すべてを奪われた英雄は、

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17章 逃亡の冬

17-6 報復 ※ロイ視点

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◆ロイ視点◆

 俺が神聖国グルシアの聖都にある大教会に入った後、雪が一層濃くなった。
 あの二人は無事に帰れただろうか。
 宗教国バルトの馬車が教会の広場にいたのだから、俺の姿を見られたのではないだろうか。
 エースが依頼して、アスア王国の王都からここまで魔物に一匹も出くわさずに済んだくらいの実力だ。何とかなるのだろう。

 背の高い男は試すことはできなかったが、もう一人は数日間楽しむことができた。
 あのまま俺の世話係にしてくれれば良かったのに、と思うくらいだ。
 お互いのカラダの相性が抜群だった。キザスやエースよりも具合がいい。ヤったりヤられたり、貪るようにカラダを求めた。
 連絡先ぐらい聞いておけば良かったか。
 けれど、他の人間に物足りなくなれば、向こうから俺に寄ってくるだろう。
 俺の居場所はつかんでいるのだろうから。

 この教会では世話係の神官数人がつけられた。
 コイツらは俺の次の行き先を知らない。
 数日間の世話をするよう上司から言われただけのようだ。
 彼らは俺の食事、入浴、そして、夜の世話もした。
 性欲を抑圧された聖職者である神官は、少し誑し込めばすぐにベッドに誘えた。
 激しく愛撫され、激しく腰を打ちつけられる。
 そして、神聖国グルシアの玄人が良く使っている強い薬を使われていることがわかる。
 快楽がカラダの芯から指の先まで突き抜けるような感覚が良い。
 どこまでも喘がされる。
 世話係数人に何度もヤられると、ここにずっといるのも悪くない気がしてきた。
 ここでは訓練も勉強も何も言われないだろう。
 相手が男だけしかいないが、まあそれも悪くないと思える今日この頃。
 体力の続く限りガンガンに何度もヤってくれるのは、女よりも男の方が多い。




 さすがに疲れて眠ってしまった。
 起きてカラダを見ると綺麗に拭かれ、夜間着を着せられ、ベッドに寝かされていた。
 厚待遇だな。
 お金を一銭も払わないで、ここまでしてくれるのならさっさと神聖国グルシアに来ていれば良かったとさえ思える。
 部屋で世話係の神官が俺の身支度を整えてくれる。
 衣装も着替えさせられ、髪をブラシでとかし、顔に多少の化粧をされる。

「ロイ様、大神官長が朝食の場にお見えになるそうです」

「そうか」

 大神官長は神聖国グルシアのトップだ。
 アスア王国の英雄に会っておきたいという気持ちもわかる。
 それとも、大神官長も俺のカラダ目当てか?
 まあ、ヨボヨボのジジイだったらこっちから願い下げだが。激しく動いてもらわないと、俺はもう満足しない。

 神聖国グルシアの国教の総本山だけあって、大教会は超広い。
 世話係が先導してくれないと、迷子になるのは確実だろう。
 朝食会場までがかなり長い。

「ロイ様、こちらです」

 世話係がある扉の前で止まり、俺に礼をする。
 扉の護衛たちが、俺を見て扉を開ける。
 中にはまた扉があるがあり、護衛が二人いる。
 世話係は通路から動かないが、手があちらへどうぞと示している。まずはここに入れということか。
 前室に入ると、表の扉は閉められる。
 すぐに次の扉が開く。

 そこにも数人の神官がいる。
 広大なテーブルに神官が席についている。
 奥のお誕生日席に座っているのが大神官長だろう。ヨボヨボのジジイを想像していたが、筋肉は逞しくまったく真逆を行く人物だ。
 立っている神官が俺を大神官長の向かいの席に誘う。広大なテーブルなのでかなりの距離があるが。
 コレで会話ができるのか。それとも、聖職者は食事の席においては会話をしないのだろうか?
 大神官長がその場で立ち上がると、座っていた他の神官も立ち上がる。

「朝早くからすまないね。神聖国グルシアの大神官長ヴァンガル・イーグだ」

「アスア王国の英雄ロイです。お見知り置きを」

 大神官長は目を細めた。

「今のアスア王国には英雄は一人しかいないと思っていたが。なあ、英雄」

「俺はもう英雄ではないですよ。英雄のギフトはないのですから」

 大神官長が話しかけた相手は。
 そこにいる者はすべて立ったと思っていた大神官長の斜めの席に、一人座っていた。
 俺の顔は強張る。
 それは俺が殺した相手だ。

 黒い短髪、端整な顔立ち、白銀の鎧、歴代の中でも英雄らしい英雄ザット・ノーレン。
 あのときと変わらぬ姿でそこに座っていた。

「な、」

 何で生きてやがる。どうしてあの最凶級ダンジョンでくたばっていないんだ。
 そんなことをここで俺から口に出せるわけがない。
 驚きのあまり、最初からそこにいたのかさえ思い出せない。
 大神官長の他には神官が数人いたことは視界に入っていたが。

「英雄のギフトを持つ者がアスア王国では英雄とされています。今の英雄はこの俺です」

「その英雄殿が、なぜアスア王国の国王の許可もないのに神聖国グルシアに来ているのですかな?」

 畳みかけるように大神官長が俺に問う。
 どういうことだ、コレは。
 朝が早いからか、頭が回らない。

「それはアスア王国の王城が国民に侵入されまして、危険が伴いましたので俺は」

「アスア王国は暫定政府が樹立し、国王以下王族並びに新英雄ロイを見つけた者には生死を問わず褒賞金を出す、と御触れが街中に出ているようで」

 褒賞金?
 その暫定政府は英雄を殺そうというのか?

「貴方が今、アスア王国に戻れば、非常に危険な状態ですな。どうでしょう、ロイ殿、ここに留まってはいかがか」

 それは願ったり叶ったりの提案なんだが、なぜこの場に英雄ザット・ノーレンがいるのか?
 いなければ、すぐさま返事をしただろうに。

 その英雄ザット・ノーレンは椅子に座ったまま俺を見ている。
 笑っているが、その笑顔は黒い。今までそんな表情を見たことがない。
 そこにいるのは本当にあの英雄ザット・ノーレンなのか?それとも神聖国グルシアが何らかのギフトで俺を試しているのか?

「まあ、いきなり提案されても即決できないのもわかりますよ。朝食を食べながら検討してみてください。他に行きたい国があるのなら我々も止めませんので」

 大神官長が笑顔で席に着くと、朝食が運び込まれる。
 他に行きたい国?
 そんなのがあるわけがない。
 ただ、俺にとって安全な国にいたいだけだ。そして、男女問わず、大勢とヤれるのなら最高だ。

 大神官長も他の神官も英雄ザット・ノーレンもこの場で普通に朝食をとる。
 俺もその存在に食事も喉を通らないと評価されるのも癪なので、残さずに食べる。
 会話はほぼない。
 たまに大神官長と英雄ザット・ノーレンが話すだけだ。
 何でこの二人は仲良さそうなんだ。
 やはり復讐をするために、俺をここに呼んだのだろうか。

「どうですか、考えはまとまりましたか」

 大神官長が優しい笑顔で聞いてきた。
 うんと言ってしまいたいのだが、簡単には言えない。
 そこにいる英雄の真意がまったくわからない。

「あ、いえ、まだ」

「何を迷っているんだ、ロイ。お前は昨晩、神官たちと楽しんだのだろう。その行為がこれからも続くのならお前にとって願ったり叶ったりじゃないのか」

 あまりにも唐突に、英雄ザット・ノーレンが口を開いた。
 その目には蔑みの感情が見て取れる。

 俺をまるで娼婦のようだと蔑みたいのか?
 それならば、快楽に素直に従った方の勝ちだ。英雄ザット・ノーレンがどう思おうと、俺が幸せになる道を選択した方がいい。
 神聖国グルシアにいれば死なない。神官たちと戯れることができる。

「大神官長殿、こちらに身を寄せることができれば幸いです」

「ほほーう。それがロイ殿のお考えでよろしいのですか?」

「え、ええ、そちらの神官の皆様とも仲良くさせていただければ嬉しいです」

 ただの確認か?
 大神官長は神官の一人に指示を出す。

「魔術印を結ぶと、この教会にある奥の診療所へ入ることができます。神官たちと仲良くするのならば、そこが最適でしょう」

 大神官長が俺に言うと、神官が俺の手の甲に魔術による印を結ぶ。
 診療所とは言っているが、名ばかりのものだろう。そういう行為をするための場所のはずだ。その手の勘は外れたことがない。

 俺は英雄ザット・ノーレンが朝食の席にいたことも忘れ、その後、奥の診療所で朝も昼も夜も忘れ、神官たちと戯れた。
 快楽を貪り、数日が過ぎた。
 目が覚めると、ベッドの横の椅子に英雄ザット・ノーレンが腕を組んで座っている。

「英雄、お前も俺を抱くか?今なら相手になってやってもいいぜ」

 今の俺は裸だ。横たわったままベッドに誘う。
 英雄は動かない。

「お前は何のために英雄のギフトを俺から奪ったのか、この状況ではわかりかねるな」

「皆からチヤホヤされたかったんだよ。ここでは金も使わないで、激しく遊べる」

「そうか、人形の印でもう正常な判断はできなくなっているか」

 人形の印?何を言っているんだ、コイツは。
 俺とヤらないのなら邪魔なだけだ。

「それは好都合だ」

 英雄は椅子から立ち上がると、ポンと俺の肩を叩いた。
 その黒い笑みは朝食の席にいたときと同じ。
 冷や汗が流れた。
 だが、英雄は肩を軽く叩いただけで、部屋から去っていった。

 何だったのだろう。

「ロイ、今日も朝から良いか」

 部屋に神官が入ってきた。

「ああ、いいぞ」

 今日も一日が最高になるはずだ。
 服を脱ぎ捨てると神官もただの男だ。熱く肌を重ねる。
 塗り薬を奥まで指で塗りたくられる。
 それだけでも、気持ちよくなるはずなのに、、、ならない。
 いつもなら、それだけで快楽に委ねられるのに。

 俺はおかしいと思いながらも、俺は後ろから中に挿れられる。男は強く激しく動く。
 いつもと同じの行為が、まったく気持ち良くならない。

 それどころか。
 痛く、苦しく、辛い。
 顔が苦痛で歪む。汗が額から流れる。

 男はイった。だが、コイツはいつも一回では終わらない。

「今日はもうやめてくれ。気分が乗らない」

「ははっ、それはちょうど良かった。俺が最初の当たりを引くなんて」

「あ?」

 当たり?
 男は俺の両手首に枷をつけている。鎖がベッドにつながれているのが見える。
 なぜか俺はその行為を素直に受け入れている。

「嫌がる顔が好きなヤツらがここには大勢いるんだ。他の人形のように従順なのも良いが、飽きるからな」

 男は舌舐めずりをする。

「今度はその顔をじっくり眺めさせろ」

 男は今度は前から攻めてくる。いつもだったら歓喜に打ち震えていただろうはずなのに。

 顔は苦痛で歪むのに、頭は働かない。
 それでも、ぼんやりとした頭で考える。
 ああ、もしかして英雄がここに来たのは。
 快楽ではなく、死ぬまで苦痛を与えるために。

 英雄が生きていたならば、自分を殺そうとした人間を黙って許してくれるわけがない。

 自ら望んで、俺はこの場にいる。
 アスア王国の国民に殺されることはない安全な場所だ。
 俺はここから逃げることもできない。
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