺と岡谷さんは友達ではないけれど、とにかくばあちゃんが亡くなった時も母さんが亡くなった時も、相続関係でお世話になり、俺が明堂の人間になってからも、何かと相談に乗ってもらったりしている。

「弁護士から?」

「いえ、本人から」

「やっぱり、萌花は弁護士をつけていない?」

「そのようですね」

 初回の調停が連絡なしでの欠席だったため、恐らくそうだろうと岡谷さんと話してはいた。

「それで、今後のことですが――」

「――あ、はい」

 隣に座る岡谷さんが、俺の方に身体を向けて少し屈んだ。

 待合室には俺たちの他に三人の男がいる。

 態度や雰囲気だけで判断すると、恐らく相手から調停を起こされたようで、一人はがっくりと項垂れ、二人は憮然とした表情で腕と足を組んで貧乏ゆすりをしている。

 俺も、岡谷さんに顔を近づけた。

「前回と違って連絡もあったので、もう一度だけ調停日を設けてはどうかと言われました。もちろん、前回が前回なので、調停不成立として裁判に持っていくことも可能ですが」

「……次回も欠席の場合は裁判ですか?」

「そうですね。入院などの已むを得ない事情があり、それを証明できれば別ですが」

「そうですか」

 答えてから、少し視線を彷徨わせて考えた。

 裁判沙汰は避けたい。

 それは俺自身がというより、楽の存在があるから。

 彼女も、直接的には言わないが、裁判は避けて欲しいと思っているようだ。

 楽が心配しているのは、大方、裁判になって自分の存在が俺の枷になることだろう。



 裁判でも何でもして早く別れて欲しい、って言って欲しい気もするけど。



 ともあれ、裁判は誰も望んでいない。

「提案を受け入れます」と言うと、岡谷さんは頷いた。

 彼は椅子から腰を浮かせて、立ち上がろうとした。それを、俺は引き留めた。

「では、そのように――」

「――あの」

「はい?」

「調停中に相手に会いに行くのは、やはり控えるべきですか?」

 岡谷さんが浮かせた腰を、下ろす。

「奥様に会われるつもりですか」

「次回の調停には来るようにと、直接言おうかと――」

「――それだけですか?」

 そんな、電話でもすれば済む話でわざわざ直接会おうとするはずがないと、簡単に見抜かれた。

「調停抜きで離婚に応じた場合の、条件を提示しようかと」

「例えば?」

「マンションと、財産の八割」

「八割……も?」と、岡谷さんが聞き返す。

 俺は小さく頷く。
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