その捕虜は牢屋から離れたくない

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2章 帝国の呪い

2-63 悩める者に愛の手を

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「魔力量が増えたことを純粋に喜びたいが、訓練に高額な魔力回復薬を使用しているから悩んでいると」

 はい、部屋長、そうなんです。
 ついつい親しみやすさに負けて正直に話してしまいました。

 セリムさん、すいません。
 いつも以上の鋭い眼光、聞きたいこと聞いたら部屋長はすぐにお返ししますから、後ろで睨まないでください。
 超怖いです。

「気にしなくても良いと言われましたが、俺が仕事でお返しできるかというと、そこまで魔法が上達しているわけでもないし」

「うーん、魔力量を増やす訓練としては、俺がやっていたことだから実績はあるから問題ないとして、ギノが気分的に気楽に魔力回復薬が使える状況があると良いんだが。あ、そーだ」

 何かを思いついた部屋長。
 気楽に魔力回復薬が使える状況って、庶民にはどんなに考えてもない気がするんだけど。
 俺の頭では想像もつかない。

「訓練成果をシエルド様に買い取ってもらおう」

 ???
 どゆこと?
 訓練成果を買い取るってどゆ意味?

「あ、ちょうど良かった。シエルド様ー」

 と、部屋長が手を挙げた先には、アッシェン大商会の紋章が入った豪華な馬車が広場に沿った大通りをゆるりと走る。
 走っていたはずが、馬が急停止する。

 、、、部屋長、今、何かしましたか?

 部屋長の声量で、馬車の御者まで届くわけもない。
 もしも届いていても、声の主が誰だかわからない時点で、御者が馬車をとめる判断をするわけもない。
 安全のために、上流階級の馬車が予定外の場所でとまるわけもないのに。

 慌てて、中からシエルド様が出てきた。
 あ、本当にシエルド様だった。
 アッシェン大商会の馬車に乗っているからって、シエルド様が乗っているとは限らないのだが。

「シエルド様ー、こっちー」

 部屋長が手を振ると、馬車を停めさせたままシエルド様が広場へとズンズンやってくる。
 顔は一応笑顔なのだが。
 歩き方で、その表情が感情を表していないことを悟る。

「クロウ様、今、馬車に何かしましたか?」

「声をかけただけだよー。それよりも、魔導士見習ギノの今後の訓練成果を買わないか?」

「、、、訓練成果?うーん、詳しく聞かせてもらいたいところだが」

 一気に商売人の顔になったシエルド様が辺りを見回す。
 ほんのりと日が陰り始めたところで、仕事終わりだったり、日中よりは動きやすくなったところで人が広場に増えている。

「お、セリム殿もいるのか。よし、三人とも馬車に乗れ」

 有無を言わせず、シエルド様に部屋長、セリムさんとともに馬車に押し込まれた。
 すぐ近くにあるアッシェン大商会帝都本店の応接室に連れてこられた。

 豪華だよー。
 こんな部屋入ったことないよー。
 シエルド様のようにキラキラしている調度品で囲まれているよー。
 壊したら一生タダ働きするハメになりそうだよー。
 一般庶民を一緒に連れ込んだらダメなところだよー。
 怖いよー。

「で、シエルド様、今、魔導士見習のギノは魔力量を増やす訓練をしているところなんだ」

 ソファに座るなり、部屋長がさっさと本題に入る。
 ちなみにセリムさんはソファの後ろで立っている。
 俺は部屋長に引っ張られて、隣に座らされている。

 俺の訓練の話をしたいからこの配置なんだろうけど、今の時間のセリムさんは護衛ではないでしょうに。

「ほうほう、魔力量はさほど増えないと言われているけれど、訓練で大幅に増やす方法があると?そして、今、ギノが実践している最中だと。そして、その成果が少しずつ表れていると。その方法を私に買い取ってもらいたいわけか」

 なして、それだけの説明で大部分わかるの?
 シエルド様だから?

「ギノがさあ、魔力回復薬を使うのを高価だからって躊躇っちゃっているんだよー。大義名分があれば使いやすいだろ」

「あー、魔力回復薬が必要なのか。確かに庶民では日常的に使うのは難しいが、上流階級が子に魔力量を上げさせる目的で使用するのは容易い。ふむ、採算は取れそうだな。よしっ、訓練のための魔力回復薬はアッシェン大商会が持とう」

「、、、いや、一応、俺の在庫から出しているから、魔力回復薬自体は問題ない。ギノの気持ちがねー」

「魔力回復薬の値段を知る者として当然の反応だと思うが。大教会の薬部屋では魔力回復薬は作っていないはずだが、どこから出している?」

 シエルド様、眼光が鋭くなっていませんか?

「まあ、第四王子部隊の魔導士は俺だけだからねー。リンク王国時代からの在庫が山ほどあっても、牢獄内では今まで特に需要がなかったんだよ。俺もリンク王国にいたときのように魔力充填ばかりやって魔力切れ寸前になることも、帝国に来てからまったくないし」

 部屋長の底が見えない豊富な魔力量で魔力切れ寸前って、どれほどの充填作業がリンク王国にはあるのですか?
 ブラックな環境としか思えない。

「、、、クロウ様のことはともかく、あの脳筋騎士どもは常日頃身体強化の魔法は使っているのに、魔法を使っていると思ってもいない者が少なからずいるのがムカつくよなあ」

 シエルド様の素の声いただきました。
 そこにその脳筋騎士どものお仲間がいるんですけどね。
 セリムさんは眉一つ動かしませんけど。

「っと、身体強化の魔法がこの訓練には最適なのか?」

「魔力量が少なくとも、効率良く使えるから。けれど、訓練場を持っていたり、他に得意な魔法があるのなら、それでもいいと思うけど。魔力切れ寸前まで魔石に魔力充填してもいいし」

 お、魔石に魔力充填するのもきちんと訓練になっていたのか。
 ただ簡単に儲けるための手段かと思っていた。

「いや、うちのような大商会や国なら大量に魔力充填するための魔石があるだろうけど、一般家庭ではそこまで魔道具が普及していないし、あったとしても必要なのは小さい魔石だから、そもそも市井の魔導士には魔力切れするまでの魔力充填の依頼も少ないんじゃないか」

「そういうものなのかー。俺、どこにでも魔力充填するための魔石や魔道具が永遠にゴロゴロと転がっていると思ってたー」

「それはリンク王国の王宮だからだ。魔力切れが頻繁に起こっていたら、生死にかかわる危険性さえある」

「魔力回復薬があれば大丈夫ー」

「ん?ギノはクロウ様の監督の元、訓練をしているんだよな?」

 シエルド様が俺を見た。
 部屋長の説明に違和感を覚えたらしい。

「いや、一度教えたら、各自自分で自主訓練をしてもらってるよ」

「ああ?各自自分で自主訓練ー?各自って他に誰がやっているんだ、全容を白状しろ」

 シエルド様のお顔が怖くなった。
 とうとうセリムさんよりも目つきが鋭くなってしまった。

 シエルド様が部屋長から情報を吐かせた。
 従者がお茶と甘いお菓子をちょうど持ってきたので。
 部屋長はちょっと良いお茶とお菓子が大好きだ。うん。簡単に口を割った。
 シエルド様の分のお菓子も部屋長がおいしそうに食べている。

「何で薬師見習の三人まで魔力量増やす訓練してんだよ。さすがにお前みたいな魔法も使える薬師にはなれないだろうが」

 シエルド様の口調が徐々に悪化しております。
 誰もそれには触れないで、この世界は進んでいくんですかね。

 魔力回復薬のことは何も言わず訓練を受け、将来魔導士として稼げるようになってから恩返しって方法が良かったんですかね?
 どうして、その方法を思い浮かばなかったのかな、少し前の俺。
 ちょっと今、胃が痛くなっているよ。
 俺の前にもお茶とお菓子があるけど、口にできそうにないよ。喉はカラカラなのに、お茶ですら喉を通りそうにないよ。

 シエルド様は部屋長から誰がどのような訓練を行っているか詳細に聞いた後。

「その訓練、薬部屋で就業時間内にやれ。私が許可する。監督者がいない状況で、魔力切れで危険な状況になったらどうするんだ」

「そうならないよう、訓練するときは魔力回復薬を手元に置いてからやるように言い聞かせて」

「自力で魔力回復薬を飲めない状況になっていた場合、命に係わる。それは一人でやる訓練じゃない」

「えー、俺、いつも一人だったけどー。一人じゃないことの方がなかったよー。訓練じゃなくて仕事だったけどー」

 ブーブーブーと部屋長がシエルド様に苦情を入れるが。

「それは特殊なクロウ様だけが許される特別な訓練、、、仕事だ。注意書きに一人では訓練をやらないように書いておかないと。絶対に目立つように書いておかないと」

 大切なことなので、シエルド様は二度言いました。
 ついでに紙にしっかり書き込んでいる。

 確かに魔力切れってあんなに辛いものなんだって初めて知った。
 胃の中にあるもの全部ブチまけてから、這いつくばって何とかして何とか辛うじて魔力回復薬を飲んだけど、非常に辛かった。後の掃除も辛かった。

「魔力量は魔力切れ寸前か、魔力切れを何度も起こさないと成長しないからなあ」

「その訓練をスムーズに行うためにも、監督者と魔力回復薬が必要なんだろ」

「監督者は必須じゃないだろ。魔導士なら魔力量は自分で見極められるだろ」

「そんな魔導士だらけなら、この世は平和だったに違いない」

 シエルド様が呆れたように話を締めた。
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