その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社

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1章 敵国の牢獄

1-13 外

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「うおおおおぉーっ、外だ外ーーーっ」

 歓喜。

「そんなに喜んでもらえるとは思っていませんでした」

 万歳して喜んだ俺に、監視役が柔らかい笑顔で微笑む。
 現在地、オルド帝国帝都にある帝城の正門横のお勝手口を出たところ。

 そこに二人。
 おのぼりさんと、にこやかに笑う帝国の監視役。
 そう、たった二人なんだよなあ。
 参加者たった一人の教会へ行こうツアー。うんうん、あの掲示板にあったメモ、小さすぎて誰の目にもとまらなかったみたいだね。
 でも、気にしないよ、決行してくれれば。捕虜が大勢いれば、監視の目も緩むはず、って思っていたなんてことはー。


 近くに門番や観光客はいるが気にしない。
 喜びを表すのが先。
 久々だな、外に出るの。それが敵国の帝都だったとしても。

 距離が近いからといって、大教会まで徒歩での移動。
 確かに広場を挟んですぐだけど。
 目的地が目の前なので迷うはずもないし、馬車で移動する方が面倒なのは言うまでもないが、捕虜を堂々と歩かせていいのだろうか。

「、、、あの、捕虜につける監視がたった一人でいいのですか?」

 さすがに徒歩でも、逃亡されたら困るから複数人で囲うんじゃないでしょうか?
 せめて、二人はいた方がいいんじゃない?
 こちらが心配するレベル。
 遠距離からの監視もされていない気がするんですが。
 帝国は捕虜がどこに逃げようとも魔法か何かで追跡する自信があるんでしょうか?
 俺に逃亡仲間はいないので、どこかの組織を一網打尽とか考えているなら意味のないことですが。
 それとも、筋肉のない俺はどこぞへと消えてもどうでもいいのですかね?

「監視というよりも、私は教会への案内役と思っていただければ。私は軍人といえども、非戦闘員の文官ですので」

 にこやかさんはそう言いながら、俺が逃げようとした瞬間に首でも斬り落とすんじゃないですか?
 長い金髪を束ねた優男を演じながら、実は手練れだからこその一人っていうオチじゃあ。
 案内と言っても、見えているすぐ先の大教会を見失う方向音痴はいないのではないでしょうか。
 監視役で間違いないでしょ。

「貴方が本気で逃げようとしたら、どれだけの兵力を動員してもとめるのは難しいという判断です。ならば、被害は最小限の方が良いというのが上が下した結論です」

 にこやかーに説明しているが、いったいどういうことなのか。
 この監視役の能力、実は自爆とか?
 被害は最小限を望むということは、帝国の味方を巻き込みたくないということなのかも?

「俺、首輪つけたままですけど」

 訳→魔法使えませんけど。
 魔導士が魔法を使えなかったら、体力も筋力もないので短距離走で捕まる。
 走る気は毛頭ないけど、足はこの人の方が速いだろう。俺は帝国軍人の誰よりも遅い自信がある。

「ソウデスネ」

 受け答えがカタコトになった気がしたのは気のせいか?
 
 首輪はつけているけど、白いマフラーを用意してもらえた。
 第三者には俺が捕虜だということがわからない配慮。
 リンク王国では平民に対して絶対になかった気遣いが嬉しい。

 大教会に向けて、足を進める。
 帝都にある大教会はかなり前に建てられた歴史的建造物。大きくて威厳がある造りだ。広場には観光客も多いが、信者ではないと内部には入れない。なので、一般の観光客は大教会をこの広場から眺めて終了。帝城も観光客を中には入れない。
 人が少ない場所を選んで監視役は進んでいく。
 俺も観光客と同化して、周囲をキョロキョロと見渡す。

 さすがは帝都。
 重厚な街並みが重苦しい雰囲気を醸し出しているぜ。
 訳→歴史的建造物が多くて見ごたえがある街ですね。本当の観光がしたいくらいです。

 捕虜の身では無理か。

「外ではもうこんなに寒くなっているんですねえ」

 俺は白い息を吐く。
 魔導士の法衣を着ているのでそこまで寒くはないが、肌が出ている部分は冷たい。
 牢獄は温かいのでここまで冬になっているとは気づかなかった。

「ああ、今の牢獄は帝城内とさほど変わらない温度に設定していますからね。クロウ様に風邪でも引かれたら大問題です」

「、、、クロウ、様?」

 え?何かの罰ゲーム?
 それとも冗談?
 第三者に捕虜とわからないように?いや、そんな理由なら、様をつける意味がわからん。

「あっ、私が軽々しく名前を呼ぶのは失礼でしたね。魔導士様の方がよろしいですか」

「え?俺、捕虜ですが、何で様なんてつけるんですかね?」

 二人で首を傾げ合う。
 にこやか監視役は笑顔のままなんだけど、眉が少々困惑気味だ。

「えっと、クロウ様は捕虜なんですけど、捕虜じゃないですよ?あっ、看守たちに何か言われたりしたんですかっ?」

「え?俺、捕虜ですよね?看守は筋肉のない俺は避けて通るくらいですよっ?」

 話しが噛み合ってない?
 この監視役に俺についてどんな説明をしたのか。

「ああ、それに俺は魔導士ですけど、平民ですから」

 にこやかさんが真顔になった。
 俺、変なことは言っていない気がするんだけど。

「リンク王国ではともかく、我が国では貴方が平民であることは関係ありません。貴方の功績は称えられるべきものであって、貶されるものではございません」

「ん?」

 功績って、俺、何かした?

 不老のこと?
 たぶん、面倒事だから、ナナキ氏はそこまで広めていない気がするんだが。
 興味は山ほどあったにしても。
 功績というからには、これからのことではない。

 俺、魔導士として新たな魔法を生み出したとか、素晴らしい研究結果を発表したとかの実績ない気がするんだけど。

 落とし穴から第四王子部隊の騎士全員を救ったことかなー?
 でも、アレくらいなら帝国の魔導士だってできそうだ。

「、、、誰かと間違ってません?」

「あ、いえ、正当な評価をしないリンク王国がおかしいだけです。我々は貴方を歓迎いたします。こちらが目的の大教会です」

 リンク王国がおかしいだけかあ。
 結局、わけがわからないまま、目的地に着いてしまった。

 にこやかさんが大教会の中央にある大きな扉を開けると、一人の男性が中で待っていた。

「お約束の時間通りですね」

 柔らかい笑顔をこちらに向ける男性だが、にこやかさんの笑顔よりも遠くに感じる。
 聖職者の白い衣装、首にかけている長細い金色の帯も細やかな刺繍が施されている。

「こちらの魔導士様がお祈りを捧げたいということでしたのでお連れ致しました」

 にこやかさんがスッと白い布地に包まれたものを聖職者に差し出した。
 聖職者は両手で受け取る。

「心からお礼を申し上げます」

 その態度は堂々としている。
 渡したものは寄付金だろう。
 袖の下とか賄賂とかそういう類のものではないかのような、一切の卑屈を感じさせないものだ。

 勉強になるねえ。
 堂々とした態度は絵になる。
 いくらくらい包まれたのだろうか。

「本日は魔導士様にこの教会についてのご説明ということでよろしいでしょうか」

 様ってやめてほしいなあ。
 呼ばれ慣れてないからむず痒い。
 にこやかさんが魔導士様って言っちゃったからそう言うのもわかるけどー。

 ハッと気づく。自分の姿。
 この聖職者と争えるほどの純白の魔導士法衣は刺繍たっぷりの戦衣装ー。
 魔法で綺麗にしているから、限りない白さも維持されているよー。
 第四王子部隊だから支給された制服も立派なのである。
 中身が平民だとは思えない服装だよ。
 牢獄に捕虜としていたから感覚が狂っちまっていた。
 囚人服を支給されていないのに、俺の服装が変わったら怪しまれるからねえ。

「魔導士様、こちらです」

「あっ、説明の後、お祈りの時間も欲しいですっ」

 キラキラに微笑む聖職者が、さらに遥か遠くにいるように感じてしまった。
 あれ、俺、何か変なこと言ったか?
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