すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社

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6章 花が咲く頃

6-10 入場

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 昼食は冒険者ギルドの控室にされている会議室でお弁当が出た。
 招待客も別室でお弁当が出されているらしい。
 外に行きたいと思っていた俺はビスタにとめられた。どこもかしこも人だかりで生半可な気持ちと、一時間程度ではどこも入れないだろうと言われた。マイサさんのところの宿屋ですら遥か遠い道のりになっているようだ。
 冒険者で会場にいる一般参列者たちはお弁当やら携帯食やら持参している。トイレのとき等は席を立つが、それ以外はあの会場に居座り続けている。
 会場に入れない者は、通りや広場で一目でも見ようと待っている。
 
 街の人たちはそれほどまでに大神官長を見たいのだ。

 信仰心がない俺にはどうにも理解できない行動だ。
 有名人を見たいといっても、普通ならば一部の人たちだけだ。今、この街にいる人すべてが浮足立っているかのようだ。
 シアリーの街に大神官長が来ることは、一生に一度のことだと思っている。
 この先は聖都や大都市に行けば、もしかすると見る機会が訪れるかもしれないが、この街に根差した人々が動くことは少ないだろう。


 弁当のフタを開けて食べ始める。
 大神官長も昼食会の時間だろう。
 それから、歓迎式典に移る。
 多くの一般人はそちらに集まる。
 翌日の教会周辺も恐ろしい密集地と化すだろう。絶対に行かないけど。明日は家で大人しくしている方がいい。

 冒険者ギルド周辺に集まるのは、やはり冒険者関係になる。
 シアリーの街は冒険者の街と言われているが、冒険者が多くいるのはダンジョンへの出入口である北の門周辺が中心だ。その他の地区は普通の街と何ら変わらない風景が広がる。

「レン、儂はここで待っていたいのだが」

 テーブルの上に出てきた人形が、少々腰を折りわざとらしく年寄り風に装っている。第一人称も儂になってる。。。会場に乗り込む気満々だったのは爺さんだったのだが。爺さんも打ち合わせのときにいればいいので、特に会場入りする必要はない。本当なら俺もだけど。

「爺さん、ここまで来て怖気づいたのかー?」

「あのなー、レン。あのとき儂はおぬしらの剣の戦いを人形通して見ていたんじゃぞ。お前はほぼ魔物相手に戦っていて、対人戦はほとんど見たことはなかったが、遠目で見ていても恐ろしかった。お前のマントに隠れていたら、命がいくつあっても足りんわ」

 王城での模擬試合も爺さんは人形を通して見ていたわけだ。そんなに嫌かな?

「俺の方が実力は上だからマントは切らせないから大丈夫だよ」

「レンよー、儂の身体能力は並じゃよ。レンのマントから覗く特等席で剣で迫る大神官長を拝みたくはないのじゃ」

「そもそも、ヴァンガル・イーグと剣を交えるとは決まったわけじゃないし」

 爺さんの人形は食事をとるわけがないので、俺のお茶をいれてくれている。ついでに隣のビスタの茶も入れている。この人形は小さいながらも本当に器用だ。

「あのなー、レンよー。模擬試合と言いながら、お前に敗れたヴァンガル・イーグのあの悔しそうな顔を覚えておらんのかい。次、会ったときにお前さんを叩き切るとまで言っておったぞ」

「あれー?ヴァンガル・イーグは再戦を約束して爽やかに去っていかなかったっけ?」

「お前の脳内補正はどこまでいっておるんじゃい。それとも、違う誰かと勘違いしているんじゃないか?ヴァンガル・イーグはどこまでいっても好戦的な男じゃよ」

「俺、今、ギフトないからなあ。記憶は年月とともに風化しちゃうわけよ。過去視もできなくなったからなー。現物のヴァンガル・イーグと記憶はどれぐらい誤差があるんだろ」

「お二人さん、他の誰かがこの部屋に入ってきたら、ヴァンガル・イーグ大神官長のこと、名前なら敬称略で呼んじゃダメ。せめて、大神官長と言って」

 ビスタがお茶を啜りながら言った。
 俺も爺さんもこの国の人間ではない。
 他国の要人が目の前にいるのなら敬称をつけるが、基本的にそこにいなければ敬称略となる。

「さすが、冒険者ギルド本部の人間は心が広いのう。ここの所長はレンが敬称略で言ったとき、少し青筋が入っていたぞ。話の内容が内容だったから捨て置いたようだが」

「そうだった?よく見てるな、爺さん。結局は文化も風習も違う他国の人間だからな」

 神聖国グルシアの国民はこの国に来ている他国の人間まで抑えつけようとは思っていない。そこは尊敬に値する。多くの宗教国家は他国の人間だろうが何だろうが他の神を信仰していようがお構いなしに強要する。

「レン、今の状態でも剣の腕前はおぬしが上なのか?」

「身長が縮んでリーチが多少狭まったけど、俺の腕前としてはそこまで変わらないよ。疲れやすくなったというだけで、対人なら問題はない」

「確かに人間なら、切っても切っても同じ人間が湧き出て来るということはないからなー」

「あー、アレは地獄の苦しみだった。三日三晩不眠不休で戦い続けたからなー」

 爺さんは人形を通して俺の行動をつぶさに見ていたから、思い出話に花咲くな。

「うわー、何のことを言っているのかわからないけど、わからなくて正解かもしれないー」

 思い出話ではビスタが会話に入れないか。

「あれは、」

「レン、説明しようとするな。聞かない方が幸せだということは山ほどあるんだっ」

 ビスタが耳を塞いでしまった。
 まあ、無理矢理聞かせる話でもないか。




 俺たちは会場となる訓練場に足を運ぶ。
 大神官長御一行を冒険者ギルド入口で迎えるのは、所長以下職員たちだ。
 この時間ばかりは冒険者でも依頼者でもギルド内部に立ち入り禁止だ。会場の席を取れなかった者たちは建物の外でこの御一行を眺めることになる。

 俺に用意された後ろの席を、さらに背もたれが壁にくっつくぐらいに下げる。
 大神官長の視界に入らなければ、この場で戦おうとは言われないだろう。
 打ち合わせの場は対面なので、隠れるのは困難なのでしないが。

 しっかし、静かだ。
 ビスタは表彰されるので一番前の席である。
 大勢の冒険者や招待客の息遣いは聞こえるが、誰も会話をしていない。
 彼らはずっと前を向いて待っている。
 彼らの緊張感が伝わってくる。

 上の人間に会うときってここまで緊張するものだっけ?
 宗教国家ならではの、崇拝するトップを見るだけでも、信者は平伏す、涙する、倒れる等の諸症状が出るらしい。


 訓練場の扉が開いて、神聖騎士数名が最初に入場して演壇の前に等間隔で並ぶ。護衛だな。
 次に神官、かなりの人数が続く。どんだけ連れて来たんだ?
 神官と言えども、位は高い者なのだろう。神官服が清楚なのだが煌びやかだ。

 で、神聖騎士が入場しているときには、すでに会場の招待客も冒険者たちも両膝ついて祈りのポーズになっている。俺、このままイスに座っていていいのかな?立つと余計に目立つし、どうしようもない。

 冒険者ギルドの所長が会場に入って、自分の席の前で祈りのポーズになった。
 会場はより厳かな雰囲気になる。
 どうも皆、目を閉じて俯いていているようだ。
 二人の神官がさらに入ってくる。一人がククーだった。神官姿を生で見られた。やはり身長が高い者の方がこの神官服は映えるな。
 この後、大神官長が入場するのかな?

 祈りを捧げている者たちは、なかなか大神官長が入って来ないことに気づかない。
 遠くからククーが俺の横に視線を向けている。他の神官の視線も、神聖騎士の視線も。。。

「、、、」

 そう、俺の横だ。
 俺が横を見ると。

「久しぶりだな、ザット・ノーレン。見ない内に随分若返ったな。さて、再戦といこうか」

 長剣を持った神官服の筋肉の塊がそこにいた。
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