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11.悪魔のシナリオ
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しおりを挟む「お母様のこと、そんな風に――」
「――事実だろ? 母親のことは好きだったし、育ててくれて感謝もしてる。だけど、既婚者である男の子供を産んだことについては、軽蔑もしてる」
正直な気持ちだった。
誰にも言ったことはなかったけれど、ずっと思っていた。
なぜ、母親はあんな男の子供を産んだのか。
父親の正体を知ってすぐは、母親は父親に弄ばれたのではないかと考えたりもした。どうしても、二人が道ならぬ愛で結ばれたようには思えなくて。
けれど、明堂家に引き取られ、継母である征子さんから「お前の母親は金目当てに夫を誘惑した」と聞かされて、そんな気もした。
母さんは小さな食堂で働いていた。
当時はよく考えもしなかったけれど、いくら実家住まいでも、俺を育てるのに十分な給料ではなかったはずだ。
高校までならともかく、俺を大学に通わせ、車椅子生活となったばあちゃんのために家をリフォームできるほどの収入なんて、普通のサラリーマンだって貰えるかどうか。
だから、父親から俺の養育費を貰っているのだとわかった時、納得できた。
金目当てに俺を産んだのか、俺を産んだから金を貰えたのかは知らないけれど。
「じゃあ――」と言って、楽がベッドを降り、ジャケットを手に取った。
クローゼットの扉を開く。
「――もしも私が妊娠したら、軽蔑するの?」
「え?」
「もしも、悠久の身体が、その……デキるようになって私が妊娠したら、私も既婚者の男の子供を産む女、だよ?」
ジャケットをハンガーに掛ける楽の背中が泣いているように見えて、ハッとした。
ベッドから飛び降り、彼女の背中を抱き締める。
「ちがっ――! 軽蔑なんてしない! するわけないだろっ!? 俺たちは……、その、ちゃんと想い合ってて、離婚……はまだだけど、いずれはちゃんと……。――ってか! ごめん! 今のは、ちょっと感傷的に……なっただけで、ホントにごめん!!」
俺の腕の中で楽が身体を反転させた。
「私こそ、ごめんね? 責めたいわけじゃないの。ただ……、お母様にも事情があったと思うの。だから、軽蔑なんて……。悠久だけは、そんな風に思わないで欲しい」
『けど――』と言いかけて、飲み込んだ。
ここで、楽と結論の出ない言い争いをする必要も意味もない。
どんな事情があったにしても、もうわからない。
父親から聞かされることを信じるつもりもない。
「うん」とだけ、答えた。
「あの、本当はこんなことを言いたかったんじゃないの。その……、萌花の子供の父親……を知ってるかもしれなくて」
「え?」
「わからない。違うかもしれない。だけど、前に萌花が男の人とホテルにいるのを見ちゃって。だから――」
「――誰!?」
自分でも思った以上の大声が出て、楽が肩を震わせた。
「あ、ごめん! びっくりして……」
「ううん。けど、その人かどうかは――」
「――わかってる。決めつけたりしないから、教えて?」
「……」
楽が小さく口を開け、すぐに閉じた。異常に瞬きの回数が多くて、泣きそうにも見える。
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