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9.同期会
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しおりを挟む「私ね、吉良の実家とか家族構成とか知らないの。吉良も、私のことを知らない」
「聞かないの?」
「そ」
「どうして?」
「私たちの関係に重要じゃないから、かな」
「重要じゃなくたって話すことはあるでしょ? 学生の頃の話をしてて、とか」
「しないわ。私と吉良は、現在のことしか話さない。別にそう決めてるわけじゃないけど」
「奈都はそれが不満なの?」
聞かなくても、わかる。
表情や声色、口調が不満だと訴えている。
「別に? 私も今が楽しければいいし。気にしてないわ。でも、だから、同期会のことは言わないってだけ」
投げやりな物言い。
「言っても言わなくても、吉良は気にしないし」
まったく、大いに不満そうだ。
「逆の立場なら、気にならない?」
「ならないわ。吉良が元カノと会ってよーが、元妻と会ってよーが、私には関係ないもの」
そう言う表情が既に不機嫌なのだが、それを言っても本人が否定するのは明白。
ただ、私は今の奈都の言葉が引っかかった。
「元妻と会ってるの?」
「は?」
「今、言ったじゃない」
「例えよ」
「ふ~ん」
とてもそうは思えないが、それ以上は言わなかった。
奈都は漠然とした言い方をしたけれど、神海さんが過去や実家のことを話したがらない、話したがらなかった何かがあったのだと思う。
奈都は彼との間に壁があると感じ、素直にそれが寂しいと言えず、対抗して自分も壁を作る。
きっと、そんな感じ。
鈴原くんの時もそうだった。
要するに奈都は頑固で意地っ張り。
鈴原くんはそんな奈都に歩み寄ろうとしていたけれど、奈都が拒絶した。
ともあれ、奈都が神海さんに抱いてる不満や不安が元妻に関することならば、私は何も言えない。
けれど、言いたい。
「元カノも元妻も、過去よ」
奈都の、スープをすくったレンゲを持つ手が止まる。
「現在より大切なものなんてないわ」
レンゲを鍋に沈めた奈都が顔をあげた。
そして、寂しそうに微笑む。
「それは、現在が幸せだから言えるのよ」
奈都、それは、現在より幸せだった過去が忘れられないってこと……?
私は親友がほんの少しだけ自分の幸せに正直になってくれたらいいなと、思った。
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