その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社

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1章 敵国の牢獄

1-5 独房のセリム

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 明かりは最小限。
 暗さにも慣れる。
 男たちの息遣いが鬱陶しい。

 独房は年中問わず暗いが、広い。
 広くても拘束具で動きを縛られている状態ではその広さを味わうことはできないが。

 朝夕問わず男たちが俺の肉体を弄ぶ。
 恥辱を与えるにはふさわしい拷問と言えよう。
 痛さだけで快楽には程遠い。
 痛みを訴えても、彼らがこの行為をやめることはない。

「血がついてるな」

「お前のか?」

「いや、コイツのだろ」

「なら問題ねえか」

 帝国の軍人たちが己の欲望を発散するために俺の肉体を使う。
 その行為には愛情など存在しない。
 この部屋に何人いるかさえ、もうすでに数えることをしなくなった。

「あ、看守から薬を預かっていたんだ。とりあえず塗っておこうぜ」

「こっちは飲み薬か。ほら、ありがたく飲んどけ」

 たまに切れたところに薬を塗られることもあったが、焼け石に水。
 治る前にガンガンに突っ込まれていたら、治るものも治らない。

 薬と称した毒ならありがたい。
 助けてもらった命を粗末に扱うことはできないが、殺されるのなら言い訳もたつ。

「う、」

 水分も制限されているなかでは、喉を潤す液体は歓迎する。
 中身を飲み干すと、軍人は小瓶を床に投げ捨てる。

「はぁ、」

 肉体の内部から熱くなってきた気がする。
 即効性がある薬なのか?

 考える暇もなく、軍人の一人が突っ込んできた。

「ああっ」

 自分の声に色がついたことに気づく。
 この行為はあんなにも痛みで苦行で拷問だったのに。
 叫びが快楽で彩られる。

 もしかしたら飲まされた薬は薬でも媚薬に該当するものだったのだろうか。

「んっ、あぁっ」

 抑えようとしても興奮が抑えられない。
 喘ぎ声が自分の口から漏れていく。
 軍人の腰の動きはとまらない。
 いつも通りに激しいものなのに。
 肉体の奥が濡れていく。
 手を強く握るが、快楽がとめられない。

「俺のでコイツも陥落したか」

 軍人は満足そうな声を出したが、腰の動きはまだまだ満足とは遠そうだ。
 俺の拘束され、動きが制限されている腰ももっと欲しいとせがんでいる。

「チッ、俺ので落としたかったのに」

「賭け金どうなってんだよ」

「ああっ?お前ら賭けなんかやってたのか」

「お前、知らなかったのか?他の捕虜三人も誰が落とすか賭けしてるぜ」

 軍人たちの会話で、自分の置かれている状況を嫌というほど知る。
 俺たちは遊びの対象なのだ。

「コイツが終わったから、他のところに行ってみようかなあ。耐えているのがいいのに」

「それぞれ競争率が高いだろ。当初から通っていなきゃ、順番なんてまわって来ない」

「人気ある捕虜は高い位の奴が優先だからなあ」

「それは鉄格子の方の捕虜だって同じだろ。軍人として名を上げれば優先されるぞ」

「どれだけ先の話だよ。リンク王国からもっと捕まえてくれば良いのに」

「いや、あの国に筋肉がどれだけいると思ってるんだよ。たいていはあの魔導士のようにひょろい奴ばかりだ」

「騎士なら鍛えているんじゃないか」

「騎士なら鍛えていると思うのは早計だ。帝国の常識で他国を見るとガッカリする」

 確かに、第四王子部隊に配属された隊員たちはしっかりと訓練して鍛えている者たちが多かった。
 彼らの言葉に冷静に思考する自分も存在するが、そういう一部を残しておきたいとしがみつく理性か。

「はああっ」

 声を上げた。
 強い一撃ですべてを放棄して快楽に身をゆだねる。

「あ、あ、、、」

 肉体は歓喜で打ち震える。
 余韻が肉体中を駆け巡る。

 一休みする間もなく。

「お前は早く退け」

「夜はまだまだ長い」

「あっちに移すまで楽しむか」

「もっと激しくすれば、ここに居座るかもしれないぞ」

 違う拘束具で体位を変える。
 より深く、より激しく、より強く。

 行為に過激さが増すとともに、俺はさらなる快楽を感じていく。
 もう後戻りはできない。
 強く抱かれないと満足できない肉体に変えられていく。
 もっとしてくれと望む自分がいる。

 やはりあの飲み薬のせいか。
 帝国の軍人に変なものを飲まされたか。




「セリム様があの金属製の扉の独房から出てきた最後の捕虜ですよ」

 食堂で昼食をとっていた魔導士クロウが俺を見て声をかけてきた。
 広い食堂に捕虜は数人しかいない。昼食の時間には少々ズレているようだ。

 昨晩さんざんヤられまくって起きるのが遅くなっただけという話だ。
 他にまだ三人いると帝国の軍人たちが言っていた気がするが、彼らは先に出ていたのか。

 俺は看守に独房を鉄格子の牢に移されると、食堂へ案内された。
 小さい窓から入る光でも眩しい。
 その看守も簡単に説明するとさっさとこの場を後にしやがった。

「あ、そうなのか?クロウ、俺に様はいらない。王国にいるときも言っていただろ」

 俺の言葉にクロウは沈黙で返す。
 返事をしないときは同意していないという沈黙。
 否定も言葉でできないための沈黙。
 第四王子部隊は魔導士クロウ以外の隊員は全員貴族の子弟。爵位を継いでいる者はいないはずだが、平民であるクロウには居心地がいい部隊ではないだろう。第四王子直属の部隊なのだから、隊員も身分はそれなりのものである。

 貴族の場合、敬称略は本人が良いと言っても周囲が許さないことが多い。
 けれど、敵国の捕虜となった身で身分も何もない。
 そもそも、第四王子部隊全員を救った者に、様をつけて呼び続けられるのもおかしい。俺の方が感謝を込めてクロウに様をつけたいくらいなのに。
 おそらく本当にクロウ様と呼んだ日には、冗談であったとしても俺の周囲に冷風が吹き荒れそうなのは気のせいではないだろう。

「セリム様は一か月ほど動けない状態だったのに、筋肉が衰えていないのはなぜなんですかね?」

「たとえ拘束されて動けなくとも、身体強化をしていれば体内は鍛えられる」

 俺の答えにクロウが微笑んだ。

 目がまったく笑っていなかったが。
 魔導士なのだからこの説明でも理解できると思うのだが?
 攻撃魔法のような外に魔力を放出する系統の魔法を使えない者が騎士には多いが、身体強化など体内で魔力を循環させる魔法を使う者は多い。武器や愛馬も自分の肉体の一部だと考えられるのなら、無意識に武器も愛馬も強化している騎士もいるくらいだ。
 魔法というのは表に出るものだけではない。
 魔法は鍛錬にも使える。
 人知れず負荷を自分の肉体に加えることだって可能である。

 だからこそ、帝国に捕まる前と同じ筋肉を維持できる。
 いや、俺の筋肉は忍耐も養って更なる輝きを増しているはずだ。

「見よっ、この筋肉っ、すばらしいだろうっ」

 筋肉が美しく見えるようにポージングすると、クロウの笑顔はより濃く黒くなった。
 なぜだ?

「今日も食事がおいしいですねえ」

 クロウは何事もなかったかのように食事を再開した。
 筋肉を無視しないでぇ。

「今日は四人も新顔が現れたなあ。これでリンク王国の捕虜は全員こっちに顔を出すことになったのか。食堂は自分でトレイを持ってあのカウンターに並び、食事の皿を受け取っていけ。パンは自由に取れるから食事の量はそれで調整しろ」

 無精ヒゲの料理人が食事がのったトレイを俺の前に差し出した。
 俺はクロウの向かいの席に座る。なお一層の黒い笑顔を向けられた気がしたのは気のせいか?

「あ、こちらはここの料理人のナナキさんです」

「ここにいる捕虜の筋肉量を維持、向上させるために日夜励んでいるよっ。ゆえにキミたちにはメニューの要望とか、味の感想とか聞くことはないから、よろしくっ」

 料理人が言うことではないと思うが、ここが牢獄の食堂である時点で捕虜の感想なんか聞く耳を持つはずがない。

「牢獄内で温かくおいしい食事を食べられるのは、ここにいるナナキさんやこの食堂に勤めている帝国の料理人皆様のおかげです。ありがとうございます」

 座りながらも料理人ナナキに深々と頭を下げるクロウ。
 食器は見劣りするものだが、料理はおいしそうである。
 正面から言われて、ナナキはちょっと顔を緩ませる。オッサンのテレ顔なんて見ても嬉しくない。

「いやいや、仕事だしぃ、この食堂は軍人の一部や看守も食事するからなっ。決してお前たちのためじゃないぞっ」

 ツンデレか?

「ところでナナキさん、ここに来て一か月ほど経ちましたが、帝国では聖職者の方は牢獄に慰問とか来られないのですか」

「お?クロウは熱心な信者なのか?」

 ナナキは少々意外なものを見るかのような表情を浮かべた。
 俺も同じような目をクロウに向けていたが。
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