その捕虜は牢屋から離れたくない

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1章 敵国の牢獄

1-6 宗教と帝国

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「帝国には熱心な信者というのはほとんどいない。一応この帝都にも教会はあるが、宗教に権力を一切握らせないし、政には関わらせない。帝国内では一番大きい教会でも聖職者ってあまり人数はいないんじゃないか」

 牢獄の食堂の料理人ナナキが俺に教えてくれる。
 国によって宗教の扱いは様々だ。
 たいていの国は利用しようとした宗教に力を持たせたことにより痛い目に遭っていることが一度や二度ではないので、ここら辺の国は宗教から距離をとっている。距離的に離れている宗教国家もこの辺は布教にあまり力を入れていない。

 このオルド帝国は皇帝を第一に絶対と考える国なので、ある意味信仰と同じである。狂信度合いはどこの宗教国家よりもひどい。

「リンク王国でもそこまで熱心な信者って少なかったが、クロウは教会に祈りに行っていたのか?」

 金属扉組だった捕虜の騎士セリムが口を出してきた。
 貼り付けた笑顔のまま対応することにする。

 行っていたわけないじゃん。
 外部の人間と接触するための方便だよ。
 牢獄って言ったら慰問があるかもしれないじゃん。
 捕虜なのにここまで厚遇されているんだから。厚遇されているのは筋肉を提供しているからだと思うけど。俺はまったく何も提供してないけど、俺の他にも神に祈りたい人物がいるかもじゃん。

 だが、熱心な信者というのは食事や就寝の際でもいつでもどこでも祈るので、違うと即座にバレる。ボロボロな信仰心なので、ボロが出やすい。
 だからこそ、ナナキにも他の捕虜にもにわか信者って思われるように演技する。
 こんな状況では神にでも祈りたいよね、くらいに。
 そして、いつかは教会の方に行ければ、という淡い期待を抱いて。

「リンク王国にいたときはたまに行っていたくらいでしたが、こういう状況になると心の拠り所のない平民は神にでも祈るしかないのです。他の皆様は王国でご家族が熱心に交渉に動いていらっしゃるかもしれませんが」

 捕虜である他の皆様の実家は貴族。
 誰かしら有力な貴族が水面下で一人か二人動いていてもおかしくはない家柄もいる。

 この第四王子部隊に配属されたときに、ほとんどの家族は諦めていると思うけど。
 子の生存を諦めない親なら配属を知った瞬間にさっさと違う部隊に異動されるように動いている。
 本人が知っていたかどうかは、その者の脳筋具合によると思うけど、隊長あたりは少なからず感づいてはいたようだ。感づいていても逃げられないのが身分によるものである。とは言っても、怪我や病気による療養をうまく使えば下位貴族でもどうにかなったと思うが。

 平民に救いを差し伸べる手はどこにもない。
 それが魔導士団の雑用係の魔導士となれば、組織にさえ必要とされていないということだ。
 残念ながら、だからこそ、第四王子部隊に配属されたのだろう。

「ああ、まあ、王が拠り所とならない国は、いるかいないかわからない神に頼るしかないか。俺は宗教は人を都合よく動かす手段としてしか見ていないから、神に祈る気持ちは持たないが、何かにすがりたくなる気持ちはわかる。前例はないが聖職者がここに慰問に来れないか、上の方に掛け合ってみる」

「おおっ、ナナキさんに話して良かった。聞いてもらえただけでも少しは心が晴れた気がします」

「感謝は要望が上に通った後にしてくれ。この件は料理人の一存ではどうにもならないからな」

 ナナキは意外と上機嫌。人に頼られることが好きなのかもしれない。
 その横でブスッとした表情になったセリム様。
 なぜなんだろうね。




 午後の労役の後、捕虜は一列に並ばされ身体検査をされる。
 工具や農具等を牢に持ち込まないための検査なのだが、俺は看守にさっさと行けと手で合図されて終わり。
 俺とは言葉すら交わさない。

「おっとぉー、この硬いものは何かなあー」

「うっ」

 身体検査する看守は頻繁に交替する。目当ての捕虜が来たら次が登場している。
 この看守は俺の次に並んでいた捕虜がお好みのようだ。

 何も持ってなくても。
 捕虜の白いズボンの中に、看守は手を入れて躊躇なく動かしている。

「両手を壁につけろー。何も持っていないというのなら抵抗するなー」

「くっ」

 この看守もこの捕虜が何も持っていないというのは百も承知。

「何だろうなあ、この硬いのはー?工具でも入れてたのかなあー?」

「何も入れてな、あぁっ」

 彼は強く揉みしだかれて、喘ぎ声が漏れ出した。
 看守は彼のズボンを下ろす。

 看守はすぐに彼の中に。


 こんな光景はこの牢獄では日常茶飯事。
 いつでもどこでも発情している者たちがいる。
 看守も、昼夜問わずやってくる軍人も。
 性欲解消のために来る軍人は夜が多いが、シフトの関係上昼間に来る者も少なくない。

 そのための捕虜の班編成である。
 班の構成員も人数も日々変わる。
 ちなみに俺が所属する班は基本的に普通の労役組である。
 農作業や軽作業、部品の組み立て作業等が中心だ。たまに厨房に入って下処理をすることもある。

 俺と同じ班になって喜ぶ捕虜もいれば、残念がる捕虜もいる。感想は人それぞれ。昼も夜も抱かれたいという者もいれば、男に抱かれるのは夜だけで充分だという者も。

 俺は剣や体術の訓練も、帝国軍人相手の労働をすることもない。
 訓練場に連れていかれた初日、ごくごく普通に訓練をリタイアした。地面にダイイングメッセージを残したくらいだ。それ以降、看守は連れていこうとさえしない。
 両手首両足首の枷も免除されているくらいだし。超重いアレをつけるだけで動けなくなるのに。
 枷つけて走って踊れて剣も振れるアイツらは化け物か?
 騎士の体力を舐めたらあかん。
 まあ、確かに朝まで抱かれて元気な皆様だ。
 体力も筋力も有り余っていることだろう。

 しっかーし、訓練場には剣や槍等の武器が普通に置かれているのは驚いた。
 しかーも、刃を潰してないものを。
 だからこそ身体検査は必要なのだろう。短剣のように隠せるサイズのものも存在しているし。

 だが、あのピチピチ囚人服のどこに隠せるというのだろう。
 俺のようなゆるゆる法衣は素通りさせるのに。
 ま、俺は服の下に隠すなんて三流のやることなんかしないけどね。
 隠すなら別空間に隠す、魔導士らしく、絶対にバレないように。




 労役が終わり、夕食前のひととき。
 俺はさっさと大浴場に行き、空いている内に体を洗う。
 こういう施設があるこの牢獄は本当に恵まれていると感じる。
 リンク王国では平民はお湯で体を拭うことができれば贅沢だと言われるのだから。
 平民より扱いが悪くなるはずの捕虜が使えるのはありがたいことだ。

 ただし、使用時間を誤っちゃいけない。

 コレもまた帝国の皆様がお楽しみにするための娯楽場の一つである。
 お気に入りの捕虜を大浴場に連れてきて、湯船でお楽しみするからである。
 捕虜が恵まれているというより、この牢獄は帝国軍人のための娯楽施設で、恵まれているのは帝国の軍人ということになる。

 俺はその恩恵にあずかっているだけである。
 多少の注意を払えば、ソレに巻き込まれることもない。

「こんな風呂まであるなんてなあ」

 しみじみと呟いたのは同じ広ーい湯船に浸かっていたセリム氏である。
 完全なる独房にいた彼が湯船に浸かるのは久々だろう。
 知っていると思うが、貧相な俺以外は全員、良い筋肉だ。
 本日の彼は牢獄説明で一日が終わった、いや、セリム氏にはもうひと仕事あるか。
 ひと仕事と言うには、これからが本番な気もする。もしかしたらもうひとっ風呂浴びることになるかもしれないが。

「セリム様、痔の具合はいかがですか?お湯がしみたりしないですか」

「あ、ああ、昨晩つけてもらった薬で調子が良くなった。そういやあの薬はどこで手に入るんだろう。看守が取り扱っているのか?」

「アレでしたら俺が物々交換で販売してますよ」

 俺の言葉で、セリムの動作が一瞬とまった気がしたのは気のせいか?

「ええっと、塗り薬の方か?」

「塗り薬も飲み薬もありますよ」

「あ、、、っと、あの、その飲み薬、痔の薬じゃなくて媚薬じゃないのか?」

 しどろもどろ赤くなって言うセリムに、今度は俺の方の動きがとまった。
 そんな効能はないはず、、、ん?
 使用していた薬草に過剰摂取すると興奮状態になるものが含まれていたな。適量では血液や皮膚を活発に作るための薬草だ。いや、過剰な量だからそんな量は飲まないはず。

 あれ?
 この小瓶でも一週間以上の飲み薬。本来ならば、一口で充分の飲み薬だ。

 あっ、ああ、だからコイツら、ほとんどが恋愛対象は女性だったはずなのに、男性からの行為をこんなにも受け入れていたのか。
 うん、納得。

 え、でも、これ、俺のせいじゃなくない?

「セリム様も一日一本の人だったとはっ。そりゃ、一週間分の薬を一日で飲めば、意図しない効果も出てきてしまいますよっ」

「ええっ、あの薬一日一本じゃないのかっ。一本丸ごと飲まされたぞっ」

 風呂で騒ぐ馬鹿たち。
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