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3.好きだった男
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私たちの後にカップルが入って来たけれど、私たちと同じようにミノリさんがドアを開けて出迎えていた。
だが、峰濱さんと神海さんが来た時、ミノリさんは出迎えていない。
「俺と吉良は店の鍵を持ってるし、いつもは裏から入るんだ」
「へぇ……」
なぜか? は気になったけれど、聞かなかった。
「……」
聞かなかったら、会話が途切れた。
「どうして出会いがいらないんですか?」
「え?」
「さっき、元々合コンするはずだった子に会う気はないって」
「ああ、うん。そりゃ――」
言葉を区切り、じっと私の顔を見た峰濱さんは、スマホを手に取ると操作をして、画面を私に見せた。
映っていたのはQRコード。メッセージアプリのだ。
「――二人きりで会いたいって言ったのは、嘘じゃないから」
口説かれている。
さすがに、口説かれ慣れていない私でもわかる。
そして、峰濱さんが私が思うほど口説き慣れていないことも。
これが演技だったら、尊敬するわね……。
ただじっとQRコードを見つめているわけにもいかず、私は自分のスマホのメッセージアプリを開いた。
そして、自分のスマホを彼のスマホと平行に持つ。
私のスマホがQRコードを読み込んだ。
たったそれだけ。
それだけで、私と峰濱さんが繋がった。
『MINE』とのメッセージ画面に〈金曜七時、SHINFO前〉と表示された。
「金曜の夜、食事に行こう」
「え?」
「都合、悪い?」
予定なんかない。
ないけど……。
「俺より神海がいい?」
「え?」
峰濱さんが背後に身体を捻る。
テーブル席では奈都と神海さんが、私と峰濱さんよりずっと近い距離で笑い合っている。
「あ、そもそも七つも年上は嫌だとか」
「そんなこと――!」
ぶんぶんと首を振ると、峰濱さんが自分のうなじに手を当てて、苦笑いした。
「――必死になりすぎだな」
別に、いきなり付き合おうって言われてるわけじゃないじゃない……。
私を気に入ってくれて、私との縁を繋ごうとしてくれている。
それは、男女問わず嬉しいことだ。
誰に気兼ねする必要もないんだし……。
私はスマホのキーパッドをタップした。
〈ドレスコードのないお店でお願いします〉
ヴヴヴッと手元が震えて画面を見た峰濱さんが、口角を上げて微笑んだ。
その穏やかに嬉しそうな表情のまま、私を見る。
〈OK!〉
くすぐったい。
何歳になっても、どんなシチュエーションでも、出会いはくすぐったくてドキドキする。
人事部の鬼主任が、聞いて呆れるわね……。
火照りを冷まそうとジントニックを飲むと、テーブルに置かれたばかりの峰濱さんのスマホが震えだした。
仕事の呼び出しらしく、彼は画面を見るなり出て行った。
「金曜は邪魔が入らないようにするから」と言って。
ジントニックを飲み干して、神海さんと盛り上がっている奈都に声をかけて店を出ようとした時、神海さんに言われた。
「成悟から女性を誘うの、初めて見たよ」
「え?」
「あいつ、頭もいいし仕事も完璧だけど、恋愛に関しては見てらんないくらい不器用なんだよ。だけど、本気で好きになったらマジでドン引きするくらい一途だから」
「それ聞いたら、心配なんだけど」
奈都の言葉に頷きそうになる。
私は「恋愛に発展するかもわからないですから」と言い残した。
奈都と神海さんは、今夜にでも発展しそうなほど意気投合している。
奈都の次の恋は、悲しくなければいいなと思った。
だが、峰濱さんと神海さんが来た時、ミノリさんは出迎えていない。
「俺と吉良は店の鍵を持ってるし、いつもは裏から入るんだ」
「へぇ……」
なぜか? は気になったけれど、聞かなかった。
「……」
聞かなかったら、会話が途切れた。
「どうして出会いがいらないんですか?」
「え?」
「さっき、元々合コンするはずだった子に会う気はないって」
「ああ、うん。そりゃ――」
言葉を区切り、じっと私の顔を見た峰濱さんは、スマホを手に取ると操作をして、画面を私に見せた。
映っていたのはQRコード。メッセージアプリのだ。
「――二人きりで会いたいって言ったのは、嘘じゃないから」
口説かれている。
さすがに、口説かれ慣れていない私でもわかる。
そして、峰濱さんが私が思うほど口説き慣れていないことも。
これが演技だったら、尊敬するわね……。
ただじっとQRコードを見つめているわけにもいかず、私は自分のスマホのメッセージアプリを開いた。
そして、自分のスマホを彼のスマホと平行に持つ。
私のスマホがQRコードを読み込んだ。
たったそれだけ。
それだけで、私と峰濱さんが繋がった。
『MINE』とのメッセージ画面に〈金曜七時、SHINFO前〉と表示された。
「金曜の夜、食事に行こう」
「え?」
「都合、悪い?」
予定なんかない。
ないけど……。
「俺より神海がいい?」
「え?」
峰濱さんが背後に身体を捻る。
テーブル席では奈都と神海さんが、私と峰濱さんよりずっと近い距離で笑い合っている。
「あ、そもそも七つも年上は嫌だとか」
「そんなこと――!」
ぶんぶんと首を振ると、峰濱さんが自分のうなじに手を当てて、苦笑いした。
「――必死になりすぎだな」
別に、いきなり付き合おうって言われてるわけじゃないじゃない……。
私を気に入ってくれて、私との縁を繋ごうとしてくれている。
それは、男女問わず嬉しいことだ。
誰に気兼ねする必要もないんだし……。
私はスマホのキーパッドをタップした。
〈ドレスコードのないお店でお願いします〉
ヴヴヴッと手元が震えて画面を見た峰濱さんが、口角を上げて微笑んだ。
その穏やかに嬉しそうな表情のまま、私を見る。
〈OK!〉
くすぐったい。
何歳になっても、どんなシチュエーションでも、出会いはくすぐったくてドキドキする。
人事部の鬼主任が、聞いて呆れるわね……。
火照りを冷まそうとジントニックを飲むと、テーブルに置かれたばかりの峰濱さんのスマホが震えだした。
仕事の呼び出しらしく、彼は画面を見るなり出て行った。
「金曜は邪魔が入らないようにするから」と言って。
ジントニックを飲み干して、神海さんと盛り上がっている奈都に声をかけて店を出ようとした時、神海さんに言われた。
「成悟から女性を誘うの、初めて見たよ」
「え?」
「あいつ、頭もいいし仕事も完璧だけど、恋愛に関しては見てらんないくらい不器用なんだよ。だけど、本気で好きになったらマジでドン引きするくらい一途だから」
「それ聞いたら、心配なんだけど」
奈都の言葉に頷きそうになる。
私は「恋愛に発展するかもわからないですから」と言い残した。
奈都と神海さんは、今夜にでも発展しそうなほど意気投合している。
奈都の次の恋は、悲しくなければいいなと思った。
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