キミという花びらを僕は摘む

さいはて旅行社

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第2章 波乱含みの

2-6 人肉

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 脚を広げ、受け入れる。
 激しく腰を打ちつけられる。

「あ、、、ん、はあっ」

 毎晩二人に愛される。
 何度も。
 毎晩愛されたいと望む。
 愛されたい。
 こんなに快楽に溺れて、自分のカラダに戻ったときが怖い。

 こんなにも肉欲に溺れるなんて思ってもみなかった。
 もう手放せないと思っている。
 抱かれるという快楽を知らない時代には戻れない。

「んんっ、、、あ、もっと、、、」

 二人にねだる。
 もはやどちらにねだっているのかさえ判断つかない。
 もっと中に挿れてほしい。
 注いでほしい。

 ずっと喘いでいる。
 もっと欲しいとせがんでいる。

 彼らは競い合うように、カラダを求めてくる。
 手が伸び、お互いが奪い合う。

 ただひたすら求める。
 もっと。






「ズィー、ようやく来たな」

 前竜王のケチャが手を挙げて迎えた。
 居酒屋は宴会騒ぎだ。

 原因は俺のせいだが。

「いやー、竜人族は人族領に移ってからは人肉は口にしていなかったんだがな。殺人が禁止されているこの中じゃあ、竜人族のなかでも食べたい奴はとめなくてもいいかと思ってな。最後の思い出の味になるかもしれないし」

 魔族領の魔族は普通に人肉を口にする。
 それは人族とは相容れない行為なのだろうが、彼らの文化であり、価値観の相違である。
 魔族にとって人族に対する価値は、家畜。
 ただし、この仮想現実内にも人族はわりといる。
 けれど、殺人禁止なので魔族は人族を狩ることができない。
 なので、今晩は予想されうる人肉の最後の晩餐。
 ここを管理しているのが、人族の俺だから。
 ここにいる魔族の者にはなぜ俺が人肉をこの地に放り投げたのかを推測できている者の方が多いだろう。

 配慮だと思うが、本日の魔王ヴィッターは違う席で盛り上がっている。
 つまり、このテーブルにいる三人だけが、この居酒屋のなかでは人肉を口にしない者なのである。

 他は人肉を好きではなくとも、口にするのに抵抗がない。

「ううっ、ズィー、とんでもない物を贈ってくれたな」

 テーブルに突っ伏しているのはティフィ。
 人肉のお通しでも出されてしまったのか。

「、、、口には入れてないんだろう」

「ギリギリだったよ、本当に寸前。前竜王様がすんでのところでとめてくれなければ、口に含んでいたところだよ」

「これからはメニュー名をしっかり聞こうな」

「俺もそう言った」

「ううっ」

 ティフィはまたテーブルに突っ伏した。
 魔族が人肉を食べる姿がそこまで衝撃だったか。
 料理の見た目自体は普通の肉料理と何ら変わりがない。

 なぜ魔族と人族が相容れないのか考えればすぐに思いつきそうなのだが。
 人族領に移住した、移住できた魔族というのは、人族を捕食しない者たちである。
 努めて捕食しなかったか、別に他に食べる物があれば必要ないのか、そもそもあまり肉食自体が好きではなかったか、それは種族によって異なるが、竜人族は努めて捕食しなかった部類に入る。

 前竜王ケチャ以外は全員こんな美味しいものがあったのかと盛り上がっている。

「ケチャは食べないのか」

「、、、故郷に帰れないとはいえ、俺は人族領にある竜人族の王だった立場の者だ。竜人族はすでに昔に魔族領の地を捨てた一族で、人族領に受け入れてもらった一族だ。人族とは色々あったとはいえ、俺は食べない」

 けれど、部下たちが食べるのはとめない。
 もう外の世界には帰れないから。

「ただ人肉が贈られてくるのはこれっきりだと思うよ。ティフィに対して効果がなければ相手も諦めるだろ」

「え、私?」

 テーブルに頬を擦りながら、ティフィが俺を見ている。
 美人が台無しな顔だ。

「この人肉はティフィに贈りつけられてきたものだ。咄嗟に隠したからこうなった」

「ええっっ」

 ティフィが驚いて立ち上った。

「なななな何で私に人肉を送って来るのっ?誰がっ?」

「、、、そもそも俺は今ティフィなのだから、俺自身に送られてきたわけがないだろう」

 何でそんなに驚くかな。
 ティフィにとっては、ズィーから送られたと聞くと、そのまま俺から送られたと変換されるのか。
 俺はティフィの肉体にいるのに。。。

 俺自身に送られてきたのなら、トワイト魔法王国の国境でとめられている話だ。

 ま、ティフィにも事情を説明、説明。

「その第二王子、ティフィを嵌めようと必死なんだなあ。可哀想になってくるなあ。中身がズィーだと知らないで喧嘩を売るなんて」

 ケチャがあっさりと第二王子に同情した。

「相当な金をかけて贈ったものが綺麗に消失するとは思ってもみなかったのだろうな。ティフィは魔法が使えないし、ルアン王子殿下やレインのいない時間を狙って送りつけてきたのは相手も用意周到だ。同情するには値しない」

「相手がお前じゃなけりゃな」

 ええ?そうかな?
 悪意を持って他人を貶めようとする者は、全員が悪ではないかな。

「大切な人を人質に、というのはセオリーだが、その大切な人は第二王子にとっても大切な人だ。その点だけはありがたいが」

 だから、ルアン王子を人質にはできない。
 ただし、彼の大切な人というのは、立派な兄として、理想の兄として、という文言がつく。
 ゆえに、理想像の兄を壊して邪魔をするティフィは、彼にとって悪者だ。
 ティフィがいなければ、理想の兄に戻ると信じて。

 彼は兄の理想を叶えたいわけじゃなく、自分の理想を兄に押しつける。
 理想が同じならかまわないが、違えば大迷惑な行為だ。

「だからこそ、ちょうどいい罰じゃないか。第二王子にジルノア王国の国王を継がせるというのは」

「罰?ジルノア王国の国王になるのが?」

 不思議そうに俺を見るティフィ。

「外の人間は何も知らないなあ」

「仕方ないさ。一部の強国の上層部はある程度知っていることだが、庶民で知っている者は本当に数少ない。ティフィは幸運だったな。国王の配偶者にならずに済んで」

 もし、あのままティフィが第一王子の婚約者として認められてしまっていたら。
 何も知らずに。
 俺はジルノア王国の国王夫妻が善良なる一般市民を罠に嵌めたのではないかと疑うところだっただろう。

「は、話が見えないんだけど」

「まあ、おいおい説明するさ」

「、、、そうだな。こんな騒がしいところでする話じゃない」

 ケチャも同意する。

 いつもと違うのはケチャである。
 本来ケチャは周囲と同様に盛り上がっているのが通常運転だ。
 魔王ヴィッターよりもケチャの方が盛り上げ役をやっているのが日常なのだが。

 このテーブル以外、店内は非常に盛り上がっている。
 本日は魔王様が盛り上がっている。

「人の死体というのは用意しようとすると意外と高価な物だ。死体自体はどこの国でも簡単に見つかる。餓死する者はどこの国でもまだまだ多いが、彼らは売買するに値しないから打ち捨てられる。実は高価な死体というのは裏稼業をしている者たちだ。戸籍もないし、彼らは魔力も豊富であることが多い」

「そうだ。餓死した人間は価値がない。うまい肉も取れないし魔力も枯渇しているから、薬の材料にも食肉にもなりはしない」

 酒の入った魔王様が会話に乱入してきた。
 久々に上機嫌な笑顔の魔王ヴィッターを見た。

 ヴィッターの言う通りで、売買に値しない死体を薬屋に送りつけたところで、それは何の意味もない行為だ。
 薬屋が薬の材料として人間を使っているのかもしれない、と街の住民に思わせるためにはそれに値する死体を送らなければ説得力が皆無になる。

「うっ」

「ティフィ、ありがとう。お前のおかげでここでは一生手に入ることがないはずの人肉を食することができた」

 魔王様がティフィの手を取って感謝している。
 相当酔っているなあ。
 ティフィは泣きそうなツラしているぞー。

「魔王様、」

 ティフィが困惑している。

「たった三体弱だったが、脂がのっている肉、筋肉がついている肉もあり、なかなか楽しめた。今晩だけの夢だが、嬉しく思う」

「脂やら赤身やらなら牛肉でいいんじゃないですか?」

「ふっ、ティフィ」

 魔王様キラキラリン。
 自分の手で前髪を払った。
 人肉三体弱では一晩分にしかならないか。
 確かに一食につき一口大ならかなりの日数持つかもしれないが、食べた気にはならないだろう。
 それならば、無礼講で盛大にお祭りして一晩で消費した方が良いのかもしれない。

「お前は牛肉のステーキだと思っていたのに、鶏肉を出されて満足するのか?」

 人族に対しては良い例だと思う。
 ヴィッターも人族の常識に慣れてきた証拠だ。

「、、、ううっ、満足しません。悲しくなります」

 この世界でも牛肉の方が鶏肉よりも高価である。
 ティフィもそういう経験があるのだろう。
 肉が食べられるだけ裕福なのだが。
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